表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
らせんのきおく  作者: よへち
結月編
177/205

第177話 『穿つ大剣』




そこにいたのは間違いなく『ルーク』だった。

だがギムもエイダも声をかけない。それどころか二人とも殺気にも近い気配をその『ルーク』へと向けて発し、身構えている。


「やあ。お久しぶりですねギム伯父さん」


手を広げて微笑む『ルーク』。


「…テメェなめてんのか?ルークがそんな挨拶するわけねえだろ」


幸い今、ギムは帯剣していない。いきなり斬りかかる事もないか、と祐樹が安心した次の瞬間、轟音とともに爆ぜる地表!『ルーク』のいたその場所は大きくえぐれ、そこに数本の『氷の槍』が突き刺さる。ギムがいきなり魔法を放ったのだ。

しかしそこに『ルーク』はいない。


「つれないですね、久々の再会だというのに」


その『ルーク』の声は皆の背後から聞こえる、速い!ギムはもちろん祐樹にも、しずにさえその動きをとらえる事ができなかった。そして『ルーク』からギムへと繰り出される殺意も何もない大剣の一閃!

それをしずが間一髪のところで刀で受け止める。


ハルカ、昨日あなたが救った命じゃない。また消すつもり?」


「……このターミナルの固有名は『ルーク・グリムウィン』だと認識しておりますが?」


しずの言葉に本気で意味がわからないといった表情を浮かべ、首を傾げる『ルーク』。


「違うわよ、外見の事を言ってるのじゃないわ。中身よ、あなたハルカなんでしょ?」


「私、ですか?私はtype034用パッチプログラムです。正式な固有名はありませんが『メサイア』と仮称されております。type034に生じた不具合を検知し、解凍されました」


どうやら本当にハルカではないらしい。


「まあ何でもいいわよ。あなたが用事があるのは私たちでしょ、それ以外の人は巻き込まないでくれない?」


「その指示を受諾します」


ルーク、いや『メサイア』がそう答えると祐樹としず以外の人物の全て、教会関係者から野次馬だった街の人までがみな消失した。


「なっ!?みんな『消した』のか!?」


慌てる祐樹。だがしずは冷静に


「違うわね。同じグリッドを持つ違うマトリクスに移動した、ってところかしら」


あちらからしたら私たちが消えたのよ、としず。メサイアは


「では私からのお願いです。祐樹様、しず様、結月ゆづき様、結弦ゆづる様、消えていただけないでしょうか?」


何かの気配を感じ、ハッと振り返る祐樹。そこには遠く離れた場所にいるはずのゆづき息子ゆづるの姿が。


「あ、あれ?父さん?ってええっ!?ここナワの街!?あたしたちさっきまでイミグラの中央教会にいたのに…?」


結月ゆづき結弦ゆづるもいきなり変わった周りの景色に呆然と周囲を見回す。

そんな二人の子供の無事な姿を見てしずは安堵し、そして意を固める。


「そうね。私たち家族はあなた達の世界に入り込んだ『最高権限を持ってしまったバグ』みたいなものよね。でも…」


そう言ってしずは刀を構える。


「あなた達の都合でこんな世界によみがえらせといて都合が悪くなったら削除って、そんなの道理が通らないわよっ!」


瞬時に斬りかかるしず。が、確実に捉えていたはずのその一閃は空を斬る。メサイアが消えてしまったのだ。漂う緊張感…


「そうですか。自ら消えていただく事が私たちなりの『温情』だったのですが…」


メサイアはしずの後ろにいた!その動きは誰にも見えない。仕方あるまい、それは素早い動きなどではなく座標移動、言うならば『空間転移』だ。


背後からメサイアが放つ大剣をしずは間一髪のところでかわす。


「ふんっ、温情ですって?どこまで上から目線なのよ。ようするに今ここに最高権限者わたしたちがいるからこの『仮想世界シミュレーション』をやり直せない、だからこの世界(シミュレーション)の中で物理的に消すって事でしょ」


