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らせんのきおく  作者: よへち
静編
113/205

第113話 『ほのぼのと連行中』



「平和だな…」


うららかな陽気の昼下がり。そのまどろみにたゆたう男達がいた。

明日の月陰を控えた月斜の今日。そのせいで人の出も多く賑やかではあるものの、マイルの街は平和そのもので、詰所に控える教会騎士たちも退屈を持て余していた、その時までは。


「ねえ騎士様。貴方あなたたちで私をイミグラまでエスコートして下さらない?」


と現れた一人の女性。背後に三人を従えて。


「はっはっは。何をいっているんだい、お嬢さんがた。私たちはこの街の教会騎士…」


とその男たちの中の一人が彼女らの正体に気づく。


「なっ!お前たちっ、手配のあった者たちだなっ!おとなしくしろっ!」


その言葉を皮切りに騎士たちは抜剣し、即座に散開して身構える。だがしずは刀を、結月ゆづきは剣を前へ放り投げ、結弦ゆづるエンも両手を上にあげて抵抗する意思のない事を示す。

その無抵抗ぶりに呆気にとられながらも捕縛に動く騎士達。


「動くなっ!おとなしくしろ!」


「なによ、最初からおとなしくしてるじゃない…」


静たちは教会騎士に囚われ、イミグラまで連行される事を選んだのだった。


---


当初は中央からの手配のあった者たちという事もあり、教会騎士たちも強く警戒していた。だが騎士に囚われながらの移送中にも関わらず楽しげに話す四人を見て、その距離は次第に縮まっていった。


「ねえお嬢さんたち、君たちは一体何を仕出かしたんだい?」


そう声をかけてきたのは、最初に静たちの正体に気づいた生真面目そうな顔をしたエルフの騎士だ。


「う〜ん…そうね、教会のお偉いさんとケンカして逃げてきた、てトコかしらね」


静がそう言うと、もう一人の騎士が豪快に笑う。


「ガッハッハ!そいつぁ穏やかじゃねえな、嬢ちゃん」


静たちの移送される馬車には交代で二人の騎士が見張りについていた。今はその内の一組、物腰の柔らかいエルフの剣士とドワーフの重戦士の凸凹コンビだ。


「まあ俺たちも中央のお偉いさんなんて顔も名前も知らねぇからな。いつも地方に無茶振りばかりしやがるジジイのハゲ頭をはたいてくれたんなら礼も言いたいところだぜ」


と教会騎士でありながら信仰のカケラも見当たらない言葉を吐くドワーフの重戦士。その言葉を不思議そうに聞く静たちにエルフの剣士のほうが説明をしてくれる。


「教会騎士の中にも信仰に厚い者はおります。ですが大半は腕に覚えがあって安定収入を得たい者が就く『職業』です、我々『教会騎士』は」


曰く、元々は神官のみで編成されていた『教会組織』だったのだが、教皇に『ミーツォ』様が就任し、教会の掲示板で『教会騎士募集』の告知がされたという。


「特に俺たちみたいな地方の教会関係者は大半が『改新派』だぜ。保守派なんてあの街じゃ教会長くれぇじゃねえのか?」


話を聞くに、宗教色の強い天人教会の神官達が『保守派』で、教皇ミーツォが組織した教会騎士達の大半が『改新派』のようだ。だが


「そうとは限りませんよ。現にわたくしは保守派ですので」


「おお、そうだったな。すまんすまん、ガッハッハ!」


どうやら騎士の中にも敬虔な教徒はいるらしい。


「天人様は素晴らしいお方です。あのお方の天啓に従えば人には間違いなく幸せな未来が約束されるのです」


と、宙の点を見て恍惚に語るエルフの剣士。そんな彼に『ハルカを電撃で半殺しにした』なんて言うとエラい事になりそうなので、そこは静もグッと堪える。


「天人様と言えばよ、聞いたか?なんでもあの離島の魔獣の島に降臨したって話だぜ」


ドワーフの重戦士曰く、降臨した天人様は、その血肉を分け与えて死人を蘇らせたり、長年住民を苦しめてきた魔獣を手で撫でるようにほふったらしい。


「そうですよ!さすがは天人ハルカ様!その御心は海より深く、空より尊大なのです!」


もうダメだ、このエルフの目は狂信者そのものだ。その天人のうわさの正体は私たちで貴方あなたが信じてるハルカってのは人工知能よ、なんて言ったら間違いなくこの場で処刑執行だ。

あまり遥の話を掘り下げると色んな意味でヤブヘビになりそうなので、静は少し気になっていた『教皇・ミーツォ様』の話へ話題をシフトさせる。


「私は見たことないんだけど、若いんでしょ?ミーツォ様って」


「ああ、ウチの上の息子と同い年だから今年で十三歳のはずだぜ?」


ドワーフの話では、彼の息子が五歳の時に同い年の五歳の子供が教皇に就任したので、それは大変に驚いたという。


「なんでも神官達に天人ハルカ様から御神託があったらしいぜ、『この子が私の耳となり、口となります』ってな」


その出自も曖昧で、『田舎町の教会に通う孤児みなしごだった』だとか、また『保守派の重鎮の隠し子か』だとか。

様々な噂の流れた幼き教皇・ミーツォだったのだが、その見た目にそぐわない手腕と英知、そしてその慈愛の心で教皇就任後すぐに誰もが認める『教皇』になったという。


「僕も聞いたことがあるよ。街のみんなに愛されてるみたいだったよ」


働きすぎを心配されてたよ、僕と同い年なのにね。と結弦は笑う。


「へぇー。機会があれば一度お会いしたいものね」


と言った静を見て、二人の騎士は顔を見合わせる。


「あれ、聞いてないのですか?我々はあなたたちを教皇様の元へ連行するよう指示を受けてるのですよ」


---


いくつかの街を経た所で騎士たちは引き継ぎの騎士たちと交代し、それを幾度か繰り返し、そうやって連行された静たちは再びイミグラへと戻る。



「遥、怒ってるかしら…」



静はポソッと呟き、眼前のその塔を見上げるのだった。







何気に遥は静たちとはよく顔を合わせていましたが、基本的に遥はこの世界に住む人々の前には姿を現しません。

神官たちの脳に直接情報を送り込み、『天啓』として言葉を伝えていましたが、今は『教皇ミーツォ』が遥の言葉を代弁している事になっています。


と言うのも、ミーツォが発している言葉は『天人ハルカ様の言葉』ではありません。

その理由、次回あきらかにします。




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