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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
17/205

第017話 『さっきの殺気』



『鶏の達人・ガイルの店』


看板にそう書いてある。得てしてこういうのは見ているようで見ていないもので、祐樹は今はじめて店の名前を知った。

ギムは先に来ていた。何やら若い男と話していたようだが祐樹とエイを見とめると男はどこかへ行ってしまった。


「よう、ユーキにエイ姐さん。散歩はどうだった?なんか面白いもん見れたか」


「ああ。ユーキは色街を愉しんでおったようじゃ」


「ほほう。見かけによらず押さえると押さえてんじゃねぇか、ユーキ」


「なあエイ。そういう冗談は本気にされるからやめてくれ」


「がははは!わかってるってよ。おめぇさんそんな遊びしそうにねぇもんな」


早速、祐樹が料理と酒を頼もうとすると


「おっとユーキ、ちょっと待ってくれ。会わせたいヤツがいる。酒と飯はその用事が済んでからにしてもらってもかまわねぇか?」


すまんな、ちょうど来たようだ。と言うギムにつられて祐樹が店の入口を振り返ると、店に入って来たのはなんと先日撃退したエルフの少年だ。


「おいルーク、こっち来い」


まさか本当にギムの知り合いだったとは。驚く祐樹。差し金というワケではなさそうだが…


と、ガバッと土下座するギム。


「すまねえっ!コイツぁ俺の甥っ子なんだ。コイツらがユーキ達に失礼を働いたのは承知してる。勘弁してやってくれねぇか」


呆気にとられる祐樹。エイはこの展開を読んでたのか全くの無表情だ。


「ルークっ!てめぇもしっかり詫びろ!」


「なんでだよギム伯父さん!なんでこんなヤツに頭下げんだよ!」


「ルークっ!てめぇ!」


ルーク、と呼ばれた若者を殴ろうとするギムをエイが止めた。


「なあおぬし。ルーク、といったか。儂はあの時おぬしを斬って捨てるつもりじゃった。じゃがな、ユーキに『殺すな』と言われたから殺さんかっただけじゃ」


そう言うと、エイは腰の刀に手をやる。


「あまり物分かりが悪いようじゃったらこの場で斬るぞ?」


エイから漏れるのはまごう事なき猛烈な殺気。

横で見てる祐樹ですら嫌な汗が出て口がカラカラになる。

ギムも口が半開きのまま動けずにいる。

そんなものを真正面から受け止めたルークは


「ぁ、ぁ、あぁ…」


尻餅をついて涙と鼻水を出して失禁している。

だが情けなくはない、誰だってそうなる。祐樹だってそうなっただろう。失神しなかった事を褒めてやりたいくらいだ。

その様子を見てエイは殺気を緩めた。


「コイツぁこの通りガキなんだ。それで勘弁してやってくれねぇか」


「ああ、もういいよ。俺たちだって尾行されただけで別に実害もない。事情がわかってしまえば俺たちだってやりすぎたって思ってる。悪かったな」


暫しの沈黙の後、ギムが口を開く


「…なあユーキにエイ姐さん。頼みがあるんだ。あんたらの旅にコイツも同行させてやってくれねぇか?」


「何言ってんだよ!ギム伯父さん!」


「黙れルーク!てめぇは何も知らなさすぎんだ。一回街を出て世の中を知って来い!」


そこにエイが口を挟む


「儂らには隠さねばならん事が幾つかある。ユーキが同行を許可するんじゃったら儂は構わんのじゃが…」


「嫌だ!ギム伯父さんが街を出ろと言うなら出てってやんよ。けどコイツと一緒は嫌だ!こんな弱そうなヤツ足手まといなだけだ。1人の方がマシだ!」


俺はケンカじゃ負けた事ない、仲間達からも一目置かれてんだ、と吠えるルーク。


「あのなぁルーク。てめぇ1人で街の外へ出てみろ、たぶん3日も経たずに死ぬぞ」


そのやりとりを黙って聞いている祐樹。

もし祐樹のその肉体年齢と精神年齢が一致していたら間違いなくこの場でルークと大ゲンカだっただろう。

だが祐樹の精神年齢はギムと同世代だ。彼の気持ちが痛いほど良くわかった。ギムは甥っ子のルークが可愛くて仕方がないのだ。

だが肝心のその甥っ子はこの小さな街を大きな世界だと思い込み、その中で王様を気取り増長し天狗になっている。文字通り井の中の蛙なのだ。


さっきエイはわざと尾行の叱責には余りある殺気をルークに浴びせた。上には上の『恐怖』がある事を幼な子に教える為だろう。

それでその鼻っ柱が折れなかったのはなかなかの根性だが、それはただの蛮勇だ。このまま街から放り出したら間違いなく早死にする。


ギム的にはエイのような手練れの冒険者と旅をさせて、ルークに世界の広さを知ってほしいってのが本音だろう。

ルークはあんな口調の生意気な若者だが、伯父であるギムレットを誇りに思っており、祐樹がその店の客に値しない男だと思ったからこそのあの行動なのだ。

祐樹もルークが性根から悪いヤツだとは思っていない。

ギムの事も嫌いではない。彼の頼みなら受けたいとも思っている。


さぁどうしたものか?と祐樹が考えていると


「おお、そうじゃ。こうせぬか?そこの路地裏に袋小路があったじゃろ。そこでユーキとルーク、おぬしら対決せい」


そう言うエイはとても楽しそうだ。


「ルークがユーキに勝てるようなら儂らの同行は必要あるまい。ユーキが勝ったら儂らの荷物持ちとして旅に同行せい。合間に鍛えてやる。どうじゃ?」


要するにエイもルークの同行には賛成のようだ。

祐樹も思った。ギムの頼みでもあるしこれも何かの縁だろう。

ルーク、一緒に世界を見に行こう。



が、その前に祐樹には一つ、やる事がある。


その長〜い鼻っ柱、叩き折っとかなきゃな。






ちにみに祐樹達が店に着いた時、ギムと一緒にいたのはルークの友人、リックです。

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