第016話 『とあるエルフの少年』
話は少しさかのぼり、2日前。
主人公はギムの甥っ子のエルフ少年『ルーク』
祐樹達がギムの店から出てきたのを目撃したところから物語は始まります。
それは偶然だった。
伯父のギムレットの店へ向かうルークと友人のリック。
店の前で見たのは、店から出て来る母子と思しき2人。いい歳した息子の方は新品の防具が嬉しいのかニヤニヤしながら出てきた。
ルークは知っていた。あの店の武具は全てギムが職人と直接話をし、厳選に厳選を重ねて選んで置いてある本物だと。
母親にねだって買ってもらっていいオモチャなんかじゃない、あんなヤツには100年早いぜ。そう思ったルークは2人を尾行することにした。
リックが一緒だったこともあり、そこらの路地で2人で軽く脅してビビらせて、防具を取り上げてやろう。そんな魂胆だった。
親子を尾行するルークとリック。袋小路のある路地に差し掛かるところでルークはリックに路地裏から先回りを指示する。
挟み撃ちがバレたのか2人は横の袋小路へ逃げ込んだ。その思惑通りの行動にほくそ笑むルーク。
ルークは2人の入った路地へ駆け込む。
が、そこでルークが見たのは…
ルーク自身だった!?
路地へ駆け込むルークを待ち伏せていた『者』は、他ならぬ自分自身と全く同じ姿形をした『者』だった。
「な、な、なん!?」
ルークの目の前に立つ『ルーク自身』は不敵にニヤリと笑うと
「よう。俺」
と言うや否や首を掴んできた!
…気がついたらルークは路地で寝ていた。
どうやらあの2人には逃げられたようだった。
リックも何処にも見当たらない。
なんだったんだ一体?
とぼとぼと夕方の街を歩き、ギムの店へ戻るルーク。
リックは先に店に来ていたようだ。
だが様子が変だ。ルークを見るリックのその表情は、半泣きで唖然としている。
「だから言ったじゃねぇか、コイツ如きにあの2人を殺れるわけがねえって」
ギムの言葉にリックは呆然としたままルークを見て言う。
「でもルーク言ったよな『やべぇ、俺あの2人殺しちまった。ともかく逃げよう!俺は2人の死体を隠してから逃げる。先に逃げろ!』って」
だがルークには全く身に覚えがない。
「だから俺はここへ来たんだ。ギムさんに助けてもらおうと思ったんだ」
「はぁ?リック、お前ぇ何言ってんだよ」
「ルーク、とりあえずそこに立て。んで歯ぁくい縛れ!」
ギムの拳で派手に吹っ飛ぶルーク。
「俺の店の客に手を出すたぁどんな魂胆だ!」
「なんだよ!あんなママのおっぱい吸ってるようなガキに防具なんて売りやがって!んなヤツにこの店の武具は100年早ぇんだよ!」
ギムは心底呆れた顔で溜息をつく。
「あのなぁ、お前にはあの2人が親子に見えたのか?」
「違うのかよ」
「だからてめぇはガキなんだよ。人を見る目が無さすぎんだ。あの男、ユーキはな、成りこそ若者だがあの目は何かを守り抜いた男の目だ。てめぇみたいなガキとは訳が違う」
珍しく人を高く評価するギムに、全く納得のいかないルーク。
「ふんっ、どうせママのお守り付きだろ?」
「エイ姐さんの事か?てめぇあの人は別格だ。例えるなら人の皮を被った竜の化身みてぇなもんだぞ」
ギムが耄碌したのかと本気で心配するルーク。
「ギム伯父さん冒険者辞めてもう10年以上になんだろ?勘が鈍ったんじゃねぇの?」
「てめぇなぁ…あの姐さんの恐ろしさはシロウトでもわかるだろ。それに俺ぁ昔、あの姐さんと同じ目をした男と会ったことがあるんだよ、とんでもない所でな」
「戦ったのか?」
「戦った、と言うのも烏滸がましいくらい一方的にやられて負けた。たった1人を相手にパーティ全滅だ」
ルークには到底信じられない話だった。
ギムのパーティは冒険者すべてが目指すと言っても過言ではない『魔王の迷宮』の最深部まで到達した、数少ない強豪パーティだった。この街の誇りだ。
ギムを含むパーティメンバーはルークにとって憧れの存在だ。全滅だなんて想像もつかない。
「でもあのおばさんがそいつと同じくらい強ぇとは限らねぇだろ?」
「そりゃそうだがな、ルーク、少なくともてめぇが今生きてるのはあの2人が手加減してくれたおかげって事、忘れんなよ」
「知らねぇよ、そんな事」
「あとな、明後日にガイルの店にあの2人を招待するからな。しっかり詫び入れとけよ」
「知らねぇって言ってんだろ!」
-----2日後
「ルーク、ギムさんがガイルさんの店に来いって言ってるよ」
渋々、ガイルの店へ向かうルーク。
だがその表情に謝罪や反省の色は全く見当たらなかった。
路地裏でエイに返り討ちにされたチンピラ少年・ルークの話でした。
彼の父親は素材ハンターで、ルークが生まれる前にナワ樹海で行方不明になってます。母親はギムの妹でルークに物心つく前に流行病で病死しました。
彼の生意気な口調は、自分を育ててくれたギム伯父さんを尊敬するが故のものです。悪い子じゃないんですけどね。怖いもの知らず、ってのが一番適当です。