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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
10/205

第010話 『城塞都市・ナワ』



翌朝。

早くから動き出していた彼らはナワの街の守衛門へ来ていた。

白を基調にした騎士っぽい甲冑を着た衛士が1人立っている。

なぜだろう、何も悪い事していないし咎められる事もないというのに祐樹はこういう所を通るのに妙に緊張してしまう。


「やあ、おはよう。いい朝だな」


思わず先に挨拶してしまうのは元サラリーマンの性か。


「ああ、おはよう。旅の人。ここは初めてか?この街は入る前に身分証を見せるのが決まりになっているんだ。見せてもらってもいいか?」


営業スマイルのまま固まる祐樹。すると後ろから


「おお、そうじゃったな」


と言って衛士に2枚のカードを渡すエイ。


「祐樹に…永…登録地は…カブール…。そうか、カブールか」


カードの内容を確認しながらカブールの名を見て顔を曇らせる衛士。


「儂らとて彼の地がどうなったのかを知らぬ訳でもない。それを確認しに帰る旅の途中じゃ。資金も必要じゃしな。そう長居はせぬ」


と言ってエイは祐樹の背負っている素材の数々を指差す。


「そうか。災難だったな。ともあれナワの街へようこそ。我々は旅人を歓迎する。俺達の仲間が教会に詰めている。何かあったら訪ねてくれ」


カードを返し、2人を通す衛士。


「うむ。かたじけない」


祐樹は不自然にならないよう営業スマイルで「ありがとう」と言って門をくぐった。が、頭の中は『?』と冷や汗でいっぱいだ。

衛士に声が届かない距離まで来ると


「なあエイさんや」


「なんじゃ、ユーキさん」


「聞きたい事がありすぎて困っている、どうしたらいいと思う?」


「うむ。儂も言っておらんかった事がたくさんあるのを思い出した。まあその素材を売って飯でも食いながら話さぬか?」


エイを見るに、含み笑いで言っている。どうやらわざと言ってなかったようだ。

一杯食わされた祐樹はジト目でエイを睨む。

何にせよ立ち話もなんなので、2人は素材を買い取ってくれる店を探すことにした。


メインストリートは、石畳の道に石造りの建物が立ち並ぶ中世ヨーロッパのような風情の街並みだった。

街を行く人は色々な種族がいた。

それは祐樹も予想していた事なのだが、実際に見るとイメージとは違ったようだ。

金髪で美形の耳の長い人達、エルフだ。だが祐樹の素直な感想は日本の街で見る白人の人達みたいだと感じた。異形の種族とは思えなかった。

ドワーフと思しき人も見たが、小柄なヒゲのおじさんなんて元いた世界にもたくさんいた。

そんな中、獣人ともくすべき人達が目立っていた。

血の濃さで雰囲気が変わるのか、獣の耳だけ付いている人もいれば完全に獣の頭をした人もいる。

だが、総じて言えば祐樹は亜人達から異質感は感じなかった。


「亜人も結構いるんだな」


特に何も考えずに言った一言だったが


「ユーキよ、『亜人』とは『人に足らぬ者』とか『人に劣る者』といった意味の言葉じゃろ。あまり使わぬほうが良いのではないか?」


エイの指摘に言葉の意味を考え、恥じ入る祐樹。


「ああ、そうだな。ありがとうエイ、気をつけるよ」


素材買取店はすぐに見つかった。と言うか殆どの商店で買い取って貰えるようだった。

ド辺境であるこの街のそもそもの成り立ちが素材ハンターの拠点としての街であり、買取相場もある程度決まっていて、カマされたりカモられたりする事はまず無いそうだ。

金が手に入ったら買い物もしたいので、色々と取り扱っている雑貨店を見つけ、祐樹達はそこへ入った。


「ん、客か?」


やや緊張の面持ちの店主。警戒されるような覚えは祐樹にはない。まさかこの服やはり変なのか?と初日の不安が彼の頭をよぎる。


「店主、買い取りを頼みたいんじゃが」


「ああいいぜ。物を見せてくれ」


幸い普通に対応してもらえた。買い取ってもらえるようだ。

祐樹は背負子を下ろし、カウンターの上に素材を並べていく。


「なっ、これは[ホーン・ラビットの角(白)]じゃねえか!しかもこんな大量に。どうしたんだ?殺さずに獲れたのか!?」


商店主の驚き様にむしろ祐樹が驚く。そんなに貴重なモノなのだろうか?


