第012話 『ギムの店』
食事の終わった祐樹達は、さっきの雑貨店へ戻る。
「ん?おお、さっきの兄さんに姐さんか。あの店行ったのか。美味かっただろ?」
「ああ美味かったよ。塩加減と香草の使い方が絶妙だな。火加減も完璧だった。いい店だったよ」
「おお!わかってんな兄さん!あの店で使ってる香草はウチでも売ってんだ。よかったら買ってってくれよな」
祐樹は店を見渡す。
棚の品揃えは、日用品、食料品から武器、防具、魔道具まで。大型商品にも埃が積もってない様子が売れ行きの良さを物語っていた。
「この店は『ギムレットの店』ってんだ。で、俺が店主のギムレットだ。ギムでいいぜ、ユーキ」
突然、名を呼ばれ驚く祐樹。
「さっき支払いの時にカードに書いてあったじゃねぇか。で、そっちの姐さんは何ってんだ?」
「儂はエイじゃ。よろしくな、ギム」
祐樹は商品棚を見て回る。
まずはギムおすすめの香草を手に取る。祐樹としてもあの肉の臭いはもう勘弁だ。塩や香辛料も忘れず手に取る。
火をつける魔道具。エイがいれば問題なさそうだが、1人で火が起こせないというのは祐樹にとっての不安材料の一つだ。
バックパック。木で作った背負子は重いし痛いし動きにくい。応急的に作ったモノだからもう使用に耐えないだろう。
そして武器と防具。
「なあユーキ。あのツノ狩ったのお前ぇさんだろ?そんなちっぽけなナイフじゃなくてあんなロングソードとか持ってみねぇのか?」
ロングソードを進めるギム。少し装飾の付いた、いかにも戦士なかっこいい剣だが
「いや、俺はこのナイフで不足を感じていない。これがいいんだ」
祐樹がそう言うとギムはニヤリと笑い
「それが正解だ。あんな剣に飛び付くヤツは間違いなく早死にする。ユーキ、見たところ旅は始めたばかりっぽいがお前ぇさんいい冒険者になるぜ」
いや、冒険者になるつもりはないんだが…なんて野暮な返事は返さず、祐樹もニヤリと笑う。
「だが防具はどうだ?そのなりはいくら何でも軽装すぎやしないか?」
それは祐樹自身も感じていた事だった。祐樹が小手なり脛当てなり物色していると
「なんじゃユーキ、その服じゃいかんのか?着替えるのか!?」
何故か妙に焦るエイ。
祐樹はエイと何日か一緒に居たが、こんな表情をするのを初めて見た。どうしたのだろうか?
「いや、中に鎖帷子か何か着て、上から何か防具を着けようかと思ってさ」
「そうか。そうじゃな。それがええ」
何かこの服に拘りのある様子のエイ。
何か思うところがありそうだが、祐樹としても別にこの服で問題ないので補助的な防具を物色、革の手甲と脛当て、鎖帷子を購入する事に。
「あと明日の食料品は持ってるのか?明日はどの店も開いてねぇぞ。ウチも休業だ」
明日が月陰だという事を失念していた祐樹、さらに食料品を購入。
あとは簡単なクラフト用具と裁縫用具を購入。これで何か壊れた時に簡単な修理ができる。何かと小器用な祐樹に案外この世界は向いているのかもしれない。
祐樹は再びカードで清算し、とりあえず防具の類はそのまま装着、他のモノはバックパックに入れ、買い物完了。
バックパックの中は調味料と道具類だけなので、旅の途中で素材を獲っても収納には問題なさそうだ。
「なあユーキ、お前ぇさんしばらくこの街にいるのか?」
「いや、俺たちはカブールへ帰る旅の途中だ。滞在期間は特に決めてないが…」
と、祐樹はエイに目線をやる。
「まあ急ぐ旅でもない。4〜5日くらい滞在してもええのではないか?」
「だ、そうだ」
「なら昼に食べた店があんだろ、いつも俺たちは夜あそこで呑んでんだ。気が向いたら来いよ、一杯奢るぜ」
「ああ、気が向いたら寄らせてもらうよ」
そう言って祐樹達はギムの店を後にした。
新品の防具とバックパックを背負って店を出た祐樹とエイ。
そんな彼らを2つの影が追っていた。
祐樹の服の出所はまた後ほど記載します。
祐樹自身は気付いてませんが、祐樹の動きに合わせて作られたかなり高性能な服なんです。
誰が作ったか、という事にも一含みあります。