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らせんのきおく  作者: よへち
結月編
182/205

第182話 『その後』



「説明してくれんだよな?」


『本日休業』の札を出した鳥料理の店『ガイル』。さっそくの説明をギムに求められる祐樹たち。だがルークにはその前にやるべき事がある。


「あらためて紹介するぜギム伯父さん。俺と結婚することになったユヅキだ」


「ユヅキです、よろしくお願いします」


ユヅキも席を立ち、ギムに頭を下げる。


「あ、いやまあそりゃ先にユーキからも聞いてんけどよ。そっか、挨拶が先だな。俺がコイツの親がわりのギムレットだ。こんなヤンチャなガキだが末永くよろしく頼むぜ」


これでひとまず全員が着席した。祐樹としず結弦ゆづる、ルークとユヅキ、ギムとエイダ、そして圧の強い面々のエイエン、それにハルカ

ガイルは『そんな恐ろしい話に巻き込むな、怖い』と言って店に休業の看板を出すと新妻であるネコミミ眼鏡メイドの『リリ』と共に出かけて行った。


「んでさっきの一幕だが、ありゃなんだ?」


『さっきの一幕』とは、ルークが教会から勅命を受けた魔王討伐、そしてルークにこの地の統治を任せる命令までの一連の流れ。

祐樹は何をどこまで話して良いものか思案するのだが


「ねぇあなた。ルークはもう全部知っちゃったしギムさんにも全てを話すべきだわ」


『もうみんな家族なのよ』というしずの言葉に祐樹も心を決め、全てを話す。


ハルカがこの世界そのものである事。

そのハルカを創造した『古代人類』が遠い昔に存在しており、自分たち家族がその古代人類の再生体である事。


そして、ここが現実に存在する世界ではない事。


「本来は穏便に事を済ませたかったんだけどさ、さっきまでルークを乗っ取ってたアレがルークの事を『魔王を討った英雄』って公言しちゃったからさ」


なので苦肉の策として『ルークが魔王を撃ち、英雄としてこの地を統治する』という筋書きを描いたのだ。


「あら苦肉の策とは失礼ね。いいアイデアじゃない」


しずはそう笑うのだが、その話の中心、当の本人であるルークは若干の困り顔だ。


「でも統治つったってよ、俺ってば何すりゃいいんだ?」


『領主って事だよな?う〜ん』とルークはユヅキと顔を見合わせながら首を傾げ、腕を組んでうなる。


「まあそれもおいおい考えねばならぬ事じゃがな。じゃがその前に儂からルークに一つ良いか?」


エイのその言葉にルークは姿勢を正す。


「ルークよ。先ほどの手合わせ、あの時の動きじゃがおぬし『転移』が使えるのか?」


「あ、はい。ですが…」


あの『魔王vs英雄』というかたちを借りたエイとルークの手合わせ、もとい卒業検定。その中で一度だけルークはメサイアの持つ技術『空間転移』を使った。

だがルークとて仕組みがわかっていてその『転移』が使えるというわけではないようだ。ルーク自身も首を傾げている。


「その仕組みについては今度メサイアにでも聞くがよい。それよりその転移もそうじゃが、おぬしあの手合わせの中で『魔法』を一切使わなかったな。手を抜いたという訳でもなさそうじゃったが、なぜじゃ?」


するとルークはエイを真正面に見据え


「エイ先生。俺は…俺自身が強くなりたかったんだ。前にあの丘を削った光の礫とかメサイアが残していった転移とか、それも力と言っちゃあ力なんですが…」


ルークは目撃した、エイが連なる山々を一瞬で消し去るのを。その気になればこの世界をも消し去る事の出来る『力』がある事を、この世の全てを圧倒する『力』が存在する事を知った。

そして気づく、『力』の大きさに際限などない事に。自身の知る『強力な魔法』、そんなものより遥かに強い、不条理にも理不尽にも全てを蹂躙できる『力』が存在し、魔法の優劣など文字通り『どんぐりの背比べ』でしかないという事に。


それを経て、ルークのたどり着いた『強さ』の答えとは


「俺は思ったんだ、魔法ってのはあくまで手法で手段、戦いの手札の一つです。でも俺は俺の力で、エイ先生が教えてくれた俺の力、それとユヅキが叩き込んでくれた剣技でエイ先生に挑みたかったんだ」