「なんだお前ぇさん知らねえのか?」


商店主の説明によると『ホーン・ラビット』はとても臆病な性質を持っており、こんな辺境の奥地でも人里の周りには現れないという。

そして尋常ではない素早さで逃げ回る上に拳一撃でも死んでしまう貧弱さ。生け捕りにしようにも常に雷撃の魔法を身に帯びており、角を獲るのならまず倒すのがセオリーだという。


「稀に生きたまま切り落とされたツノも入荷されるんだがそれも偶然に剣が当たって獲れたようなものだ。こんな根元から切ったキレイな一本物にはならねえんだよ」


こんなの見た事ねぇ、と呟く商店主に祐樹も嬉しくなるが


「しかし姐さんはすげぇな。達人ってのはいるもんだな」


いや祐樹はわかっていた。店主の尊敬の眼差しはエイに向いていたのだ。


「儂ではない。こちらの御仁じゃ」


「何っ、ボウズ、お前ぇさんが獲ったのか!?」


「ああそうだ。けどボウズは勘弁してくれよ」


「あっはっはっは!いや済まねぇな兄さん。いやすげぇよ、アンタすげぇ」


そうくると買取価格のほうが気になるところだ。少なくとも安く買い叩かれるような気配はない。


「そうだな、[角(白)]は[角(灰)]の15倍ってのが相場だが、根元まであるキレイな一本物だ、ちょうど買取依頼が入ってた事もある、20倍の一本300kdキロディ出させてもらうぜ」


祐樹の思惑通り白いツノのほうが高値だった。

ドヤ顔でエイを見る祐樹。だがエイもニヤリと笑っている。その顔はこの事を知っていた顔だ。祐樹はまた一杯食わされたようだ。

ともあれ持ち込んだ素材は


[ホーン・ラビットの角(白)]× 12

[イノシシの毛皮・牙]× 1


これで3620kdになった。


計算すると毛皮と牙は20kd。

この所持金で何が出来るのだろう?と祐樹は考える。

貨幣価値がわからない祐樹だが食事一回5000kdとか勘弁してほしいところだ。


「で、兄さん方、何か買って行くか?」


当初、買い物もしようと入った店だったが、祐樹としてはまず宿と食事を優先したかった。

差し当たっては食事を優先する事にした。エイに聞きたい話も山積みなのだ。


「じゃあ代金を支払うからカードを出してくれ」


何のカードだ!?焦る祐樹に、後ろからエイが身分証カードを渡し(このカードをあのカウンターの石にかざすんじゃ)と耳打ちする。

祐樹は言われた通りカードをかざすと、カードがほんのり光る。


「まいどあり。しっかり確認してくれよ」


祐樹はカードを見る。ご丁寧にも写真入りだ。

名前と登録地、現在時刻、英文、そして一番下に[3620000]の数字が。このカードまさか…


「食事ならウチから4軒隣のメシ屋がオススメだぜ。知り合いのドワーフがやってる店だが安くて美味い。まあしかしそれだけ金持ってりゃ何処行っても金に困るこたぁねぇだろうがな」


商店主はもう一言


「ああそれとな、このツノ、もしまた獲れたら俺の所に持ってきてくれよな。これだけの出物は滅多に出ねえ。ウチの店の株も上がるってぇもんだ」


それもあって買取価格に色をつけたんだぜ、と笑う。正直な商店主だ。豪胆な物言いに反して見た目は超美形エルフなのだが。

しかしどうやら祐樹はこの店が気に入ったようだ。売り物の品揃えも悪くない。商店主に『また来るよ』と言って祐樹は店を出た。


---


見知らぬ街で冒険するも何なので祐樹達は商店主オススメの店に入る事にする。鶏料理をメインにした店だった。


美味い!祐樹は感嘆する。今朝までの干し肉とは雲泥の差だ。

だが干し肉は料理じゃない、食材だ。この料理と比べたら料理に失礼だ。

香油と香草、香辛料と塩を用いて焼いたシンプルな鶏料理だが、美味い。そのバランスが絶妙だ。

これが一人前で550d。とするとそのまま円に置き換えてもいいくらいの単位と祐樹は考えた。ならば所持金は…


362万円!!


なんとたった13日間の旅でそんなに稼いでしまった祐樹。

だがしかし20倍の買取価格での金額だ。普通に角ウサギを殺してツノを獲ってたら18万円。

強い魔獣や野盗の出る森を旅して狩りをして、13日で18万円は少ないのかどうなのか。

素材ハンターの拠点の街だ。上手く稼ぐやつも多いのだろう。

ともあれ小金持ちになった事もあり、少し心に余裕が出てきた祐樹、とりあえず食器を片付けてもらって飲み物を頼んだ。



エイには聞きたい事が山ほどあるのだ。






『城塞都市』と言えば『メルキド』が出た貴方、40代ですね。残念ながらゴーレムが街を守ってる訳ではありませんし『妖精の笛』も落ちてません。悪しからず。

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