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らせんのきおく  作者: よへち
結月編
158/205

第159話 『やり場のない怒り』



「ア、アマンダ…?」


突如、アマンダから『敵意』を向けられる結月ゆづき

アマンダは結月から視線をそらすとうつむき、何かをこらえるかのように言葉を絞り出した。


「なあユヅキ…お前ぇが『天人』って、本当なんだよな?」


「え、ええ。一応はそういう事になってるけど…」


一応もなにも教皇ハルカのお墨付きをかざしてしまったのだ、否定のしようもない。


「じゃあお前ぇは…昔から『存在』したのか?」


結月は黙ってうなずく。その刹那、アマンダはナイフを抜いて結月に飛びかかろうとする!

が、即座にエイに羽交い締めにされて取り押さえられる。それでもなお足掻きながら叫ぶアマンダ


「クソッ!離せ!なんで、なんでお前ぇが!お前ぇは!なんであの街にあんなルールを作りやがったんだ!」


そのせいであたいの親父は!と目に涙を浮かべ、アマンダは敵意をむき出しに結月を睨みつける。


『最も強き者を王に。その王をたおした強き者を次王に』


これがグリムルの『ルール』だ。だが


「ちょ、ちょっと待ってよアマンダ!私そんなの知らないしグリムルには行った事もないわよ!?」


天人と呼ばれる五人、吉井教授こと大教皇ミーツォのその後は知らないが、真島家の四人は誰一人としてグリムルは訪れていない、そのグリムルのルールの成り立ちに『天人』は関係ないはずだ。それに


「アマンダ、ちょっと落ち着いて聞いてね。私を含めて『天人』って言葉が指す人物は五人いるの。でもね、その五人とも目覚めたのはだいたい三百年くらい前で、その時にはもうグリムルはそのルールで成り立っていたはずよ」


あの頃、それを嫌ってゲオルグはグリムルを捨てたのだ。それに当時に目覚めた静たち三人が、再び三百年の眠りに就くまでの『天人』という言葉が指し示す人物とはハルカの事だ

そのハルカが人の死を見過ごすことはあれど、わざわざ命を奪う事を、殺し合いを推奨するようなルールを敷くとは考えにくい。


「じゃあなんなんだよ!『闘うことを天人様が定めた』だの『闘いのうちに逝けば天人様の御元に召される』だとか!」


お前ぇら一体何様だ!とアマンダは噛みつかんばかりに結月に向かい吠える。だがその拳を力なくおろし、うなだれて崩折れると


「あたいは…王位を簒奪さんだつした、あたいの信頼を踏みにじったあの男を許せねえ。けどな、それ以上にあの街の掟を、あの世界を作りやがった『天人』って野郎が憎い、ブチ殺してやりてぇと思ってたんだ」


だがその言葉とは裏腹に、アマンダは少し潤んだ瞳で結月を見上げる


「けどわかってんよ、ユヅキ、お前ぇはそんなこと考えつくやつじゃねえよな。ちょっとの間だけど一緒にメシ喰って旅したからわかる、お前ぇ呆れるくらい『真っ直ぐ』だもんな」


ならあたいはどうすりゃいいんだよ、とうなれて呟くアマンダ。結月は恐る恐るアマンダに近づくとその頭を優しく抱きしめる。


「ごめん、アマンダ。私にも何もわからないの…」



---



「ミシェル。この本だけど、まだあなたが持っていてくれる?」


「ななんと?」


元々それは結弦に宛てて吉井教授が子孫に託した本だ。それに


「私たちは今からグリムルへ向かうの。だから私が持っていくよりここにあったほうがいいでしょ」


私も身軽だしね、と。


「ふむむ、なるほど。ならば帰りにまた寄られますかな?」


結月はそれも否定する。


「それね、大教皇様がウチの弟に宛てて託した物みたいなの。だから弟に取りに来させるわ」


あれは母に似て研究者肌だからあなたとも気が合うと思うわ、楽しみにしててね、と結月。


「むほほ!?なるほどですな。ではでは盛大な『お土産』を用意して待たせていただきますぞ!」


じゃあね、また来るわ、とミシェルのアトリエを後にする結月たち。その道すがら


「…アマンダ」


「ん、なんだユヅキ?」


さっきのゴタゴタが嘘のようにアマンダはもう『通常運転』だ。それがあまりにもあっさりしているので結月は逆に気をつかってしまう。


「ん、さっきのアレか?まあなんだ、取り乱しちまって悪かったな。けどユヅキはユヅキだもんな、お前ぇ『自分は悪くない』って自信あるんだろ?」


結月は黙ってうなずく


「じゃあさっきのあたいのアレは忘れてくれ。あたいはユヅキを信じるぜ」


そう言ってアマンダは笑うと、その重めの空気を払拭するように


「けどよルーク、お前ぇあのおっさんと随分と仲良く話し込んでたじゃねえか。なんだ、なんかマニアックなエロい絵でも描いて貰ったのか?」


結月とアマンダのゴタゴタの後も、ルークとミシェルは何やら紙に絵を描きながら話し込んでいたのだ。


「ああ。とんでもなくマニアックなモノ描いてもらったぜ?あのおっさんすげぇぞ」


とルークはニヤけながら何やら描き込まれた『紙』をふところから出す。そこに描かれていたものはもちろんエロい絵などではない、あの時『爆発』を起こした火球ファイヤーボールの原理をわかりやすく図解にしたものだ。結月とアマンダもそれに目を通す。上の方に仰々しく書かれたそのタイトルは


