第128話 閑話12『待人』
………完了。
永のコアは祐樹の身体から約三百年ぶりに離れ、その周囲にある無機物をまとって人の形をかたどる。
「祐樹様、作業完了です。三百年間お疲れ様でした。いよいよ目覚めの時です」
そう言って微笑むパンツスーツ姿の女性・永。
「っと、こちらの姿ではありませんでしたね」
そう言うと永はその姿を中年の女浪人へと変化させる。
「うむ、この姿も悪くはないのぉ」
と言い、カカッと笑う。
「さて、これからが問題じゃな。いかように静様の元まで連れて行こうかのう?」
あのお方も難儀な無茶振りをするもんじゃ、と永は苦笑する。
遠からの情報では、もうそろそろ祐樹を起こさなければナワでの結月と結弦との合流に間に合わない。のんびりと考えている時間ももうさほどないようだ。
「ま、なんとかなるじゃろ」
永は祐樹の身体に触れると覚醒の信号を送る。すると身じろぎをし、まもなく祐樹は意識を取り戻した。
「おはようございます、祐樹様」
女浪人の姿でそう挨拶し、こうべを垂れる永。だが無論、暗示のなされていない祐樹にそれは聞き取れてはいない。永は不思議そうな顔をする祐樹の目を覗き込み、『時間』と『重力』に関する暗示をかける。すると祐樹は例によって一度意識を失う。
そしてさほどの時を置かず再び目覚めた祐樹は、何かを思い出したのか今度は慌てて飛び起き、再び不思議そうな顔であたりをキョロキョロと見回す。
永の姿を見とめると永に何か話しかけようとする素ぶりを見せる。
そんな祐樹に永は声をかける。
「まったく、ほんによく寝ておったのう。待ちくたびれたわい」
こうして始まる『祐樹の旅』。
しかしその裏ではこの茶番をバラすわけにはいかない永と、早く誰かのせいでバレてしまえばいいのにと思っている結弦。
そしてバラしたくないのに心の何処かではバレてほしいと願っている結月の思いがあります。
『父との旅』。面白半分で母の話に乗った結月だったのですが、彼女にとってもそれは思っていたようなものではなかったようです。