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らせんのきおく  作者: よへち
再会編
135/205

第135話 閑話14『ルークのファッションチェック』



自身の着ている服を見て考え込むマール。


「なんでこれダメなんだろ…?」


インの街の問題が解決した月斜の夜。皆で会食に出るとのことなのでそれなりに小綺麗な服で赴いたマール。だがそこで待っていたのは、その服に対する女性陣からの『ダメ出し』の言葉だった。


常々、姉や母からは『あんたの服のセンスは壊滅的』と言われ続けてきた結弦マール

まあ今更その事を気にするでもなかったのだが、同世代であるルークの服のセンスをあの姉が褒めたのに加え、幼いとはいえ女性であるニースに


「マール兄ちゃん…いつも真っ黒だね」


と呟いて苦笑されてしまったのだ。それにはマールもさすがにダメージを受けた。

姉にその事を相談しようにも、今夜の彼女は先ほど祐樹ちちを怒らせてしまい激しく落ち込んでいる。とてもそんな空気ではない。

仕方なく自分でそれなりに考え、翌々日の出発の朝、いつもの旅装に自分なりに少しアレンジを加えて宿を出るマールだったのだが…


「おいマール。そりゃあちょっと…どうなんだ?」


と服のことでルークに呼び止められる。


「あれっ、これダメかなぁ?」


ルークはマールをしばらく眺め、首を傾げて考えると


「う〜ん…ダメってこたぁねえけどよ、それはちょっと違うと思うぜ」


そう言うと『ちょっといいか?』とマールの服に少し手を加える。スボンの腰紐の位置を下げて裾を折ったり、シャツの裾を出したり、上の方の綴じ紐を少し緩めたり。パタパタとアレンジを加えてゆく。


「そうだな、ホントは上か下か靴にだけでも別の差し色があったほうがいいんだけどな」


仕上がったマールの姿を見てルークは腰に手を当てて満足げに頷く。

マールは自身の格好を確認する。だらしなくない程度に着崩されたスボンとシャツ。着ているものは何一つ変わってはいない。だが雰囲気は少々ラフな感じに、なった?


「そのシャツ、横にスリットが入ってて後ろのカットも水平だろ?それスボンから出してスリットから中のシャツを見せて着るヤツだぜ」


そして腰紐の位置が下がったせいか重心のバランスが下寄りに、安定感のある雰囲気になっている。


「んでよ、おめぇさっきまでの服の着方じゃ重心が『女』の位置だ。男ならヘソより下くらいに重心を据えたほうが安定感があって見栄えが良くなるんだよ」


とルークは笑う。いや確かに安定感は出たのだが


「でもさ、これじゃあ『短足』に見えない?」


元々が日本人体型の結弦マール、腰紐を下げて余った裾を折ったことによりさらに短足の度合いが増してしまった感がある。それをルークは笑い飛ばす。


「ははっ!そっか、マールおめぇそれを気にして腰紐の位置をあんなに上げてたんだな。心配すんな、そんな事してもおめぇの足が短ぇのは変わりねぇぜ!」


地味にショックを受けるマール。そう言うルークはさすが細身美形で金髪碧眼のエルフ、髪は短くなってはいるものの足もスラリと長く、何もしなくてもかなりのイケメンだ。そんなビジュアルの差にマールが少々ヘコんでいると


「でもよ、おめぇの今のその格好、俺がやっても似合わねぇんだよ、俺はヒョロ長ぇからな。こういう格好の方が合うんだよ」


今のルークの格好はファンタジー世界を旅する魔法剣士、というか…関西のおばちゃんの言う『シュッとした感じ』だ。


「でもいいよね、その体型。なれるものならなってみたいよ」


マールは羨望の眼差しでため息をつき、空を仰ぐ。だが意外なことにルークは


「ん、そうなのか?俺ぁおめぇみたいにこう『力を内包しているような剛健さ』をした体型のほうが羨ましいけどな」


『俺なんて水を吸っちまったパンみてぇだろ、色白で女みてぇだし』と肩を竦め、こちらも羨望の眼差しでマールを眺める。

ルークとマール、どうやら互いに『無い物ねだり』をしているようだ。


この事があってからマールは度々ルークに服や装備のことについて相談するようになった。


---


「でさ、僕思うんだけどなんで『黒』ってダメなの?」


ある日の食事時。またしてもルークに相談するマール。

マールの装備品や衣類はほとんどが『黒』だ。旅をするにしても汚れが目立ちにくく、身体も締まって見えるし、何より自分に似合っている、とマールは思っている。


「そうだな、『黒』ってのはまあ一番無難なんだよ、誰にでも似合うしな。けどそりゃけっして洒落てるってワケじゃねぇんだよ」


ルーク曰く、黒を使ってお洒落に見せるのは結構難易度が高いらしい。そして誰もが安易に自分に似合っていると錯覚してしまう色、それが黒。


「でもそれを言っちゃあユーキさんも全身真っ黒じゃん。あれはいいの?」


「ん、ユーキか。あいつはおめぇと違って髪も瞳も真っ黒だろ?だからあれはあれでいいんだよ。それにあの服、詳しいことは知らねえがあいつの身体に合わせて作ってあんぜ。ありゃあたぶんオーダーメイドだ」


『相当な一張羅いっちょうらだぜ、ありゃあ』と言ってルークは肩をすくめる。

母が父の為に作ったという『黒のファンタジー服』。それはルークのファッションチェックにおいても概ね高評価だった。

対してマールが衣類店で買った、自分に合うサイズの黒い服達はルーク曰く『四十五点』だそうだ。

するとルークはマールの身体を服の上からパタパタと触って確認する。


「マール、だいたいおめぇの服はどれも大きすぎんだよ。実際には見た目より締まった身体してるだろ?もっとサイズ感を身体にあわせて明るめの服を着たほうがぜってぇ似合うって」


とそこでルークはひらめく


「そうだ!カンドの街に着いたら一緒に服見に行こうぜ!」


あそこはこの島の入り口なだけあって色んなもん売ってんだよ、と目を輝かせて話すルーク。マールはその顔に見覚えがある。新たな街に着いて買い物に出かける時の姉の顔のそれだ。

ルーク、実は君おんなの子なんじゃないのか?なんて事を思いながらもマールはおくびにも出さず



「そうだね。じゃあまたその時も相談に乗ってよ」



と、マールもマールなりにそれを楽しみにカンドの街へと向かうのだった。








まあ服っていうのは人それぞれですし、何より『流行』ってもの一定周期で昔に戻ったりもします。


ある程度の決まり事さえ外さなければそんなに変なコーディネートにはならないとは思いますが、それでも鏡を使って客観的に見る事も大事ですよね。


『ファッションなんて興味もないし、どうでもいいよ』と考えてる方もおられるとは思いますが、少しは気に留めておかないと家族や友人まで恥ずかしい事になりかねません。


最低限の身だしなみ。それは近親者に対する最低限のマナーでもあるんじゃないでしょうか。






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