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らせんのきおく  作者: よへち
結月編
176/205

第176話 『認証』



一方、ナワでの出来事が起こる少し前。


イミグラの中央教会、グリムルでのドタバタを解決した結月ゆづきとルークは、エイ結弦ゆづるハルカととも教会塔でお茶をしていた。

エイはふと動きを止めると


「む?どうやら向こうの方で儂を呼んでおるようじゃ。少し席を外すぞ」


そう言うとエイは目を瞑り、そしてその姿が子供の姿に変わる。『エン』と入れ替わったのだ。


「ただいまー。母さま達は今ナワにいるよ」


あ、それ美味そうじゃん、と笑って茶菓子に手を伸ばすエン。どうやら父と母は無事にナワに着いたようだ。だがそのナワで何かがあったらしい、しばらくののちにハルカも向こうで呼ばれたようで席を外し、そしてこの場には結月ゆづき結弦ゆづる、ルークとエンの四人が残った。


「なあお前エン、だよな?お前ぇ今の今までナワにいたんだろ。ギム伯父さん元気してたか?」


エンはキョトンとすると


「え、ギムレットの事?彼かぁ…彼ね、ちょっと今は大変みたいだよ?」


言っちゃっていいのかなぁ、と首を傾げるエン


「た、大変…だとっ!?なんだよ、どうしたんだ!?」


青い顔でエンに詰め寄るルーク。


「まあ待ちなよ。ハルカも父さまも母さまも向こうにいるんだよ、大丈夫だって。だから落ち着い…ええっ!?な…」


ルークが詰め寄ったその刹那、突如としてエンは姿を消した。文字通りその場から消失したのだ、しかも普段から飄々とした表情で笑っているエンが珍しくも焦った表情を見せて。


「おいっ!エン!?逃げたのか!?」


周りをキョロキョロと伺うルーク。


「落ち着きなさいルーク。どうもそんな感じじゃなさそうね今のは。ナワで何かあったのかしら?」


まあ父さんも母さんもあっちにいるし、たぶん大丈夫…と呟く結月ゆづきの前にハルカが姿をあらわす。


「あ、ハルカ。なんか急にエンが消えちゃったんだけ…ど?」


だが結月ゆづきは瞬時に気づく、ハルカから漂う『違和感』に。たしかに目の前に現れたのは『ハルカ』だ。だが同じ顔、同じ姿形なのに全く見知らぬ者と対峙しているようなこの感覚。


「ルーク・グリムウィン。あなたは『力』を求めますか?」


無表情、無感情に言葉を吐き出すハルカ


「ハ、ハルカ様?俺の伯父は…ギム伯父さんは!?」


そのルークの質問には全く答えるそぶりもなく


「ルーク・グリムウィン、あなたは『力』を求めますか?」


同じ言葉を繰り返すハルカ

明らかにおかしい。結月ゆづきはルークが答えようとするのを手で制する。自分の中の何かが警告する、この問いには答えてはいけない、と。だが


「ハルカ様、俺はもっと強くなりたい!力が欲しい!」


「ちょっ!?待ちなさいルーク!」


一瞬ルークを振り返った結月ゆづき。再び視線を戻すとそこにはすでにハルカの姿はなかった。彼女の声だけが響く。


『ターミナルの認証を確認。インストールを開始します…』


次の瞬間、結月ゆづきの手は拘束される。自身の後ろにいたルークの手によって。


「ル、ルーク!?」


顔から一切の表情を失ったルークは、その無感情のままに口から言葉を吐き出す。


結弦ゆづる様も動かないで下さい。あなた方にはしず様と祐樹様を逃さぬ為のにえとなっていただきます」


その顔、その声。それは間違いなくルークなのだが


「くっ…あなたどういうつもり!ハルカッ!?」


---


翌日。あるニュースが世界を駆け巡る。


『魔王と相打ちとなっていた英雄"ルーク・グリムウィン"。かの者が教会の命を受け、落ちのびた魔王を討伐すべく再び立つ』


「なあ、それって…」


「ええ、ハルカの仕業ね」


ナワの宿屋にて遅めの朝食をとるしずと祐樹。

たおされたと思われていた魔王が生きて落ちのびていたという事も大きなニュースだったのだが、それ以上にこのナワの街ではこの街出身の若者『ルーク・グリムウィン』が魔王を斃した英雄だったという事実の方が大きな衝撃だった。


