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らせんのきおく  作者: よへち
静編
109/205

第109話 『電撃ビリビリ秘書官』



「……」


部屋で向き合う四人。

しずハルカ永遠トワ、そして…永遠トワ!?


「…どう、何か違和感とかある?」


静にそう問われ、神妙なおもちで顔を見合わせる三人。


「「我々に違和感は無いのですが…」」


異口同音で言葉を濁す二人の永遠。


「どうやら私とのリンクが途切れたようですね」


と話すのは、若干の困り顔をした遥だ。

静の試行錯誤の末、永遠のコアは二つに分割され『もう一人の永遠』を生み出すことには成功した。

だが通信ポートが一つしかない永遠、もともと一つの個だった存在を二つに分割したせいか、そのリンクが強く、外部ハルカからのアクセスを強制的に遮断シャットアウトしてしまったようだ。


「そっか。それはまた追い追いどうにか出来るのならしたいわね」


と言う静だが、この想定外の『副産物』に実は密かにほくそ笑む。


「ともかくこれで次の段階へ進めるわね。ってそれも大事なんだけど…」


と静は『二人の永遠』を見る。当然だがどちらも『同一人物』だ、寸分の狂いもなく。

それはそれでややこしいわね、そう言うと静は向かって右側の永遠を指差し


「あなた、今日から『エイ』と名乗りなさい。アバターも女性にしましょうか。『女性秘書官』ってわかる?」


そう言われた『左の永遠』はデータベースを検索、該当する形に外観を変える。


「これでよろしいでしょうか?」


年の頃は三十歳前くらい、黒いパンツスーツに身を包んだ聡明そうな女性の姿だ。


「うん、いい感じね!」


そして向かって左、『右側の永遠』にも名前と外観を変えるよう指示する。


「あなたに名を与えるわ。今から『エン』と名乗りなさい。外観は…そうね、男性執事なんてどうかしら」


そう言われた永遠は、今までより少し若返ると黒い執事服姿の男性へとその姿を変える。


「これでよろしいでしょうか、静様」


年の頃は三十歳過ぎくらい、こんな男性執事が紅茶を淹れてくれる店があれば連日主婦やOLで溢れかえりそうな、そんなイケメン執事がそこに現れた。


「うん、ばっちし!」


と言うが、静はそんなイケメンぶりに特に触れる事もなく遥へと振り返り


「ねえ遥。私、勝手やっちゃったけど良かったかしら?」


「ええ。構いません。むしろ二人に名をいただき感謝してます、静様」


遥はそう言うと、静の持ってきた『カブールの登録証』にあらたに『エイ』と『エン』の個体登録をする。


「じゃあこれで次の段階へ進むわね。とりあえず祐樹のところへ行きましょうか」


---


「あれ?ヅキ姉、母さんたち出て来たよ」


眠る祐樹の元には、今日も結弦ゆづる結月ゆづきが訪れていた。


「あ、母さん!出来た…の?」


振り向く結月の目に入ったのは、母と遥、そして見知らぬ大人の男女二人だ。


「…もしかして、その二人って『永遠トワ』?」


結月と結弦は見知らぬ二人を交互に見比べる。見た目は変わり、二人になってはいるがその眼に宿す『色』は永遠そのものだ。


「どうですか?こんな私も素敵でしょ、結月」


「そういえば目覚められた初日に買い物に行って以来、あまり貴方と話す機会もありませんでしたね、結弦」


結月と結弦に笑顔でそう話す『エイ』と『エン』。そんな二人に姉弟はしばし呆然とする。


「ここまでは順調ね。いよいよここから次の段階へ進みたいんだけど…」


と言うと静はあらためて遥を見据え


「遥、私たち家族を再生してくれてありがとう。本当に感謝しているわ。でもごめんね、私たち貴女のモルモットになるわけにはいかないの」


静のその言葉に遥は一瞬驚愕の色を顔に映す。そして振り返った彼女の目に飛び込んで来たのは、遥の本体とも言うべきメインユニットに手を当てるエイ


「いいわ。やって」


静の合図を受け、永の手から放たれる『静電気』。

体内の金属粒子を振動させて作り出した『超高電圧・超低電流』の静電気。それは精密機械であるA.I.の遥の回路を傷つける事なく、そのシステムのみを一時的にダウンさせた。

目の前のホログラムの遥はかき消え、建物内にアラートが流れる。


『システムエラー検出。セーフモードにて現状維持します。メインシステムリブート開始。カウント1800…』


一連の流れに結弦はしばし呆然とし、そして我を取り戻す。


「か、母さん!何やってんだよ!?」


永遠達も何やってんだよ!?ヅキ姉は知ってたの!?なんで止めないんだよ!?とオタオタする。そんな結弦に静は簡潔に事情を話す。


「あまり時間もないから簡単に言うわね。この世界の『人類』はね、そう遠くない未来に終焉を迎えるの」


その母の言葉に驚愕する結弦。そして静は自身の推測した『遥の目的』を結弦にも説明する。


「抗体情報を持たない彼らは、言わば先天性の免疫不全みたいなものなの。風邪のような病気でも彼らには『死のやまい』になるのよ」


それらが蔓延する事は『世界の終わり』を意味する。だから遥は自らの創り出した人類文明を救うがために欲したのだ。

原始の頃から脈々と細胞分裂を繰り返してきた、幾度もの大絶滅、淘汰と進化の果てに辿り着いた『古代人類』である真島家の四人を。


そしてその『抗体情報らせんのきおく』を。


「でも…僕らの誰かが犠牲になって、この時代の全人類を救えるのだったら、それは…」


「駄目。結弦、あなたが自分で犠牲になるって言っても私はそんなの許さないわよ」


静は言う、家族と全人類どちらかを選べと言われたら間違いなく家族を選ぶわよ、と。

その一点の曇りもない母の表情と言葉に、結弦は戦慄するのとともに母の過去の二つ名『狂気の人』を思い出し、実感するのだった。


「ともかく遥が再起動する前にここを立ち去るわよ」


---



- boot ok.

- system normal.

- type 034 "HARUKA"

- standby........


「……」


およそ三十分後に再起動した遥。だがそこには静たちも永も遠も、そして眠る祐樹もいなかった。


「あはは。どうやらやられたみたいだね、遥」


遥に語りかける少年。歳の頃は今の結弦と変わらない、十三・四歳くらい、黒髪に切れ長の瞳の少年。


「おや、珍しいですね。貴方がこちらを訪れるなんて」


「そりゃ来るさ、あんなアラートが鳴ればね」


そう言って少年は室内を見渡す。そこにあるのは誰も寝る者のいない四つの寝台。


「起こしたんだね、『彼女ら』を。で、彼女は何て?」


「『モルモットにはならない』、と」


すると少年は少し考える仕草を見せ


「そっか。じゃあ彼女ももう気づいたんだ、人類の終焉が近い事に」


聡いね、彼女は。そう言って少年は苦笑する。


「騎士達に追わせますか?」


「いや、いいよ。おそらく彼女は『彼』の完全な安全を手に入れたらまたここへ戻って来るんじゃないかな」


と、そこまで話して少年は何かを思いついたような顔になり


「でも…遥がやられっぱなしってのも何だかしゃくだよね」


ちょっとイジワルしちゃおっか。そう言って少年はクスクスと笑うのだった。












遥の起動シークエンス、これ知ってる人います?

同世代でロボットアニメ好きな方ならご存知かもしれませんね。





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