『魔法熱量保存の法則と燃焼加速を利用した水蒸気爆発とその原理』


彼の研究によると


『魔法のエネルギーは発現から消失まで基本的に一定である』


大きな火球を発現させてそれを小さく圧縮すると、それはその分『高エネルギー体』になるという。

発現させた火球に風を纏わせてそれを圧縮、と同時に風の魔法エネルギーと『酸素』をその炎に送り込んで燃焼を促進させて、圧縮した火球をさらに高エネルギー化。その時に発生する音が結月の聞いた『キュキュキュン!』というあの音だ。


そして超高エネルギー体になったその火球の中心に、さらに氷の魔法『氷礫アイスブリッド』を送り込み、それらが一体化したところで全ての魔力のくびきを解き放つ。


するとそれらのエネルギーは一気に通常の物理現象に転化される。氷は一瞬で液化と気化を経て蒸発し尽くし、その体積を爆発的に増加させる。

いわゆる『水蒸気爆発』だ。


「ふ〜ん、基本は簡単な物理化学だけど…よくもまあこんなこと思い付くものね」


と、まあ関心する結月なのだが、意外な事にそれにアマンダが驚く。


「なっ!三属性同時か!?あんな冴えないおっさんが三属性も同時に使えんのか!?」


火、水、そして風。あと今の地球の魔法には『雷』と無属性の『力』というのがある。

聞くとアマンダの主力は風で、補助に炎、他はほとんど使えないという。


「まあ普通は一つ、それかあたいみたいに補助的にもう一つ、そんなもんだぜ?」


多属性も出来なくはないのだが、例えるのなら左手で絵を描きながら右手で食事をするような。三属性同時というのはさらにもう一つ思考のタスクを分ける必要があり、複数の属性を操るだけでも難しいのにそれを同時というのは驚くべき技術らしい。


「あん?そうか?お前ぇメシ喰う時に右手で運んで口で喰って、んで喋ったりすんだろ?三つ同時にやってんじゃねえか?」


そう言うルークにアマンダは『違ぇだろバカ、じゃあお前ぇは三つも同時に魔法使えんのかよ』と挑発するのだが


「ほらよ」


と手の上に小さなファイヤーボールを出したルークは、さらに力を込めてそれに風の渦を纏わせる。するとそれは小さな光の玉のような物に変化した。


「んでたしかコレにアイスブリットを放り込むんだよな?」


と、その芯に氷礫を入れた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいルーク!それ力抜いたら爆発…」


次の瞬間!


『バンッ!!』


あたりに白煙が立ち上る。幸いこの結果を予想できていたエイの手により結月とアマンダは傷一つなく無事。が


「ぶはっ…こりゃぁ、ちょっと…」


白煙を吐いて呟くと、スピード感あふれる髪型になったルークはそのまま倒れた。


「…もう。ホント馬鹿なんだから」


「うむ。今回もまた才能の無駄遣いじゃのう」


と笑う結月とエイ


「はぁ〜!こいつアホづらのくせに結構やるじゃねえか。ユヅキもエイもそうだけどよ、中央の連中ってのはみんなこんなにスゲぇのか?」


と感心しきりのアマンダだが


「ん?こいつイミグラの出じゃないわよ」


ルークの出身は東の果てのまだ先にある島だと説明する。


「なにっ!まさかあの『魔獣の島』かっ!?」


アマンダは驚愕の面持ちでアホづら&白目のルークをマジマジと見る。


「ええそうよ。有名なの?あそこ」


「有名なの、ってそりゃあんた…」


アマンダの生まれ育った街、西の果てにある都市グリムル。そこに伝わる東の果てのその先の魔獣の島とは


『あそこは正にこの世の果ての地獄の世界であり、人など魔獣のエサにしかすぎない。ひとたび一人歩きなんかした日には、それこそ生きて帰ることなどありはしない』


「う〜ん、島の全域がそうというワケじゃないけど、たしかに当たらずとも遠からずな話ね 」


結月たちが強いので麻痺しがちだが、あの奥地は手練れのハンターでさえ徒党を組んで移動しなければならないし、それでも油断すればたちまち魔獣どものエサになってしまう、そんな島だった。街から街への移動にしても一人歩きなどもってのほかだ。


「まさかユヅキ、お前ぇもあの島の出身か?」


「ううん、私は一応カブール、かな?あの島には三回ほど行ったことがあるけどね」


普通に人も住んでるし子供たちも元気だよ、と結月。


「はぁ〜、どうりで強ぇんだな、ユヅキもエイもこのアホづらも。まああたいに獲物横取りされるくらいだから抜けてんだろけどな、こいつ」


と笑われている白目のルークをエイが担ぐ。



「ま、儂の背中が此奴の定位置じゃからな」



エイも笑い、三人+お荷物は宿への帰途へつくのだった。








『魔法』

修練次第ではある程度までならば誰もが身につく技術です。ですが『火』が使えるからといって『水』も使える、というわけでもないようです。

言うならば『自転車に乗れるから将棋もできるのか』みたいな、属性が違えば全く別の技術です。


ルークが多属性を同時に扱えるのは、もちろんギムによる教育の賜物です。あの島で生き残る為にかなり入念に仕込まれてます。







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