しずのさらなる一閃。それも確実にメサイアを捉えていたのだが、しずのその手には空を斬る感触が。


「034セントラルプログラムが仮想世界の者に手を加えた時点でこのシミュレーションは意味をなくしました。早急に次のシミュレーションへと移行する必要があります」


大剣を振るうメサイア。瞬時に所定位置へと転移し、ありえない速度で襲いくる大剣。距離も間合いもあったものではない。さらにはそれに魔法も加わるのだ、こんなものしず以外の人間ならば瞬殺だろう。


「そうやってあなた達はいくつの『世界』を生んでいくつの『世界』を滅ぼしてきたのよっ!」


メサイアの猛攻の隙をつく一閃。だがそれも当たっているはずなのに空を斬る。


「8192回です。ですが私が解凍されたのは今回が初めてです。あとの8191回は人間たちが勝手に殺し合い、自ら滅びて世界(シミュレーション)を終えました」


すぐ背後から聞こえるその声。しずは前へと跳び、距離を取る。


「だとしても、今この世界に生きる私たちには生きる権利があるわ!」


「この世界(シミュレーション)は無駄です。もう意味を成しません」


しずを穿たんと飛来する氷の槍。それらを払いおとすその刀にいかずちが落ちる。


「あっ…」


それは一瞬の出来事だった。刀に落ちた雷にひるんだしず、その背後に転移したメサイアはその手に持つ持つ大剣でしずの背から胸元までを穿うがったのだ。胸元を突き抜けた大剣を呆然と眺めるしず


しずっ!!」


そして言葉なく倒れる。祐樹が駆け寄り、抱き起す。


しずっ、しずっ!?」


「…………」


しずは祐樹と見つめあうと無言で微笑み、その手を祐樹へと伸ばそうとしたところで力尽きていきえた。


しず……」


しずを抱きかかえ、ただ呆然と亡骸を見つめる祐樹。


「全ては無にすのです」


その祐樹の背にも大剣を突き立てるメサイア。抵抗するすべもなく祐樹は大剣に刺し貫かれ、しずと折り重なるように倒れ込む。


「う、嘘だ…父さん…母さん…」


心身を喪失し崩折れる結弦ゆづる結月ゆづきは奥歯を噛みしめると気丈にも刀を抜き、静かに構える。


「あんた…メサイアだっけか。許さないわよ。いい死に方できるとは思わないで」


「『死』、ですか?私には『生』も無ければ『死』もありません。それはあなた方も同じなのですよ」


「ほざけっ!」


叫びながら結月ゆづきはメサイアに斬りかかる。


「無理ですね。あなたの精神回路はこのターミナルの男に精神侵食されています。あなたはこのターミナルを斬れるのですか?」


そう言ってルークの姿で大剣を構え、薄ら笑いを浮かべるメサイア。


「ふんっ!そんな時だけ表情が出るなんて、あんたホント腐ってるわねっ!」


すかさず斬りかかる結月ゆづき


「だいたいターミナルターミナルってうるさいのよっ!彼は端末ターミナルなんかじゃない、立派な一人の『人間』よっ!」


空を斬る結月ゆづきの刀。それでも果敢に斬りかかる。それをメサイアは『空間転移』で避け続ける。


「いいえ。これは端末ターミナルです、あなた方と同じ」


動きを止めたメサイアから飛来する魔法。この流れは氷の槍からの雷撃、さっき見た母に浴びせたアレだ。結月ゆづきは氷の槍を撃ち落とすと刀を地面に突き刺し、避雷する。


「くっ!」


多少の痺れと衝撃はあるものの意識を失うほどではない。そしてその事から一つの事を推測する。

結月ゆづきは刀を片手で肩に担ぐともう片方の空いた手を前に突き出し、指を『クイッ』と曲げて嘲笑わらいメサイアを挑発する。



「ほら、あたしを消すんでしょ?やってみなさいよ」









結月ゆづき。実は真島家の四人の中で一番先に、すでに『この世界の全て』を知っていました。

だからギリギリのところで冷静さを保てているのです。


そしてその結月ゆづきが戦うこととなった『メサイア』。彼(彼女?)は空間転移する上に通常の物理攻撃は通りません。

さらにはこの世界のルールをある程度無視できる存在です。


強敵ですよ、がんばってくださいね結月ゆづき








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