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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
13/205

第013話 『最初はEXP.1050だったんだよ』



ギムの店を出てしばらく。祐樹はエイの目を見るとエイは頷く。

間違いない。つけられているようだ。

それに気付いた祐樹達は、途中で2回路地を曲がったがその追尾者の魔力の気配は消えなかった。

知らない世界の初めての街。祐樹につけられる覚えなどない。


「大方、物盗りじゃろ。そんなに強い気配ではないしの。新品の防具とカバンを持って店を出たのを見られたのじゃ。景気の良い相手だと踏んだんじゃろ」


ケンカや揉め事が苦手な祐樹、なんとかして接触は避けたかったのだがその判断は少し遅かったようだ。

1人の気配はすぐ後ろから、そしてもう1人の気配は前の方から近付いてくる。祐樹達は挟まれてしまった。

逃げ道は右へ抜ける路地。しかしこれはおそらく罠だ。挟み撃ちはここへ誘い込む為の布石だろう。


「エイ、任せてもいい?」


情けない話だが祐樹はある意味加減を知らない。スキルを使わなかったらボロ負け必至、スキルを使えばヘタをすると殺してしまいかねない。


「うむ。任された」


と答えたエイは何だか楽しそうだ。


「あ、でも殺すのは無しだぞ」


祐樹のその言葉にエイは一瞬キョトンとした表情になり


「ユーキも同じことを言うんじゃな」


と優しく微笑んだ。

が、すぐにいつもの飄々とした顔に戻り


「ではユーキよ、その路地に駆け込んだら身を隠すんじゃ。あとは儂がやる」


エイの目配せを合図に路地へ駆け込む祐樹とエイ。

案の定、路地は少し先で袋小路になっていた。

祐樹はスキル[加速]を使い、路地にあった樽の裏へ素早く隠れる。

祐樹が影からエイの様子を伺うと…


『!?』


そこにエイの姿はなかった。

その代わりに追尾者であろう金髪のチンピラ風情な若者が2人、向き合って立っている。だがその2人の姿は瓜二つ、鏡に映したかのように全く同じ格好だ。

そして何か様子がおかしい。

1人は背中を向けているので祐樹からは表情は読み取れない。もう1人のほうは、向き合う『男』の顔を見て驚きのあまり声も出ない、といった表情だ。

そして祐樹に背中を向けている方の『男』が呟く。


「よう。俺」


言うや否や相手の男の首を掴む。

次の瞬間、掴まれたほうの男は身体を『ビクン』と痙攣させ、失神した。

その失神した男をこちらに『ぽいっ』と投げた『男』は、路地を出てもう1人の追尾者と二言三言話し、追尾者は何処かへ走り去ってしまった。

それを確認した『男』は路地へ戻ってきた。


「エイ、なんだよな?」


『男』は瞬時にエイの姿に戻った。


「ははは。バレてしもたの」


「また聞きたいことが増えたけど、とりあえずコレどうする?死んでないよな?」


祐樹の足元には白目を剥いた金髪のチンピラ。

だが祐樹は気付く。こいつはエルフだ。耳が長い。そしてよく見ればまだ若い。子供じゃないか。

エルフ…まさかギムの差し金か?と疑う祐樹に


「それはないじゃろ。彼奴は儂らの腕を高く買うておった。こんな子供を寄越すなんぞ殺してくれと言うておるようなもんじゃ」


「だよなぁ」


「ほっときゃそのうち目を覚ます、ここに捨て置いて問題なかろう。それより宿じゃな。ユーキには聞きたい事もあろう?」


---


宿はあっさり見つかった。ハンター達が出稼ぎに来る街という事もあり、よく見るとメインストリートは宿だらけだった。

良さげな宿を見つけた祐樹達は、次々回の月陰明けまでの2部屋6泊分を予約して先払いしておく。

祐樹は部屋に入ると荷物を降ろして防具を解き、椅子に腰掛けると深い溜息をつく。こんな世界でも拠点があるという事はそれだけでホッとするようだ。


