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らせんのきおく  作者: よへち
結月編
175/205

第175話 閑話25『世界の終わりの始まり』




「うむ、こちらの姿のほうがしっくり来るのお」


エイはいつもの女浪人の姿へとその身を変化させ、顎をさすり笑う。


「久しいなエイダ。ぬしは健勝か?」


「エイ、久しぶりね。あたしは何も変わってないんだけど…ギムが大変なの、なんとか助けられないかしら?」


もちろんエイダは知らない。だが気づいている、エイがこの世界から隔絶した存在だと。

以前の邂逅ではそれに気づかぬフリをしていたが、もうそんなことに躊躇している場合ではなかった。エイダも必死なのだ。


「ふむ。まずはギムレットに会うてみてからじゃな」


---


「ギム、ユーキとエイが来てくれたよ」


そう言ってギムの頬を撫でるエイダ。だがそのギムからは何の反応もない。

それもそのはずだ、ギムも死んではいないがこれを『生きている』と言えようか。


「ギム……どうしちゃったんだよ…」


その姿に祐樹も思わずベッドの脇で崩折れる。教会の治癒院、そのベッドで静かに横たわるギム。顔は以前と変わらず、歳を感じさせないイケメンエルフだ。だがその首の下、肩の部分から脇腹のあたりまでを失っていたのだ。


