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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第018話 『ガチンコ』



「なぁユーキ、お前ぇさん本当に何も持たなくていいのか」


「ああ。俺は加減があまり上手くないんだ」


祐樹は無手を選択。それを耳に挟んだルークは怒りの表情で祐樹を睨みつける。


「それよりここは本当に誰も来ないんだよな?」


「ああ。ここは袋小路だ。表には人を立たせてある。元々こんな時間に誰かが来るような場所じゃねぇ。大丈夫だ」


「けっ、そんなに負けるところを見られたくねぇのかよ!心配すんな、明日にはみんなに言いふらしてもう街を歩けなくしてやんよ!」


ルークの罵声に苦笑いで肩を窄める祐樹。

互いに一定の距離を取り、向き合う。


「はじめっ!」


エイの合図で対決は始まった。


「死ねっ!」


始まるや否や神速の横薙ぎで木剣を薙ぐルーク。

だが[加速]を発動していた祐樹は軽々と跳んで木剣を躱す…はずが、ルークが薙いだまま木剣を止めてしまった為、祐樹は木剣の上に着地。


「なっ!?」


祐樹はルークと一瞬だけ目が合うと、苦笑して後方宙返りで後ろへ跳び距離を取る。


だが今度はその距離にニヤリと笑うルーク。

すぐさま魔法[フロストスピア]を複数生成、着地した祐樹めがけて順次放つ。


さすが猿山のボスを気取るだけの事はあるのか、剣も魔法もなかなかに素早いルーク。

だが祐樹の反則的な素早さと身軽さには到底及ばない。


祐樹はルークへ向かって走りながら次々と飛んでくる氷の槍を躱す。普通の人間にしてみれば機関銃で撃っているのに弾を躱しながら走り寄られるようなものだ。その光景にルークは驚愕する。


ついには最後の一発を裏拳で弾かれ、祐樹に接近を許したルークはその刹那、額に衝撃を受け後方へ吹っ飛ばされた。


朦朧とする意識で立ち上がり、木剣を拾うルーク。だが膝は笑い、腰も安定していない。その様子が祐樹のでこピンの威力の凄まじさを物語る。

そしてルークは、ここへきてやっと自分が祐樹を見くびっていた事を自覚した。

と同時に尊敬する伯父の言葉を思い出す。


『俺だって自分より強ぇヤツと戦う事もあったぜ。だがな、どんな強ぇヤツだって冷静さを失って負けちまう事もあるんだ。だからルーク、お前ぇも絶対に冷静さだけは失うな。頭は冷たく、心は熱く、だ』