「昨日のハルカの感じだとなりふり構わない様子だったけど、案外ルールには従うつもりなのかしら…」


しずが祐樹と話していると、その宿の食堂へ息も切れ切れに飛び込んでくる一人の男が


「ユ、ユーキ!どうなってんだ!?ルークが迷宮を、魔王をたおしたって!?」


「まあ落ち着きなよ、はいコレ」


祐樹は水をそっと差し出す。それをギムが飲み干す頃、追いかけてきたエイダが追いつく。


「ギム、ちょ、待ちなってば…」


エイダの息も切れ切れだ。そちらにもコップ一杯の水を渡す。


「とりあえず何から説明しようか…?」


頭をひねる祐樹。


「ギム、君はエンとは面識あるんだよな?昨日君の枕元に来てたんだよ」


途端にギムの顔は険しいものになる。なんといってもエンはあの迷宮最下層でギム自身を屠った『魔王の番人』だ。


エイとは昨日少しだけ会えただろ?彼女と彼は双子みたいなものなんだ」


ギムは『う〜ん…』と頭をひねると


「そりゃなんとなくわかるけどよ、それとルークの件となんか関係あんのか?」


祐樹はあらためてしずを紹介する。


「で、彼らがカブールの迷宮で守護していたのが俺の家内で『魔王』でもあるしずだ」


さぞ驚く事かと祐樹は思っていたのだが、思いのほかギムは冷静だった。


「…いや、まあ驚いちゃぁいるが、まず最初にエイ姐さんに会った時点でユーキとその周囲に関してはみな只者じゃないとは思ってたんだよ」


はぁ、とため息をつくとギムは祐樹たちのテーブルに着席する。


「で、詳しく話してくれんだよな?」


そこは当事者であったしずが説明する。三百年前にカブールで迷宮が生まれた理由と自身が魔王と呼ばれるようになった経緯、そしてもう不要となった『迷宮と魔王』を終わらせる者が必要だった事を。


「そっか。じゃあ世界はシズさんのその手の上で転がされてきたってワケだ。怖ぇおんなだなぁ」


両手を上げて降参のポーズで笑うギム。


「まあそんなワケであの迷宮の創設メンバーの血を引くルークにその役割をお願いした次第なんだけど…」


しずの説明に祐樹がフォローを入れたその時、慌ただしく食堂に入ってくる騎士たちが。うち一人に祐樹は見覚えがある。


「ユーキ、ここにいたのか。ウチの上役がお前ぇさん達をご指名だ」


大至急連れてこいだとよ、何かしたのか?と肩をすくめるのは度々顔を合わせた街の守衛の騎士、教会騎士だ。


(…間違いなく遥の指示よね?)


しずの耳打ちに祐樹はうなずくと


「わかった、すぐに行こう」


---


教会前の広場には人だかりが出来ていた。遠巻きに見守る街の人々の前には騎士や司祭たちが立ち並ぶ。

そしてその彼らの前には…



「「「「ル、ルーク!?」」」」



祐樹、しず、そしてエイダとギムが異口同音。そこにいたのはそこにいるはずのない男。白を基調とした教会の司祭服を身にまとう金髪碧眼のエルフの青年、ルークだったのだ。









ルークは乗っ取られました。

それはハルカであってハルカではない存在モノ。彼女のしいたルールすら無効にできる存在に。


それの目的は真島家の四人を滅する事。さあいよいよ結月ゆづきちゃんの出番ですよ、ガンバって下さいね。





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