「万が一に備えて治癒士が同行してたから死なずにすんだんだけど…今日は二人が来てくれたからかな、これでも顔色がいいほうなんだよ」


こいつもわかってんじゃないかな、とエイダは寂しげに笑う。


「なあエイ、君の力でギムをなんとか助けられないか?」


エイにそう頼む祐樹も涙目だ。だが


「これは…すまぬが儂にはどうすることも…」


そう言って心底無力感を顔に滲ませるエイ。エイダもさほどは期待していなかったものの、最後の頼みの綱が途切れてしまった事に落胆する。

そんな空気の中、沈黙を保っていたしずが口を開く。


「ねえ祐樹。貴方にとって彼はどういう存在?」


しずは祐樹とギムレットの関係をさほどは知らない、知り合いだとは聞いていたが。


「ギムは…俺が目覚めて最初に出来た『友達』だ。色々と教えてもらったし世話にもなった。それ以上にかけがえのない存在だよ」


しずはそれを聞いて少し考えると


「ねえエイダさん。本当に申し訳ないんだけど事情があって私たちだけで話がしたいの、少し席を外してもらってもいいかしら?」


エイダは素直に従い、同室していた治癒士と共に退室、部屋には祐樹たち三人と虫の息のギムだけが残った。


「ねえエイハルカを呼べるでしょ?今すぐ呼んで」


エイは『う、うむ…』と呟くとその場にハルカを現出させた。


「おや、今度はこちらでお呼びですか」


どうなさいましたかしず様、と微笑むハルカしずはギムを指差すと


ハルカ、彼を元どおりの姿に戻しなさい」


ハルカの微笑みが凍りつく。


しず様、私にそんな事が出来るはずも…」


「出来るでしょ、あなただもの」


長い沈黙の中、互いに視線を外さないハルカしず


「それは…『この世界のことわりに私が触れる』という事です。その意味を理解しておっしゃられているのですか、しず様?」


しずは鋭い視線を緩めない。


ハルカこの世界(あなた)最高権限者アドミニストレーターは誰?」


「それは『人類』です。現在の環境下においては真島家の四人しか現存されていません」


しずは語気を強める。


「ならばハルカ最高権限者アドミニストレーターの一人である私が命じます。彼を元どおりに戻しなさい」


「…命令を受託しました」


するとギムは薄っすらと光に包まれ、そして身体はおろか服まで元どおりの姿へと戻った。


「…っとい!なんだ!?俺ぁなんでこんなトコで寝て…ってオイっ!おめぇユーキじゃねぇか!」


ベッドから跳び起きて『久しぶりじゃねぇか!』と祐樹の手を取り肩をポンポンとたたくギム。その騒ぎと声を聞いてエイダが扉の向こうから大きな声を上げた。


「ギムっ!どうしたのっ!?意識が戻ったの!?」


「あん?エイダ、そんなトコでなにしてんだ?こっち入ってこいよ」


祐樹がしずの目を見るとしずはうなずいたので、祐樹がその扉を開ける。

や否や部屋に飛び込んでそのままギムに抱きつくエイダ。


「ギムっ!大丈夫なのね!?痛いトコとかないんだよねっ!?」


「……あ?どしたんだおめぇ。なんか変なモンでも喰ったのか?」


おどけるギムだったのだが、エイダはギムの胸元にしがみついたまま啜り泣き続ける。ギムも意味がわからず『あ〜…なんだ?』と頭をポリポリとかく。


「やあギム、久しぶり。君さ、実は死にかけてたんだよ、ついさっきまで」


いや、もうほとんど死体だったよ、と苦笑する祐樹。


「ん〜…そう、なのか?まぁいいか。でよユーキ、久々に会ったのにいきなりで悪ぃが、俺の知らないその二人の女性を紹介してはもらえねぇか?」


しずハルカを見るギム。


「はじめましてギムレットさん。私、祐樹の家内で『しず』と言います。よろしくね。それで…」


しずハルカに目線を向ける。エイダも『あれ、こんな人いたっけ?』と不思議顔でハルカを見る。

だがそのハルカはその顔から一切の表情を失い、そして機械的に言葉を口から吐き出す。


「現時点をもちましてこの世界は存在の意味を消失しました。よって全てのフェイズを中断、直ちに破棄し、新たな創造のフェイズへと移行します……」


「駄目よ。その行動は最高権限者アドミニストレーターである私が認めない」


強い語気で命令するしずハルカは一瞬フリーズする。そして


「フェイズ移行の障害を検知。直ちにこれを排除するプログラムを実行します…」


次の瞬間、目の前にいたエイハルカが消えた。そして声だけがその場に響く


「回復プログラム起動。フェイズ移行を阻害する四つの障害『真島静』『真島祐樹』『真島結月』『真島結弦』の排除に取り掛かります…」


そしてその場からハルカの気配は完全に消えた。


「……なんなんだ、一体?」


ほうけるギム。エイダもエイが突然いなくなった事に驚いている。


「ごめんね、色々と事情があるの。でも良かったじゃない、何事もなく治ったみたいで」


そう言ってしずは笑うのだが、本当はとんでもなく大変な事になっているのもわかっているのだ、祐樹も。だが二人はそんな事をおくびにも出さず


「ま、久々の再会だ、食事にでも行かないか?」


と祐樹は笑った。


---


「…ったくよ、なんなんだよ」


そう呟くギムの横には、その腕を取って全く離れようとしないエイダの姿が。


「ギム。もう落ち着く所へ落ち着け」


そう言ってテーブルに料理と酒を持って来て席に着くガイル。厨房は若いのに任せているのだろうか、もうエプロンもつけてはいない。


「…ねえギム。別にあたしと結婚してとは言わないわ。ただ一つお願い、あんたの子供が欲しいの」


エイダがそう言った瞬間、一斉に酒を吹いてしまった男ども。


「な、な、な、なに言ってやが…」


「あたしはね、独りはやなんだよ」


そんな男どもを他所に哀しげに目を伏せて呟くエイダ。


「一人って…俺が死んじまってもガイルもいんじゃねえか。お前ぇの周りにゃ友達もいっぱいいるしよ」


「違うわよギム。あんた『独り』って言葉と『一人』って言葉の違いがわかってないわ」


そう言って静かに手元のグラスを見つめるエイダ。


「みんなね、みんなの世界を持って生きてるの。その中に当たり前にいられる存在、それが『家族』よ」


エイダは顔を上げ、宙を見つめて呟きを続ける。


「あたしね、物心ついた時から天涯孤独だった。悪ガキ仲間のあんたらとパーティ組んで魔王の迷宮目指してさ、ホント楽しかったよ」


「でもおめぇ帰ってきてからヤツと結婚したじゃねぇか」


そう、エイダは一度結婚をしている。程なく死別した亭主がいた。


「そうさ、あの時も酷く落ち込んだものさ」


だがエイダの周りにはギムもガイルもいた、友達も。その存在が彼女を支えた。

だが今となっては皆、自分の世界の中心を、『家族』を築きつつあった。独り身のエイダには真綿で首を絞められるような焦燥感を感じずにはいられなかったのだ。


その折に起きた『事件』。ほぼ回復の見込みがない負傷を負ったギム。それでエイダの心は折れてしまった。後悔をしたのだ。


『なぜあたしは自分の心に正直にいられなかったのだろう』


もしかすると誰かに言われるのが怖かったのかもしれない


『おざなりな相手と落ち着いた』


と。


「欲しいものが目の前にあるうちに取りに行かなきゃって思ったんだ、自分から。誰かの目や言葉を気にせずね。だから…」


続きの言葉をギムが遮る。


「ああ、それ以上は言うな。おめぇばかりに格好はつけさせねぇ」


そう言うとギムは席を立つ。そしてエイダの前にひざまず



「エイダ、俺んトコに来い。結婚しようぜ」



随分と遠回りしちまったな、と笑った。








ここのところ結婚ラッシュですね。インのウイルとミカ、アリアとシド。

そしてギムとエイダ、この二人は人生のタイミングがやっと合ったといった次第です。

ちなみにギムの旧友・ガイルもあのネコミミ眼鏡メイドの『リリ』と結婚しました。さらにはあと四話先でもう一組が結婚します。


巷で良く言われる『結婚は人生の墓場』ってヤツ。でもそうなるかならないかは本人次第だと思いませんか?

高齢独身を『生き地獄』だと表現する人もいますし、結局はどちらも自分の人生に責任を持てない人間の逃げ口上なんじゃないのかなぁなんて思ったりもします。










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