外には夜の帳が下り、部屋はランプの揺れる灯りに照らされていた。そんな様子に祐樹はあの石室を思い出す。

祐樹の部屋に来たエイにお茶を入れてもらい、一息つく祐樹。そしてあらためてエイに問う。


「エイ。君は一体何者だ?」


「それは儂の役目の事を問うておるのか?それとも儂という個体の事を聞いておるのか?」


「どっちなら答えられるんだ?」


「先の問いは、前にも言うたとおり儂はあのお方に頼まれてユーキの護衛をしておる。必の命令はユーキを死なせぬ事じゃ。ユーキが旅半ばに安定を得て、そこで暮らすと言うならユーキの寿命が尽きるまで見守れ、と仰せつかっておる」


なんという命令だ。それはある意味『隷属の命令』だ。本人の意思は介在しない。それでいいのかと祐樹はエイに問うが


「あのお方に尽くす事が儂の存在意義じゃ」


そう語るエイからは普段の飄々とした空気は全く感じられない。それだけ『あのお方』とやらに忠誠を誓っているという事が現れていた。


「じゃあ後の問いは?」


揺れる灯りに照らされる2人。暫しの沈黙の後、エイは口を開く。


「儂は…まあこんな感じじゃ」


と言うと彼女は突如、姿を消した。

キョロキョロとエイを探す祐樹に


「ここじゃ、ここじゃ」


声は祐樹の足元から聞こえる。

祐樹が下を見ると、こんもりとした液体?流動体?がある。

見た感じは水銀か溶けたハンダのような感じだ。


「これが儂の正体じゃ」


液体金属がウネウネ動きながら喋った!?


「エ、エイなのか!?」


「左様じゃ」


これにはさすがの祐樹も驚いた。この世界に来て大概の事には慣れたつもりだった祐樹だが、これはその域をブッ千切った。


「儂は無機物を取り込んで身体を作っておるんじゃ。ユーキ達も有機物を取り込んで身体を作っておるじゃろ?同じじゃ」


「ちがーーーーう!」


祐樹の足元でぷにょぷにょしながら喋るエイに思わずツッコミを入れる祐樹。

彼はその姿に既視感を覚え、そしてその既視感の正体を思い出した。

アレだ。某国民的RPGに出て来る


はぐれメ◯ルだ!


倒したら経験値たくさん貰えるのか?

思わずゴクリと生唾を飲む祐樹。


「む、今、良からぬ気配を感じたぞ」


「エイ、話しにくいから元に戻ってもらえるか?」


人の形に戻るエイ。だが姿はエイじゃない。エルフのおっさんだ。


「なあユーキ、お前ぇさん今夜ヒマか?だったら俺に付き合え。いいとこ連れてってやる。美人揃いなのは俺が保証するぜ」


げっへっへ、と笑う。


「なんでギムなんだよっ!?」


と、エイは元の壮年女性の姿に戻る。


「とまあ外見は好きに変えられるんじゃ」


はぁぁ…と脱力し、テーブルに突っ伏す祐樹。本日2度目。

今日1日で得た情報が多すぎて、理解が追いついていない。


「なあ、エイ。今夜はもう寝よう。なんか疲れた」


するとエイはまた姿を変えた。


「あたしと寝るの?今夜は寝かさないわよ」


セクシー美女に大変身。


「ごめん。スライムには興奮しない。もう寝る。おやすみ」


ベッドへ入る祐樹。


「ちぇっ。つまらんのお。では儂も寝るとするか。また明日な、ユーキ」


エイは元の壮年女性に戻り、自室へ帰って行った。


実のところ祐樹はもうヘトヘトだった。

森を歩いてきた疲れと、新たに知った多くの情報、身体も頭も疲労困憊だ。

考えることを放棄し、意識を閉じる。


久々に潜り込んだベッドは暖かく柔らかく、人里に出た安堵もあり祐樹は一瞬にして深い眠りに落ちたのだった。






祐樹達を尾行し、襲ったチンピラ少年。

そんな出会い方をした彼らですが、後ほどに彼は祐樹にとってかけがえのない存在になります。

まあそれはお約束な話ではあるんですが。

ただ、それは友情やライバルとしてではなく…


あ、BLでもないですよ、絶対。

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