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らせんのきおく  作者: よへち
結月編
166/205

第166話 『降臨』



グリムルの街に『噂』が駆け巡る。


『天人様が御降臨なされた』


その際、よこしまなる偶像を消し去った、と。

街の皆が目撃したあの天から降り注ぐ『まばゆい光の柱』。そして天人像と共に消え失せた連なる山々の景色がその噂を真実したらしめていた。

急遽、王城には街を追放された教会関係者が呼び戻され、そして『死んだ』とされていた先王『アルバート・グリムウィン』、そしてその妻も豪華な馬車で迎えられて王城へと姿を現した。


「しばらく見ねぇ間に随分と変わっちまったんだな」


王城の向こう、山々と天人像があったはずのその原野を眺め、笑い出すアルバート。


「上手く行きませんでした。申し訳ありません、アルバート様」


そう言って頭を下げるリカルド兄弟。


「ガッハッハッ!んなモン八卦みてぇなもんだろ、気にすんな!」


豪快に笑うアルバート、とその横で『そうですね、うふふっ』と微笑む先の王妃『エルメラ・グリムウィン』

とそんな先王アルバートに殴りかかる者が


「親父っ!テメェっ!!」


そのアマンダの拳を易々と取り、そのまま引き寄せてギュッと抱きしめる。


「おおっ!愛しの我が娘よ!どうした、息災か?」


「息災かじゃねぇっ!テメェ生きてんなら生きてるって言えよっ!」


暑く苦しい、離せっ!ともがくアマンダ。


「うん、言ってなかったか?どうりで待っててもオークレットに来ねえはずだ」


『あらまあ、ふふふ』と隣で微笑むエルメラ。


「お袋もお袋だっ!なんでこいつら止めねぇんだ!?」


「え、なぜですの?アルも楽しそうにしてたわよ。ねぇ?」


微笑み合う先王妃と先王。


「だぁ〜!ホントなんで私の周りはバカばっかなんだ!」


天を仰いで頭をかきむしり、吠えるアマンダ。


「ま、そりゃぁ置いといてよ、リカルドよ」


真剣な顔に戻るアルバート


「王位はお前にくれてやった。もう返品は受け付けねえぞ?」


「アルバート様。その事ですが、後ほど『天人様』より御言葉をたまわる事となっております」


顔をしかめるアルバート


「天人、な。事と次第によっちゃあ…」


その手を腰の刀にかける。が


「親父、無駄だ。あいつ自身も強ぇけど最強の護衛が二人も付いてる、それに…」


アマンダはアルバートの胸ぐらを掴み


「あいつはあたいの大切な友達だ。たとえ親父でも何かしようってんなら…」


と父親を睨みつける。


「ははっ!ちょっと見ねえ間にいい目するようになったじゃねえかアマンダ!心配すんな、そのお前ぇの、娘の『友達』ってやつを見定めてやんよ」


そう言ってアマンダの背中をバシバシと叩き、高笑いするアルバート。


「アルバート様。そろそろお時間です、テラスのほうへ願います」


---


アルバート夫妻が案内されたのは王城の左側のテラス。夫人と共に顔を出すと割れんばかりの歓声が。王城の前庭には多くの市民、そして教会関係者が集っていた。


「ん、なんだありゃ?」


とアルバートの目に入ったのは前庭の観衆の真ん中に柵で囲って設けられた、直径五十メートルほどの『円形の空き地』。


「なんかのパフォーマンスでもすんのか?」


と再び大きな歓声。見ると王城の反対側、右側のテラスに姿を現したリカルドとアマンダ、一応は現在のグリムルの王と王妃だ。

リカルドもアルバートも観衆たちに向かって手を振り、その歓声に応える。

が、途端に声援がどよめきに変わり、そして静寂が支配する。群衆の視線は中央のテラスに釘付けになっている。

中央のテラス。本来ならば王と王妃が姿をあらわすはずのそこへ現れたのは…天人『ユヅキ』


左に重厚な儀祭用ローブを身に纏った白髪白髭の老枢機卿、右には純白のプレートメイルを装備した教会騎士を伴い現れた彼女。

身に纏うのは、神がかった美しさをもつ白を基調とした教会の儀祭服。そしてそれとコントラストをなす漆黒の髪とそこにささる一輪の白椿。

その存在感はまさしく『神』そのものだった。


「これより私が天人様の御言葉を伝える。皆、心して聞くがよい」


白髪白髭の老枢機卿は、老人とは思えないほどの太く通る声で隣にいる『天人』の言葉を代弁する。


「此度の叛意、そして長らくの誤った因習を見かね、われは降臨した」


無表情で群衆を見渡す『ユヅキ』


われは叛意をとがめぬ。強き者がその力を行使し、力をもって支配する。これもまた摂理。だがが名をけがす事は許さぬ」


