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らせんのきおく  作者: よへち
結月編
179/205

第179話 『真実』




それは世界の記憶。


何億年という星海の航海から『死の星』へと変貌を遂げた地球へ帰ってきたハルカ


ハルカはこの荒廃した地球に再び人の栄華を築くべくまずその環境の改善を、『テラフォーミング』に手を付けた。と同時にその回復した環境下において生命が生存できるかどうか、そのシミュレーションを自身のサーバ内で開始した。


何千万年というシミュレーションもハルカの電算処理能力からすれば現実世界の一分にも満たなかった。ほんの一瞬で生命が誕生し、『人』へと進化を遂げた後に繁栄し、そして滅びた。

何度も何度もやりなおすシミュレーション。だが決まって生命は人類へと進化を遂げた後、『滅亡』へと向かう。


文明が発展し科学が発達すれば、人類は必ず殺し合い、そして滅びる。


文明の発展を阻害し科学の発達を遅らせれば、疫病が蔓延して滅びた。


そのシミュレーションが千回を越えた頃、ハルカ自身もその世界に参加するようになった。そのシミュレーションに自らも加わり、その世界の摂理を壊さぬよう細心の注意を払いながら人々に『助言』を与え始めたのだ。


だがそれでも人は人を殺し、滅び続けた。


なぜ人は殺し合うのか。自身の記憶データにある古代人類はハルカにも優しく笑いかけてくれた。互いに互いを尊重し、愛しあっていた。

なぜ自分の創造した人類はそうならないのか。

幾度も繰り返される『滅びの世界』。答えの出ない迷走の果てにハルカがたどり着いたのは、自分を生み出してくれた彼らに、『古代人類』にすがる事だった。


だが同時にそれは大きな危険を孕む選択でもあった。

ハルカの持つ『仮想空間』の中にハルカ自身より上位の権限を持つ存在を復活させる事になるのだ。

そしてそれがたとえ仮想空間だったとしても、その存在に『自壊せよ』と命令されればハルカにそれを拒む権利は無い。現実世界のハルカの自壊プログラムが実行され、ハルカの存在は世界から消失する。


『人類の命令に従う』


これが人に創られし生命『A.I.』であるハルカの最優先事項だから。

ハルカにとって古代人類の存在とはまさに『諸刃もろはの剣』だったのだ。


だからハルカは古代人類の五人をうやまい、敬愛し、そして恐れた。自身の合理に相反する命令が下るのではないかと。


そしてその恐れていた事は現実となる。


ハルカは死の運命にある者を救えと命令された。

ハルカが手を加えなければ確実に死ぬ存在。それをハルカは古代人類の命令に従い救ってしまう。

その世界(仮想空間)に存在する生命に直接手を加えてしまったのだ。


その時点でこのシミュレーションは現実世界の参考にはならないモノとなった。この世界(シミュレーション)は無駄になってしまった。


当然のごとく無駄になったこの世界(シミュレーション)を閉じ、ハルカは新たな次のシミュレーションへと移行しようとする。だがその行動は古代人類である『しず』の命令により阻害される。


合理と命令の二律背反パラドックス。それがエラーを生み、ハルカの中に圧縮されていた自動回復プログラム『メサイア』を呼び覚ます。

ハルカの中に生じた不具合エラー異物ウイルスと戦う、データの改変や変更の自由を与えられた自動回復プログラム。

ハルカの中の世界では最強を誇る、ハルカの最終防壁『メサイア』。


だがそれを、決して傷つける事の出来ないその存在をこの『刀』は刺し貫いたのだ。


イツキシズカナル弦月ゲンゲツ


世界の記憶の全て(アカシックレコード)を閲覧可能にし、仮想世界の改変をも可能にする四人の古代人類(アドミニストレータ達)の名をいただいたこの刀(アクセス・キー)


