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らせんのきおく  作者: よへち
再会編
126/205

第126話 『やはり魔王と筑前煮』



天人様からの天啓により、各地の教会の掲示板に掲げられている『魔王討伐』の文言は書き換えられていた。


『地下迷宮に封じられた眠る魔王を討伐』から『地下迷宮にて目覚めた魔王を討伐』へと変更されていたのだ。


各地の教会関係者は天啓に従ってそれを変更、もちろんカブールの教会関係者もそれにならい掲示板の中身を変更するのだがそれを見たカブールの市民は混乱、それを問い合わせる人が教会に殺到したのだ。


だがカブールの教会関係者とて掲示板の中身以上の事はわからず、それを中央教会へ問い合わせるべく急遽早馬がカブールからイミグラへと跳ぶ事態へと発展。それを見たカブールの街の人々は『教会関係者が逃げ出した!この街はお終いだ!』とパニックになり騒動に拍車をかけ、その話は瞬く間に街中へと広まっていった。


そしてその騒ぎを聞きつけたご近所さんは教会の掲示板を見に行き、慌てて静の元へとかけつけたのだった。

発布の翌日。早馬の問い合わせを受けたイミグラのハルカは慌ててカブールの司祭に天啓を下す。


『確かに魔王は目覚めました。ですが大教皇と天人様によって施された封印は破られてはおらず、危険はありません』


それを受けたカブールの教会は事態の沈静化をはかるのだが…


「結局、シズの言う通りだったんだよねぇ」


と今度はティリア宅でお茶を飲み、井戸端会議を繰り広げる静達ご近所メンバー。


「でも教会もあんまりよねー」


とりあえずこの騒動は落ち着きつつあるのだが、その二日間で既に家財道具一式を持ってイミグラへと逃げ出した者達や、その者達が広める『カブールは魔王が復活して壊滅した!』などの噂はどんどん拡散され、さらには『我こそは勇者なり!』という冒険者が駆けつけるなど、なかなかな騒ぎにはなっていた。


「まあ大陸各地から勇者たちが駆けつけてるんだし、もしかするとこの街が世界で一番安全な街かもね」


と静は笑う。が『遥、あなた説教よ』と心の中でツノを生やす。

まあせめてもの救いは、この件でカブールの街の人々二『防災意識?』が芽生えた事だ。

皆はいざ逃げようとしたものの、何を持って何処へ行けばいいのか全くわからず右往左往するだけだったのだ。

なので静はご近所さんに『いざという時に持ち出せる生活用具一式を入れたバッグを玄関にでもに置いておくといいわよ』と非常用持ち出し袋の設置、そして逃げる先のアテを作っておくことを推奨する。


「まあともあれ何もしなかった私たちが一番先に落ち着くなんて皮肉な話よね〜」


ティリアもお茶を口にしてため息をつく。と隣家、静の家に帰宅する物音が。結月ゆづき結弦ゆづるだ。


「あ、子供たちが帰ってきたみたい。私も帰るわね」


『お茶、ごちそうさま』と静はティリアの家を後にする。


---


「で、どうだった?イミグラの様子は」


例の発布から一度の月陰を挟み、今日で六日目。静は子供たちに教会の依頼を受けるついでにイミグラへと様子を見に行かせていたのだ。

すると結月はため息ををつき


「例の噂の火消しに中央教会が躍起やっきになってる、って感じだったわ」


だがイミグラでは既にカブールはもう壊滅した事になっている、らしい。

その情報を中央教会が慌てて訂正に回っているそうなのだが、えてしてそういう噂は公的機関が否定すればするほど真実味が増すようで、イミグラの住民には本当のところが見えていない状態のようだ。


「で、ハルカは?」


「母さんが怒ってるだろな、って青い顔してたよ」


あんなに感情表現豊かに落ち込むA.I.のホログラムもなかなか見られないよね、と結弦は笑う。


「そう。まあ彼女も今回は失敗したと自覚があるのならこの件はあまり触れないようにしましょう」


たぶん死人も怪我人も出てないと思うし、混乱が落ち着けば乗合馬車も運行する、すぐ元通りになるでしょ。と静は苦笑まじりにため息をつく。


「でさ母さん。例のモノは手に入ったの?」


「ん?ああ、あれね。ええ、そこにあるわよ」


と静が指差したのは、キッチンのあたりに積んであるいくつかの『木桶きおけ』。


「みんなバタバタしてたからね」


静はティリアに教えてもらった例の店々を訪ねて歩き『製造に使っている木桶、古いのでいいからわけてもらえないかしら』と、ほぼ廃棄寸前の木桶をわけてもらってきたのだ。


「みんな街から逃げようかどうか迷ってたみたいだし、あっさりわけてくれたわよ」


逃げる必要ないと思うわよ、とは進言してきたけどね。と静は苦笑する。

で、静の貰ってきたそれらは『発酵食品の製造に使う木桶』。もちろんそのまま使える物はそのまま使うのだが、静の本来の目的はそこではない。


「長いこと発酵に使われてきた木桶よ、良い菌が住んでるんじゃない?」


まずはこの木桶に住む菌から『こうじ』を作る。それを茹でた豆や穀物に混ぜて保管し、発酵させる。

そう、『味噌』と『醤油』を作ろうとしているのだ。


「味噌とか醤油とかはね、東アジア特有の菌による発酵なのよ。ここに集めたモノで出来るか怪しいとこだけど、まあ時間も材料もいっぱいあるし『数撃ちゃ当たる』でしょ」


はっきり言って静に味噌や醤油作りの知識はない。かろうじて知っている事と言えば、茹でた穀物に麹と塩を混ぜて発酵させれば味噌か醤油かゴミが出来る、それくらいだ。


「たしか麹の種類で味噌になったり醤油になったりするはずなんだけど…」


ま、似たようなモノは出来るんじゃない?と肩をすくめて苦笑い。


「いいじゃん母さん。まだ時間あるし」


出来上がったら教えてね、僕も料理に使いたいから。と結弦もそれに期待を寄せる。だが結月は


「でもさ、なんで味噌と醤油にこだわるの?」


あたし、別にそれがなくてもこの世界の料理おいしいと思うけどなぁ、とそれには関心を示さない。すると静はテーブルを『バンッ!』と叩いて立ち上がり


「何言ってんの!醤油がなきゃ作れないじゃない!その為に祐樹には蘇って貰ったんだから!」


驚く結月と結弦を尻目に静は



「作るのよ。あの時、祐樹が食べ損ねた『筑前煮』を」



『大好物なんだから、あの人の』と言い、ニコリと笑ったのだった。






もちろん静はその為に祐樹を復活させたわけではありません(笑)


と、そんな感じなカブールの日常をお送りしました。

次回からはいよいよ結月と結弦とスタン一家、そしてエイと祐樹の旅が始まります。


ああそうだ。ルーク、もうすぐ久々に出番ですよ。








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