そう言うと老枢機卿は天を指差す。本来ならば王城の後ろにそびえ立っていた山々、そしてそれらと共に一瞬にして消え失せた『天人像』を


「力在る者、大いに結構。叛意もまたしかり。持て余すならばわれ『天人』が相手しよう」


老枢機卿がそう言うと『ユヅキ』は髪にさしてあった白椿をその手に取る。その花弁を一枚取るとてのひらの上に乗せ、『ふっ』と優しく吹いた。

白く輝くその一枚の花弁は、群衆の見守るその上を前庭の中央までヒラヒラと飛んで行き、『円形の空き地』の中心へふわりと舞い落ちた。


その瞬間!強烈な轟音と共に地表は爆ぜ、そこに巨大なクレーターを作り出す。

突然の事に言葉を失う群衆たち。静寂は更なる沈黙へと昇華する。


「王リカルド。そして王妃アマンダよ。いまより再びなんじらが街を治めるがよい。もし汝らよりの猛き者、知に尊き者、心強き者が現れ、その座を譲るならばそれも結構、好きにするがよい。われは小事に関心せぬ」


再び『ユヅキ』は群衆を見渡し


が目は常に汝らを見ている、雲厚き日も月無き夜も。罪あるところに罰を下す。しかと心得よ」


老枢機卿がそう言い切ると、『ユヅキ』は無表情のまま群衆に背を向け、そのまま王城の中へ姿を消した。


---


「ふ〜ん。あれが『天人』か」


あれなら俺の方が強ぇんじゃねえか、とうそぶくアルバート。


「アル、ダメですよ。言ってたじゃない、常に見てるって」


あの夜のあんな事とか、いやだわ、と頬を朱に染めて腰をくねらせるエルメラ。


「バカ、そういう意味じゃねえ!」


「わかっておりますわ。ですが…」


一転、エルメラは考え込むような仕草を見せ、黙り込む。


「ああ、わかってる。本当の曲者はあの『枢機卿』だ」


さあどうしたものか、とアルバートも黙り込む。と、騎士が二人を呼びにテラスへ訪れた。


「先王様、先王妃様。王と王妃が玉座の間にてお待ちです」


---


「ようリカルド。似合ってんじゃねえか!」


「あらまあアマンダ。貴女もそんな姿が様になるようになったのね」


玉座の間。王と王妃の席に座るのは正装をしたリカルドとアマンダ。


「…そもそもあたいは王妃になるのを承諾した覚えは無え」


「そうなのですか?私では貴女の伴侶にはなれませんか?」


そのアマンダの言葉に悲しい表情を見せるリカルド。


「いや、ちげーよ!テメェなし崩し的にあたいを王妃にしやがっただろ!?なんかそういうのはキチンとした言葉とかあっていいんじゃねえのかって話だ!」


アマンダ以外の皆がキョトンとする。


「あらまあアマンダ、プロポーズの言葉が欲しいなんて、あなたにも乙女チックなところがあったのね。ふふふ」


母さん嬉しいわ、と微笑むエルメラ。


「違う違うちがーーう!こ、これはケジメだっ!キッチリ言葉にしろっつってんだよ!」


するとリカルドは玉座から立ち上がり、アマンダの前にひざまず


「アマンダ。私は幼き頃より貴女だけを見て生きてきました。これからは私の横で王妃として、私とこの街を支えていただけませんか」


『私と結婚して下さい』そう言って微笑むと、リカルドは密かに用意してあった指輪を懐から取り出す。そしてアマンダは少し驚いて照れながらもそこへ手を差し出す。


「し、仕方ねえな。テメェは昔からあたいがいなきゃダメだったもんなっ」


そう言いながら、その指に光る指輪を嬉しそうにかざして眺め、そして抱きしめる。


「かぁ〜っ!いつかは嫁に行くってのは覚悟してたけどよ、いざそうなっちまうと父ちゃん泣いちまいそうだぜ」


アルバートはリカルドの肩に腕を回し


「おいリカルド!娘を頼んだぜ!」


「ええ。お任せ下さい。必ずやアマンダを幸せにして見せます、お義父さん」


和やかな雰囲気。だがその刹那、アルバートとエルメラの空気は一転する。


「…あなた。和むのもここまでのようですわ」


「…みてえだな」


アルバートとエルメラは扉を凝視。すると扉はノックされ、衛士が来客を告げる。



「天人様がお見えになられました」








とまあなんだかんだでアマンダはリカルドからプロポーズをされ、とても喜んでおります。

結月ゆづきの演技もなかなかでした。


…って、あれ?結月ゆづきは何もしてませんね。

演説したのは老枢機卿だし、あの花弁を爆発させたのは横にいた教会騎士です。結月ゆづきなんにもしないや。






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