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らせんのきおく  作者: よへち
再会編
149/205

第149話 『家族を紹介します』



「あ、マール兄ちゃんだ!いらっしゃーい!」


マール、もとい結弦ゆづるが両親と姉とルーク、そしてエイエンと、要するに全員で訪れたのはナワまでの往復でお世話になったスタンの家だった。


「やあニース。それにスタンさんにミラさん、こんにちは。あらためてお話ししたい事があって尋ねたのですが」


スタンは『こんにちは、マール』と挨拶をし、一同を見渡す。

が次の瞬間!スタンはニースを自分の後ろにいるミラに託すと魔導の杖を構える。ミラもニースをかばいながらその手に杖を持ち身構えている。


「…なぜ、あなたがここにいる、『番人』よ」


突如走る緊張感。険しい顔でエンを見据えるスタン。その表情にいつもの余裕は全く無い。


「スタン、突然すまない。彼にも俺たちにも害意はない、杖を下ろしてもらえないだろうか」


色々と説明したい事があるんだ、と割って入った祐樹と静かに頭を下げるエンにスタンは数秒ほど一同を見渡し、その杖を下ろす。そしてしずを見て


「…貴女あなたが、『魔王』か」


「突然ごめんなさい。とりあえずお話しさせてもらえないかしら」


---


「私の家族が大変お世話になりました」


ありがとうございます、祐樹の家内のしずです、と場所を移したスタン家のリビングで頭を下げて自己紹介。次いで結月ゆづきと結弦も本名の方で自己紹介をする。


「そうですか…まだわからない事が多いので確認させて下さい。ユーキ、貴方あなたは『天人』なのですよね。ならば『魔王』も『天人』だった、という事でよろしかったのでしょうか?」


それとも魔王と天人の間にできたお子がそのお二方なのですか、と問うスタンはいまだその緊張を解いてはいない。

横で『え、何それカッコイイ!』と目を光らせているニースをミラが『こらっ』と諌め、その腕に抱き寄せる。こちらもまだ緊張を解いていない様子だ。


「何から説明すればいいものか…」


祐樹はぽりぽりと頭をかくと、スタンと同じくこの時代の人類であり先に全てを説明したルークに視線を送る。が


「スタンさん、ユーキたち家族四人はみんな天人なんだってよ」


とあまり説明になってないルークの説明。なので誤解を生まぬよう静と祐樹で懇切丁寧に説明することとなった。


---


「はぁ〜…」


そうため息をついて両手で顔を覆い、考え込んでしまうスタン。


「ユーキ、貴方あなたや姉弟が只者ではない事には気づいてましたが…あまりにも情報量が多すぎて処理が追いつきません。それに…」


とミラとニースを見渡し


「この話を聞いてしまった私たち家族は軟禁されたり、あまつさえ『処分』されたりしないのですか?」


中央教会の『保守派』には、その思想に反する者や害する者を人知れず『処分』する『猟犬』を飼っている者もいる、そんな噂もスタンは聞いた事がないわけでもない。

万が一に備え、魔導の杖を持つスタンの手に汗がにじむ。が


「ないわよ。私たち教会とは直接関係はないもの」


まあハルカとは関係あるけどね、と笑う静。


「いや…ハルカ様を呼び捨てであったり天人でありながら天人教会と関係がないとおっしゃられたり、もう何をどう捉えて良いものやら…」


スタンは首を横に振ると脱力し、天を仰ぐ。


「そう深く考えないでくれ、スタン。俺たちも普通に人だし普通に家族なんだ。あらためてよろしくって挨拶に来ただけだよ」


そこにニースがポロっと毒を吐く


「そっかー、ユーキ兄ちゃんってマール兄ちゃんのパパだったんだね。どうりでおっちゃんみたいだなぁって思ってたんだー」


それを慌ててミラが諌めるもルークが追加口撃を放つ


「ま、ユーキのジジくささは筋金入りだしな」


とケラケラ笑い、結月も援護射撃


「だって父さんってばさ、見た目が若返ってても『どこのおっさんがほっつき歩いてんの?』って思ったんだもん」


きっと精神構造が猫背なんだよ、ぷぷぷっ、と笑う。そんな連続口撃でどんどん凹み行く祐樹に


「あら、そこが祐樹のいいところなのに。あなたたちわかってないわね」


とフォローを入れる静、そして横でうんうんと頷く結弦。

その様子にスタンも緊張を少し解き


「まあユーキはユーキだ、というところでしょうかね」


と笑って表情を崩し


「すみません、遅ればせながら私たちも自己紹介させて下さい。奥様は初めましてですね。私はスタン、『スタン・スペンサー』と申します。先日まで行商をしていましたがこのほど隠居しました。これからは旅の記録などを執筆しようかと考えております」