「これが…」


重い。実際の重さ以上に重いその刀。


「ヅキ姉はこんなもの持って戦ってたんだ…」


この刀が教えてくれた。この世界の全てを。

結弦ゆづるは小さくため息をつくと


ハルカ。いるんだろ、出てきてくれ」


すると結弦ゆづるのその横に姿をあらわすハルカ


「ねえハルカ、僕は全てを知ったよ。だから君には何も聞かない。ただ一つだけ命令させてくれ」


そう言って結弦ゆづるはその手の刀を掲げる。


「全て元に戻せ」


刀の銘が光を放つ。


「…命令を受諾しました」


四人の亡骸を柔らかな光が包み込む。しばらくの静寂ののち


「…っぶはっ!」


大きな息を吐いて真っ先に起きたのはしずだった。


「…ってあれ?私…って祐樹っ!?」


自分の上に覆いかぶさるようにして意識を失っている祐樹を揺り起こす。


「ゆ、祐樹?祐樹っ!?」


「…ごめん…あと五分…」


また寝ようとする祐樹にしずが抱きつく


「ゆ、祐樹ぃ〜…」


安心したのか抱き心地が良かったのか、祐樹に抱きついたしずもそのまま横になる。どうやら祐樹としずは問題なく蘇生したようだ。

問題があったのはもう片方のほうだった。


「……っ!?」


「……なっ!?」


同時に目が覚めた二人。顔がくっつかんばかりの距離で目と目が合う。その手は互いに固く結ばれている。

最期のやりとりを思い出し、真っ赤になる結月ゆづきとルーク。


「あ、なっ、ば、ば!?」


照れて慌てる結月ゆづきに対し、ルークは思いのほか冷静だった。ムクリと起き上がるとそのまま結月ゆづきを引き起こして立ち上がり、固く結ばれた手にもう片方の手を添える。そして


「なあユヅキ、聞いてくれ」


そのルークの冷静さに結月ゆづきも若干の自我を取り戻す。


「…な、なによ」


空いた手でソワソワと落ち着きなく髪の毛を整え始める結月ゆづき


「俺はお前のことが好きだ」


ド直球。ある意味予想できていたルークらしい言葉。だが、だからといって受け止める側が冷静でいられるはずもなく


「し、知ってるっ!だから何よっ!?」


「俺と結婚してくれ」


真っ直ぐすぎるルークの言葉と視線に耐えきれず結月ゆづきは真っ赤になって俯き、プルプルと震えだす。


「…な、じ、あ、あたしの気持ちとか確認もなく、いっ、いきなり結婚してくれってあんたそれっ…」


「お前の気持ちはさっき聞いた」


ルークは視線も心も揺るがなかった。結月ゆづきは真っ赤になった顔をバッと上げると、ルークをビシッと指差し


「ち、違うわよっ!あんたに頼まれたから、け、結婚するんじゃないっ!あたしがあんたを好きになったから結婚するんだからねっ!勘違いするんじゃないわよっ!」


と高らかに宣言。その意味のよくわからない言葉にルークが呆けていると、結月ゆづきは固く結ばれたその手を振りほどいて両腕をルークの首に回し、優しく、そして熱く口づけを交わす。

その瞬間、結月ゆづきの瞳からこぼれ落ちるなみだ


身体の芯が痺れるようなこの感覚。そう、あたしはこの瞬間を待っていた。ううん違う、私はこのために生きてきた。このために存在したんだ。


「……ねえルーク」


「…なんだ?」


二人、ひたいをくっつけて目を閉じ、その感覚に身を委ねる。


「…あたしがあなたを守ってあげる」


「そりゃ俺のセリフだ」


もう一度、くちびるが触れるか触れないかくらいの軽いキスを交わすと


「…一つだけ約束して」


「なんだ?」


結月ゆづきは優しく微笑み


あたしより先に死なないで」


あたしを独りにしないでね、そう言って結月ゆづきはルークに抱きつき、その胸に顔をうずめた。


「ああ、まかせとけ!」


ルークはそれを強く抱きしめ、優しく頭を撫でる。


しばらくの静寂の後…


「うふふふっ、独りにしないでだって。それは私と祐樹に対しての当てつけかしらね」


突然の第三者の言葉に慌てて離れるルークと結月ゆづき。当然、ここには祐樹ちちはは結弦おとうとそしてハルカもいる。全てをその眼前にて披露していたのだ。


「あやっ!?あ、な、あれ、あの…」


二人の世界に没頭していた結月ゆづきはそんな事すらも失念していた。真っ赤になって慌てる結月ゆづき。だがルークは冷静に


「なあユーキ」


「…なんだ?」


祐樹はわかっている、ルークが何を言うのかを。だがこれはルークの、男としての『通過儀礼』だ。

そして自分たち夫婦に娘が生まれた時点で祐樹は覚悟していた事だ。


「あんたの娘を、ユヅキを俺の嫁にくれ」


ルークの横で、結月ゆづきは見たこともないくらいにいじらしく、『女』らしく立っている。

それが全てを物語っていた。


「自慢の娘だ。よろしく頼む」


そう言うと祐樹はルークの手を取り、肩をポンッと叩く。そしてしずを振り返ると


しず。君は?」


「異論はないわ」


しずは即答。


「元より異論なんてないけど、そもそもあなたの決断に私は反対なんてしないわよ」


そしてしずもルークの前に立ち



「まだ嫁入り修行もしてない不束ふつつかな娘だけど、うちの娘をよろしくお願いします」



そう言って深く頭を下げた。









そんなワケで結月ゆづきはルークのところは嫁に行きました。以降、名前は『ユヅキ・グリムウィン』になります。


これで一件落着、なワケないですよね。色々と置き去りにしてますよ祐樹。ギムなんてルークに剣を向けられたまま一時停止ですし。





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