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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第011話 『食後のティータイム』



食事を終えた祐樹達はテーブルを片付けてもらい飲み物を頼む。すると茶のようなものが来た。

て言うかお茶だ。懐かしい香りに祐樹も落ち着く。

お茶で一息つき、あらためてエイに聞く


「エイ、このカード。そもそも何なんだ?」


あの商店以降、祐樹は自分でカードを持っている。


「それを正しく言うならは『情報表示カード』というべきかの。そこには今現在のユーキの情報が表示されておるのじゃ」


カード自体には情報は入っていない、という事のようだ。


「て事は、落としたり無くしたり盗られたりしても問題ない、という事か?」


「聡いの。そういう事じゃ」


要はステータス・ウインドウという事のようだ。紛失したところで教会でいくらでも無料配布しており、新しいカードを使用登録すれば古い方は勝手に白状態に戻る。何の問題もないという。


「じゃあこれが無かったら買い物は出来ないのか?」


「そんな事はない。商店にも予備は置いておるだろうが無くともあの石に手をかざすと清算はできる。残高不足じゃと清算できん。ただそれだけじゃ」


ふ〜ん、とカードを眺める祐樹。よく見ると下の方に『condition[good]』と表示されている。健康状態まで表示されるようだ。

そして彼がもう1つ気になったのが

『登録地[カブール]』


「なあエイ。俺、カブールって所に覚えがないんだが、そこで登録したのか?」


「ん?ああそれはカードが発行された場所を書いてあるだけじゃ。特に意味もない」


まあ免許証だって別に出身地が書いてあるワケでもないのだ。だが祐樹が気になったのはそのカブールという場所だ。

衛士がその街の名を見て顔を曇らせたのを彼は見落とさなかった。たしかエイの言う『あのお方』がいると言っていた街の名もカブールであったはずだ。


「カブールは俺たちの目的地だよな。衛士の様子が変だったけど何があったのか?」


祐樹はエイが『彼の地がどうなったのかを知らぬ訳でもない』と言ったのを聞き逃さなかった。


「うむ、眠りについていた魔王が2年前に彼の地で目覚めたんじゃ」


ブハッ!と盛大にお茶を吹く祐樹。

しまった、これは聞くべきではなかったか、と思うと同時に祐樹はこの世界に来て最大級の嫌な予感に襲われる。

いや、もはや確信だった。だが祐樹は一応エイに聞いてみる。


「なあ、『あのお方』ってのは…」


「『魔王』様じゃ」


祐樹は力無く机に突っ伏す。

魔王に会いに行こうとしていたのだ。

そのまま一呼吸置き、祐樹は考える。

エイはあのお方に依頼されて俺の護衛していると言っていた。何故この世界の魔王が俺を知っている?

俺の持つ何かが欲しくて、死んだ俺をこの世界に召喚しエイを迎えに寄越したのか?

色々考えた祐樹だったが、答えは決まっていた。


「なあエイ、俺は肉体的にも精神的にもそんなに強い男じゃない。魔王の元へ行っても役に立たないぞ、たぶん」


「ん?何を言っておるんじゃ?」


「ましてや魔族の尖兵として人間と戦うなんて御免だ。他を当たってくれ」


人類を敵に回してまで、誰かを不幸にしてまで魔王の知識を借りて家族と再会したとしても彼女らが喜ぶはずもない。そんな事になるくらいなら野垂れ死んだほうがマシだ。と席を立とうとする祐樹。

そんな祐樹にエイは極めて真剣な面持ちで問う。


「なあユーキ」


「なんだ?俺は俺自身や家族を守る為以外の戦いはもうしないぞ」


そう答えた祐樹に予想外の問いがエイから出る。


「『魔族』って…何じゃ?」


見事にズッコケる祐樹。だがエイは極めて真剣な面持ちだ。


「なっ、『魔王』っていうくらいなんだから魔族の王じゃ無いのか!?」


「む、そういう事か。じゃが儂は魔族という言葉も、その存在も知らぬぞ。見た事もない。」


その言葉に祐樹は少し安堵し、落ち着きを取り戻す。


「じゃあ何で『魔王』なんて大仰な肩書きを名乗ってるんだよ」


祐樹はその名に筑前煮とも合いそうな同名の焼酎を思い出す。


「ああ、そういうことか。別にあのお方が魔王と名乗ってる訳ではないんじゃがなぁ」


ポリポリと頭を掻きながらエイは語る。

約300年ほど前、『あのお方』と中央教会が大きなケンカをしたという。それ以降『あのお方』はカブールの地下迷宮で眠りについていたそうだ。だがその時に中央教会は発布を出したのだ『カブールの地下迷宮に眠る魔王を討伐した者には金と栄誉を与える』と。


「なるほどな、それで魔王か。で、そんな魔王と俺に何の関係があるんだ?」


「それに答える権限は儂には与えられておらん。あのお方に会うた時に直接聞いてくれ。じゃがあのお方がユーキに害意はないのは保証しよう。なにせ側近の儂を護衛につけるくらいじゃからな」


ここでまた新たな事実が発覚する。目の前にいる彼女『エイ』、なんと魔王の側近だというのだ。


「『魔王の側近』か。なかなかにカッコ良い肩書きじゃの」


と笑うエイ。

エイは笑っているが、祐樹は内心穏やかではなかった。なにせ相手は自称ではないとはいえ魔王だ。

ここへ来て色々知った、知ってしまった祐樹だが、むしろ今度はエイを信じていいのかわからなくなってしまった。


「じゃあエイ、1つ正直に答えてくれ。君は…人間か?」


「ちがうぞ」


あっさり否定するエイに祐樹は少し拍子抜けする。


「ん?それは別に言うなとは言われておらんし、今夜にでも話そうと思っていた事じゃったんじゃが。そんなに驚きか?」


だがエイの言った通り、祐樹はこの街に来て人間ではない人達の存在をたくさん知った。なのでそれはさほど驚きでもなかった。

ただ、やはり1番の驚愕はこの旅が『魔王に会いに行く旅』だと知った事だろうか。



祐樹が『はぁ』と溜息をつくと、表でカラスが『カァ』と鳴いた。






祐樹の飲んだのはお茶でしたが、実はこの世界にはコーヒーも存在します。

ただ愛好者が少ないのと高価なのもあって、ごく一部の地域で飲まれているのみのようです。

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