そう言って拳を握り、師匠エイを見据えるルーク。

ルークは強さを相対的な何かではなく、自分自身の中に求めたのだ。


「カッカッカッ!あっぱれじゃ!よう成長したのルークよ!儂がおぬしに教えることはもう無いようじゃ」


エイは快活に笑うと『エンよ、例のモノを頼む』と言う。するとエンは『んしょ、』と重そうな二つの長袋をテーブルの上に置いた。

エイはその一つを手に取り


「ルークよ、免許皆伝じゃ。これを受け取れ」


長袋から出てきたのは一本の『大剣』。今まで使っていたモノと同じような大きさだが、まとっているオーラが明らかに違う。そこにあるだけでその存在に力を感じる。

そして剣身に彫られたその銘


静樹セイジュ


「おぬしの為に儂がこしらえたモノじゃ。覚悟を持って受け取るがよい」


それを手にした瞬間、ルークはこの世界に『軸』を得たような安堵感に包まれた。例えるのならばこの大地に強く根を張り何万年も静かに佇む『世界樹』、それを彷彿させるような強固な安定感と安心感を与えてくれるその大剣。

ルークはその感覚に身を委ね、そして


「ありがとうございます、これからも精進します」


そう言って大剣を手に深々と頭を下げた。エイは満足げに頷くと


「うむ。でな、こっちがユヅキの分じゃ」


そう言ってエイがもう一つの長袋から取り出したモノは…


「あ、これって…」


「うむ。ルークの静樹セイジュついをなす刀じゃ」


それは一振りの刀。ユヅキはそれを受け取り、鞘から少し刀身を覗かせる。その白く輝く刀身に刻まれた銘は


弦月ゲンゲツ


「あの刀はな、偶然とはいえ世界をも破壊する力を得てしもうたのじゃ。だから二つに分けさせてもろうたぞ」


「偶然?」


元々は無銘の刀だったあの刀。しかしユヅキに頼まれた祐樹が家族全員の名をエンに彫らせた。その結果、予期せぬモノが生まれた。


「まさか現存する古代人類全員の名がそんな力を持つとはな。誰も想像すらせなんだのじゃ」


ハルカの管理権限を捻じ伏せ、そのハルカの奥の手とも言えるメサイアをも屠り、さらには世界の改変すらも可能にしてしまう、まさに『危険物』となってしまったあの刀、『イツキシズカナル弦月ゲンゲツ』。

それは誰にとっても『想定外の産物』だったのだ。


「え、て事はみんなあの刀の『力』を知らなかったの!?」


あの時、銘を彫られた刀を持った瞬間にユヅキは『真の世界の姿』を理解した。

それを知っていたからこそ、だからこそユヅキはメサイアに対して死すらもいとわぬ攻勢に出られたのだ。

楽観視していたのだ、結果として結弦ゆづる一人でも『古代人類(最高権限者)』が生き残っていればなんとかなるだろうと。

だがそれをそうとは知らなかったあの時の両親。すなわち二人はあの場でおのれの死を受け入れたのだ。そのはは祐樹ちちを見ると


「え、私?私は…前は祐樹に先立たれたからね。今度は私が先に死ねるのならまあいいかしら、てね」


「俺か?俺は…そうだな、お前たちもしっかりしてるからな、俺がいなくても大丈夫だろ。俺はしずのいない現世に未練はないんだよ」


そう言って微笑み合う祐樹と静(バカ夫婦)


「何も知らずに残された僕の事も少しは考えてよ…」


そしてあのときあの場で一人残された結弦ゆづる。何も知らずに半狂乱で叫んだ事、そしてそれをハルカには聞かれていた事を思い出し、深く、それは深くため息をついたのだった。



---



こうしてルークはユヅキと共に離島の街・ナワを統治する事となった。

この島の出身であり、魔王を撃ち滅ぼして英雄の称号を得た『ルーク・グリムウィン』。その雄々しき名をこの島の名に、と推す声を受けて中央教会ハルカはこの島を『グリムリッド皇国』と命名した。

