表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
らせんのきおく  作者: よへち
結月編
180/205

第180話 『世界』



「ねぇハルカ。あなたはまだこの世界の存続に反対?」


そもそもこの一幕はそこから始まった。ハルカはこの世界を不要と断じたのだ。


しず様の命令は承認されました。この世界シミュレーションは今の人類が滅びるまで継続されます」


「けど不服って感じね」


しばらくの思考の後、ハルカは口を開く。


「…私はこの世界シミュレーションを無駄な時間の浪費だと考えます。なのでしず様の考えをお聞かせ願えますか?」


「そうね。そもそも何を無駄だと言うのなら地球に人類がいる事そのものが無駄なんじゃない?」


人がいようがいまいが世界は絶対的に時間が流れ続ける。万物は緩やかに崩壊へと傾き、いつか必ず終焉を迎える。永遠なんてものはどこにも存在しない。

そしてそこに人類の観測の有無などは全く関係ない。ならば世界にとって人類の存在こそどうでも良い、それこそ無駄そのものだ。


「考えてもみなさい。世界を、宇宙を絶対的なモノと捉えてそこに存在を必要とするモノなんてあると思う?」


私たちがそのごく一部しか知らない広大な宇宙。これだってもしかするとどこかの世界のとある物質を構成する電子核の一つなのかもしれない。

もはやそんな事を、何を必要とし何を無駄とするかを論ずること自体が無駄なのだ。


「それにハルカ、あなたわかってないわよ。人ってね、ホント無駄なモノが好きなの。まあその際たるモノが…『感情』かしらね」


生物は進化の過程で本能や思考とは別に『感情』を得た。そして人類はそれが邪魔で無駄なモノだとわかっても捨てられなかった。


「だってそれが『人間』だもの」


狂おしいほどに慈しみあい、愛しあい、憎しみあい、そして殺しあう。感情が思考を支配し、時に過ちをおかす。簡単な算数で出る答えをわざわざ遠回りして解き、そしてそれを間違える。

その無駄こそが人の人たる所以ゆえん


ハルカ。あなたがシミュレーションという『実験』に対して無駄なく正しい『結果』を求めるっていうのは私にもわかるわよ」


しずも過去は研究者だった。実験に対して結果が必要な事くらい誰よりもよく知っている。ましてやハルカは擬似人格、コンピュータなのだ。その傾向はより強いだろう。


「あなたが『無駄』だと考えて排除してきたモノ、それは世界には不要だったかもしれない。でもね、それはきっと人類にとって必要不可欠なモノだったと私は推測するの」


「…その省いたモノが、例えるのでしたら『心の狂った残忍な凶悪犯』だったとしてもですか?」


ハルカが作ったこの世界。シミュレーションとはいえ『ハルカの望んだ世界』。そこに悪人や犯罪者はいようとも『矯正の効かない許し難き凶人』は存在しなかった。ハルカが『人』に対して夢を見すぎて無自覚に調整していたのかもしれない。


「ええそうよ。それも人にとっては必要なモノよ」


怒りは憎しみを生み、悲しみにつながるのかもれない。しかしその悲しみを強さに変えられるのもまた『人』だ。


「綺麗事だけじゃダメ。人類には瀉血しゃけつも必要なの。私は知らないけど今までのシミュレーションでその要素が省かれてたのなら、そのせいで成功しなかったんじゃないかな」


他者とぶつかる事で血は流れる。だが感情や想いがあれば、合理や計算を超えて他者と強くつながる事もあるのだ。


「だからハルカ、これから先この世界の人類をよく見ておきなさい。このシミュレーションはあなたの本来の目的である『現実世界の人類再生』のガイドにはならない、けどあなたが『人』を知るのに絶対に無駄にはならないわ」


ハルカしずの言葉を熟考すると


「わかりました。ではわたくしはこの世界の行く末を見守らせていただくことにします」


納得を得たのか、ハルカはそう言って微笑んだ。


「メサイアもそれでいいわよね?」


しずハルカにそう呼びかける。するとハルカの髪色が漆黒に変化した。


「私はtype034を守る存在です。type034が承認し世界が実行されるのであれば私が言うことは何もありません」


そう言って瞳を閉じるとその髪が元の水色にもどる。


「きっとね、人類、いいえ『生物』には『目的地』があると思うの。ずーっと遺伝子を掛け合わせ続けて気の遠くなるような遠い時間の果てに行き着く目的地が。本来はハルカの目指すべき場所はそこなのかもしれない、けど今回はその事は考えずにこの世界を楽しみましょう」


現実世界の続きはあなたに任せるわ、そう言ってしずは笑う。


「ま、私は誰が何と言おうと祐樹と再会できたこの世界が最高にいとおしいのだけどね」


と祐樹の腕に手を絡めるしずは一件落着な感を出している。


「また結弦ゆづるには不憫な思いをさせてしまったみたいだな。いつも悪いな」


と謝る祐樹。だが…


「いいよ父さん。母さんもヅキねえも無事に戻ったんだしさ。それはいいんだけど…これからみんなで元の状態に戻るんだよね?ルーク、君たしかギムさんを殺そうとして剣を突きつけてなかったっけ?それどうすんのさ?」


結弦ゆづるにそう言われ『あっ!』と変な声を出して青ざめるルーク。メサイアに操られていたとはいえ、どうやらその時に見たモノやその時の記憶はあるらしい。


「ねえハルカ、あっちってどうなってるの?」


こことは違うマトリクス。メサイアに操られていたルークが英雄としてナワの街を訪れ、教会の面々を率いて祐樹としずを消去しに来たあの場面だ。


「あちらのマトリクスは、私たちがこちらに移動した瞬間から停止状態です」


ならばこのままあちらに戻ると、ギムへと向けられたルークの剣をしずが阻止したところから再開されるわけだ。


「そうね、そこから辻褄が合うように、で、キチンと落着するような話となると…」


『う〜ん…』と考え込むしず。そしてマンガのように手を『ぽんっ!』と叩くと


ひらめいた!」


そして不敵な笑みを浮かべ



「ねえハルカ、とりあえずエイエンを戻してちょうだい。いい筋書きが浮かんだわ!ふふふっ、祐樹もユヅキも知ってるでしょ、私って意外と脚本とか考えるの上手いのよ」



『やっぱ私って天才!』と高笑いするしず

だが祐樹とユヅキ、二人は思った。もう誰の首も飛ばなきゃいいけどな、主に物理的な意味で。と。











ま、しずの脚本ですからねぇ(笑)








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