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らせんのきおく  作者: よへち
静編
120/205

第120話 『おやすみなさい』



「そうですか…やはり旅立つのですね、ゲオ」


その夜、ゲオ宅で街の首脳を集めた会合が持たれた。

と言ってもゲオとウォード、あとは教会の騎士団長、そして静とエンの『迷宮の新たな管理者』だけだ。

ウォードもゲオのそういう気配には薄々感づいていたようだった。少し申し訳なさそうな顔をしたゲオにウォードは『まあ街の方は何とかなりますよ』と笑いかける。


「それで迷宮の方なんだけど、あと残り八個の『踏破者の証』が掃けたら趣向を変えるわね」


と静はあらかじめ遥と打ち合わせていた『おまけ』の話を、ゲオには一度話しているのだがあらためて彼らに詳しく説明する。


「わかりました。では我々教会のほうも中央からのお達しがあるのを待っております」


『これはまた退屈しない街ですね、ここは』と笑う騎士団長。


「しかし三百年も眠るとは…ゲオから色々と話は伺っておりましたがつくづく貴女あなたは規格外ですね」


「違うわよウォード。私たちは貴方たちと同じ人間だもの、すごいのは遠や遥よね」


だがそもそもイミグラに住んでいたウォード、そしてイミグラから派遣されてきた騎士団長にとって遥は、その存在すら不明瞭な『天人・ハルカ様』なのだ。そんな存在を軽く呼び捨てにして話を通してしまう静にウォードは『ははは…流石ですね』と苦笑する。


「ところでゲオ、貴方はどちらへ向かわれるのですか?」


ウォードにそう話を振られたゲオだが、実はまだ行き先までは決めていないようだ。『う〜ん…』と考えるそぶりを見せると


「なあシズ姐さん、東の果てってのはどんなトコだ?」


曰く、西から流れてきたゲオ、戻るのは嫌なので漠然と東へ向かおうかと考えていたらしい。


「いいところよ、魚も美味しいし」


いや違う。ゲオは家族を連れて行く以上、危険度がどれほどのものかを問いたかったのだ。その手の話となるとやはりアリエルの顔は少々曇る。


「大丈夫よ。私に出会うまで貴方たち流浪の野盗やってたんでしょ?そんな情けない顔するんじゃないわよ」


それに結月ゆづきに勝った貴方あなたより強い存在なんていないわよ、と静は言葉でゲオの尻を叩く。


「ああそうだな。守るモノが増えたらつい弱気になってしまってな」


とゲオは苦笑する。すると静は大笑いし


「あはははっ!なにバカなこと言ってんの!ウチの主人は言ってたわよ、『守るモノが出来たから俺は強くなれた』ってね」


するとゲオ、両手を挙げて降参のポーズをとり


「姐さん、あんたらには勝てないよ」


と笑う。

程なくして友人に会いに行っていた結月、そして『エルフの吟遊詩人の少女が来ていた』という噂を聞いて探しに出ていた結弦も戻った。

どうやらカノンはこの街にしばらくの間滞在していたようだが、一組目の迷宮踏破者が現れた後、また旅立ったらしい。少々気落ちしている結弦に静は


「まあ人との出会いなんて『一期一会』よ。再会が叶わなかったのならそれは『えん』がなかったって事ね」


と優しく微笑んで、そしてしばらく考えるとこう言った。


「ねえ結弦。あなただけ残ってこの時代に生きても構わないのよ」


だが結弦は静かに首を横に振る。


「ううん、いいんだ。もしいたら別れの挨拶くらいできるかなって思っただけだよ」


と寂しそうに笑った。


「そう、わかったわ」


じゃあさっそく明日から行動に移すわよ、と言って静はその夜の会合を閉じた。


---


翌日、月斜の日。街をあげての盛大な『送別会』が行われた。見送られるのは街の創設のおさであるゲオルグ一家、そして創設の立役者である静一行。

新たな住民たちにはあまり馴染みのない静一行だが、街の創設メンバーである獣人たちは皆その別れを惜しんでくれた。


そしてその夜。静は静らしくその『月斜の夜』また夜逃げのように旅立つ、そのフリをする。

翌日の月陰の闇夜に乗じて迷宮に潜り込み、エンが最下層にその『寝所』を造る。


「遠。永とコンタクト取れる?ナワの祐樹はどうしてるのかしら」


「祐樹様のバイタルは良好です。永からの報告では何の問題もないようです」


その言葉を聞いた静は深く息を吸い、そして大きく息を吐く。


「そう。次こそ、今度こそ祐樹に会えるのよね」


そう微笑むと寝台の上に横になる。


「ほら、あんた達も早く寝なさい。次に起きたら父さんに会えるのよ」


それに習い、結月も呟きながら横になる。


「え〜…でも母さん、あの人ホントにあそこからここまで来れるの?」


「ねえ母さん。僕、父さんを迎えに行っちゃダメかなあ?」


「いいわよ。けどバレちゃ面白くないから変装くらいしなさいね 」


あと結月、次に祐樹のことを『あの人』呼ばわりしたら本気で怒るわよ、と静は結月を軽く叱りつける。


「ご、ごめんなさい。もう寝ます」


そう言って結月は仰向けになる。結弦は既に寝の姿勢に入っている。


「じゃあ遠。お願いね」


「かしこまりました」


遠は順に結弦と結月の目を覗き込み、冬眠の暗示をかけて行く。何事もなければ次に彼らが目覚めるのは三百年後だ。


「では静様。あとは私たちに任せてしばらくお休み下さい」



「ええ。じゃあ遠、また三百年後ね」



こうして静と二人の子供はカブールの迷宮で、そして祐樹は辺境の岩山で三百年の眠りに就いたのだった。









こうして静は三百年の眠りにつきます。

次に目覚めるのは祐樹の目覚める二年前。その間に少々と閑話を挟んで、次の章『再会編』へと話は移ります。


もう少々の閑話にお付き合いください。




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