ルークは深く息を吸い、息を吐く。

それを何度か繰り返す。

ルークの眼から嘲りや侮蔑の色が消え、真剣味を帯びてゆく。

それを見た祐樹も顔から笑みを消し、[加速]を解除する。



流れる沈黙



数呼吸の後、先に動いたのはルークだった。

薙のフェイントを入れた突き。

ルークにとっては会心の突きだった。

が、祐樹はそれをさらに踏み込んで半身で躱し、ルークの突きの勢いをそのままに、ルークの腕に手を添えて腰を支点に一回転させ、地面に叩き落とした。


何が起きたかわからず茫然自失のルーク。

首元には祐樹の手刀が添えられている。



「そこまでじゃ」



ルークは負けた。悔しさも何もない。完敗だった。



---



「すまなかったな、手を煩わせちまって」


あらためて店へ戻り席に着く祐樹達。今度は例の魚と酒も頼む。


「まあ若い時分にはよくある事だろ。俺にも憶えがあるよ」


ルークは家に帰された。案外おとなしく帰っていったようだ。失禁したままというのも祐樹は少し気になっていた。

後日またあらためて頭を下げさせる、と言うギムに祐樹は


「いや、もう俺とルークの中で決着は付いたから、もういいよ」


おとなしく帰ったところを見るとルークなりに納得したのだろう。


「重ね重ねすまねぇが、ユーキ達の旅にルークを同行させてやってくれ。死んでも文句は言わねぇ」


「儂がおる限り死ぬ事はありえん。安心しろ」


と、エイの強気の発言。


「しかしユーキ、お前ぇさん強ぇだろうとは思ってたが、なかなかにやるもんだな!」


「そうじゃな。前半の動きは普段の狩りと変わらぬ乱暴な動きじゃったが、後半のアレは儂も初めて見たな。良い動きじゃった。なんじゃったんじゃアレは?」


乱暴な動きってのは祐樹としても心外だが、側から見れば時間と重力を無視したような祐樹の動きはそう見えても仕方がないのだろう。


「後半のアレは『呼吸を合わす』というヤツだよ。家内が剣…の達人だったんだ。彼女に教わったんだよ」


「なにっ!ユーキおめぇ結婚してたのか!」


「ん、ああ。でも遠く離れてしまってさ。もう会えないかもしれないんだ」


「そうなのか?剣の達人なんだろ、生きてりゃまた会えんじゃねぇのか」


「ああ、そうだな」


「で、『呼吸を合わす』てどうやんだ?」


サラッと話を戻すギムに救われる祐樹。

こういうのは説明するより実際にやった方が早い、と祐樹はテーブルにギムと向かい合って座り、紙を丸めて作った棒を2本、左右に置く。


「ギム、あんたのタイミングでその棒を取って俺の頭を叩いてくれ。俺はそれを必ず防御する」


「おっ、強気だな。こう見えても俺は剣の心得も少しはあるんだぜ?」


一瞬、自信のなさそうな目を見せた祐樹だったが、とりあえずやってみると…


結果、3回連続で防御に成功。


「う〜ん、結構自信あったんだがなぁ。ユーキ、こりゃどういう理屈だ?」


「じゃあさギム、攻撃に入る時までの呼吸を意識してみてくれ」


ギムは息を、吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、止めた。


「今だ」


「おお?なぜわかったんだ?」


「ギムに限らないけどさ、普通の人は皆、攻撃に入る時に必ず息を吸って止めるんだ。そのタイミングを見切る為に相手と呼吸を合わせるのさ。目で見て動くんじゃなく、動き方を予測し、呼吸でタイミングをはかる。それがあの動きだ」


「おお!すげぇなあ!俺ぁ剣の戦いなんて近付いて力任せに斬るもんだとしか思ってなかったぜ!」


ギムは感心しきりだが、そんなにたいした事ではない。これは祐樹と静がやってた暇潰しの遊びだったのだ。

ハンデとして彼女は棒を置いて、祐樹は棒を持ってのスタートだったが、何度やっても祐樹は一本も取ることが出来なかったし、一本も防げなかった。


「ではあの投げ技は何じゃったんじゃ?綺麗な動きじゃった。まるで2人で演舞でも踊っているようじゃったな」


「ああ、あれは『合気』といって相手の攻撃の動きを受け流して返す、受け身の格闘術だよ」


ただ、これに関しては祐樹はズブの素人だ。高校の体育の選択で1番楽そうだったからと祐樹が選んだのが合気道だった。

うろ覚えでやった体捌きが偶々上手くいっただけで、祐樹も内心では冷や汗ものだった。


「そうか。秘密が沢山ありそうだから深くは聞かねぇがユーキ、お前ぇさん相当な修羅場くぐってきたんだな。やっぱ俺の目に狂いは無かったぜ」


盛大な勘違いをするギムに真実を告げるか悩む祐樹だったが


「は〜い。お待ちどうさまで〜す」


そんなタイミングで酒と料理がテーブルに届く。


酒宴の夜の始まりだ。






『若い時分にはよくある事だろ。俺にも憶えがあるよ』

と祐樹は言ってましたが、あれはウソです。

案外おとなしい少年時代を歩んで来た祐樹の『若さ故の過ち』とは、まさに中学2年の時に厨二病を発症した黒歴史くらいです。

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