次いでミラとニースも自己紹介、これで一応はスタン一家から警戒のようなものは感じられないようになった。


---


「ではユーキたちは再びナワの街を訪問する、という事なのですか」


「ああ。今度は家内とエンとの三人旅だ」


あら、私との新婚旅行じゃなかったの、と隣で静が口を尖らせる。そんな静、ミラとは主婦同士ということもあり思いのほか話が合うようで


「でも主人ってばユーキさんと二人の姉弟が親子だって全然気づいてなかったのよ〜」


私なんて初めて三人を見たときに気づいたのにね〜、とミラは笑い、


「まあ男の人ってば鈍いっていうか鈍感って言うか。なのにこの人ってばさ、妙なところで勘が鋭いのよ。ホント『女』とは違う生き物だってこと実感させられるわ」


と静も相槌を打つ。その後も子供の育て方やら家事の事やらで盛り上がってる二人を尻目に祐樹もスタンといろいろな話をする。

結月と結弦、そしてルークとニースはそれらの話にはとうに飽きてしまい、いつものごとく四人で街へ出かけてしまった。


「あ、そうだ。スタン、うちの長男の結弦の事なんだけどさ、あいつこの街に住むみたいなんだ。少しでいいから気にかけていてもらえないかな?」


俺もナワから戻ったらカブールに住むからまたここへは頻繁に来ると思うけど、と祐樹。


「ははは、そうですか。もちろんですよ、全力でサポートさせてもらいます。なんならウチに住んでもらっても一向に構いませんが?」


『マール』という偽名の少年と共に往復したナワへの行商。その中で知った聡く思慮深い少年がもし困るという事があるのならば損得勘定なく助けたい、とスタンは語る。


「ははっ、息子の事をそんなに高く評価してもらえるってのは父親冥利に尽きるな。けどあいつ実はもうとっくに成人してるんだよ。もう大人なんだ」


かく言う祐樹も大人びた発言をしているが見た目はギリギリ成人したくらいの青年なのだ。


「そうですか、そうですね。ユーキもそうなのですよね」


祐樹はその言葉に笑い


「そうだな、俺たぶんスタンやギム達より一回りくらい上だよ」


ホントにおっさんなんだよ、と祐樹は苦笑してため息を漏らす。


「いいですね!若い身体に老練な思考と知識、私もそんな風になってみたいものですよ」


「なんだよ、いままで子供たちに散々言われてたの見てただろ?その結果がこの『非常におっさんくさい若者』だよ」


そう言って祐樹は笑い、スタンも『はははっ!そうですね』と笑った。


---


「静、そろそろおいとましようか」


陽が傾き始め、ミラもそろそろ夕食の準備をしなければいけない時間帯だ。


「ユーキ、あなた達はどこかに泊まってるのですか?」


とりあえずは今泊まっている宿を連泊で申し込んでいる、祐樹はそう説明すると


「ならば今夜はウチに泊まりませんか?部屋もありますし幸いまだ夕食のの準備はしてません、今なら人数分の準備もできますよ」


そのスタンの言葉に静は


「あ、じゃあ私ミラと一緒に買い物行ってくる。今夜は皆でパーティしましょ!」


と静はミラと楽しげにそそくさと買い物へと出かけて行った。家に残ったのはおっさんと若いおっさんの二人。


「なあスタン。あの子達が俺の娘と息子だって事、いつ気づいたんだ?」


「インの街ですね」


げっ、そんな早くに気づいたのか、と祐樹は肩を落としてため息をつく。


「それにミラはナワの街でユーキと顔合わせした時に『あっ!この人あの子達の父親だ』って気づいたと言ってましたよ」


なんと。あの二人、祐樹と顔を合わせた初っぱなからミラには見破られていたのだ。


「私がインの街で気づいた時にミラにそれを言うと『え、今頃?気づくの遅いわよあなた。でもあの子達は隠しているみたいだしあなたもそれには触れないようにね』と言われてしまいました」


とスタンは苦笑する。


「そっか…。女って、すごいな」


「ふふっ、そうですね」


---


そしてその夜、ミラと静によって料理がふるまわれた。

その中でもスタンは静の持参していた味噌と醤油の味、そして乾物によってもたらされた味『旨味』に驚愕するとともに深く感動。それついて静を質問攻めにし、『これは…商機になる…!』と人知れず野望を燃やすのだった。










ま、グルメツアー愛好家ですから(笑)



ともあれ、次の話が『再会編』最終話になります。

次々回から新章『結月編』です。





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