のちにルークは初代皇帝として即位し、ここに若き皇帝が誕生したー


っと、」


続きを書こうとした結弦ゆづるは、そこで一旦ペンを置く。

扉の向こうに来客の気配を感じたのだ。書き込んでいたその手元の本、『史記』をそっと閉じる。


コン、コン、コン、


「どうぞ」


「「失礼しまぁす」」


結弦ゆづるの元を訪れたのは二人の少女。


「マジマ先生、先日の集計結果と頼まれていた資料です」


「ありがとう。ご苦労様です」


そう言って少女たちの持参した資料を受け取り、結弦ゆづるはそれに目を通し始める。

と、少女の一人が机の上にあった本に目を留めた。


「あ、ユヅ兄またこの本書いてたんだ」


そう言って少女はその本を手に取る。が、開かない。


「…学園ここではその呼び方はダメだと言いましたよね、スペンサーさん」


いいじゃん誰も見てないんだし、とその本を手に口を尖らせるニース・スペンサー。スタンとミラの娘だ。そして


「あ、でもその本、わたしは開けるんだよ」


本をニースから受け取り、ペラペラとページをめくるもう一人の少女『ロジー・ヨシイ』。


「まあ貴女あなたたちに見られて困るような記述はありませんから。別に構いませんよ」


自由な二人の少女にため息をつく結弦ゆづる。するとそこへ


結弦ゆづる様。よろしいでしょうか」


突然部屋に現れた一人の女性。透き通るような水色の髪を持つ教皇服姿の美しい女性だ。

その女性の出現にニースとロジーは即座に壁際へと控え、ひざまずかないまでもこうべを垂れて黙礼の姿勢をとる。


「やあハルカ。君がここに来たという事は…」


「はい。たった今、無事お生まれになられました」


玉のように輝く美しい女の子です、と言って微笑むハルカ。壁際に控えていたニースとロジーも笑顔で顔を見合わせると手と手を取ってぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。


「そっか。これでヅキ姉も母親かぁ」


あれから四年。領主となったルークは本当によく頑張っていた。自分に出来ない事、わからない事は上手に人へと任せ、自分は自身に出来る事を着実にこなしていった。

その一つが『魔獣討伐』。

何度も何度も討伐隊を率いては強い魔獣たちを屠りつづけたルーク。その甲斐もあり今ではあの島の危険度も相当に下がったという話だ。

そしてそんなルークの横で同じく刀をふるい、彼の背を護りながら魔獣を屠った女性『ユヅキ・グリムウィン』。戦乙女ヴァルキュリアと噂されるルークの妻。

そんな日々を送るうち、二人は誰もが認める領主となり、そして皇帝となった。


今や二人はまさに島の、いや、『グリムリッド皇国』の人々が誇る『皇帝と皇后』だ。


そんな二人の間に、たった今さっき待望の第一子が生まれた。


「そっか、女の子か。じゃああの話はどうするんだろうね」


今から三年前。グリムリッドとは真逆、西の果てに位置する『グリムル』で一人の男の子が誕生した。

父は現グリムル王『リカルド・グリムウィン』。母は王妃『アマンダ・グリムウィン』。その二人の間に誕生した男の子『リオン・グリムウィン』。

もしルークのところに女の子が生まれたらウチの長男と婚約させないか、という話だったのだ。

そのアマンダの提案に対しルークはかなり渋い顔をしていたのだが。


「ま、あいつの事だから『ウチの娘は絶対に嫁に行かせん!』とか言っちゃうんだろな」


そしてユヅキに娘が生まれたという事は…


「そっかぁ…『じぃじ』と『ばぁば』になっちゃうんだね、父さんと母さん」


それなりに落ち着いてくれたらなぁ、と結弦ゆづるはため息混じりに机の上の手紙に目を落とす。祐樹としずから届いた手紙だ。だが差し出し場所は大陸の北の外れにある港街、カブールではない。

四年前のドタバタ劇の後、二人はカブールに戻ってご近所さん達と始めた事業に専念していた。だが一年前にその全てを皆に譲渡、あの家までも若い男女に譲り渡して二人で旅に出た。


その行く先々からこうして手紙が届くのだ。


だがその手紙の内容は旅先の珍味の話であったり、祐樹がいかにカッコイイかを説くはは惚気のろけ話であったり、まあそれだけあの二人の現状が平和だという事なのだろう。

ルークにも随分と歳の離れた従兄弟が誕生した。ギムレットとエイダの間にも子が生まれているのだ。そのうち僕にも歳の離れた兄弟が、孫より歳下の叔父か叔母が誕生する日が来るかもね、そう呟いて結弦ゆづるは苦笑し、周りを見渡す。


そこにいるのは結弦ゆづるにとって恋愛対象外な妹分の少女が二人、そしてA.I.美女が一人。



「僕にも春は来るのかなぁ…」



その呟きは誰に聞かれることもなく、結弦ゆづるはただ苦笑するのだった。









これにて第四章『結月編』閉幕です。

次回より第五章『結弦編』が始まります。

オチ担当・結月ちゃんから不憫王・結弦くんへとバトンパスですね。彼には是非とも幸せになってもらいたいものです。

第五章の舞台は一応学園なのですが、話の内容的には学園モノになる予定も、そして長くなる予定もありません。


その後に終章を加えて『らせんのきおく』完結とする予定です。今しばらくのお付き合いを宜しくお願いします。







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