エピローグ イルトエマ
「おーい!無事かぁ!?」
関東本部に帰り着き、慣れない松葉杖をつきながら(これも、酒々井班の人々が用意してくれたものだ。慣れすぎだってば)帰着した俺を最初に迎えたのは、深夜の大声だった。
なんだか、物凄く久しぶりに彼女を見た気がする。たかが今朝以来なのに。
とりあえず、心配させるのもなんだろうと、松葉杖を掲げ、適当に振り回す。
結果、思いっきりバランスを崩してこけた。
「バカかお前ー!?」
叫びながら深夜が駆け寄ってくる。
うん、正直今のはバカだったと思うし、近くに立つ酒々井の冷めた目が超辛い。
因みに佐倉は、沼人形にとどめをさしたのが彼女だということで、報告のために鴨川さんに連れて行かれた。
とにかく、このまま地に伏し続けるわけにもいかないので、なんとか立とうと試みる。
「あーあー、いいから寝てろ寝てろ!」
そんなことを言いながら、深夜が俺の腕を掴み、ヒョイっと持ち上げた。
「え、ちょっ……」
「いいからいいから、な?」
そんな調子で、最終的には深夜におぶられてしまった。何の因果だろう。
「二人が世話になったな、タタラ」
「別に、仕事だからな。気にしないでいい」
「そうか、悪いな。他の班員にもよろしく伝えてくれ」
深夜のその言葉に片手を振り、酒々井は車の方へと向かった。
「さ、帰るぞ」
「え、あ、うん。その前に、降ろしてくれる?」
「ヤダよ、なんか楽しくなってきたし」
「…………えぇー」
そんなわけで、おぶわれたまま、進む。このまま田喜野井さんの診察を受けることになるらしい。そりゃそうか。
「あの、普通に恥ずかしいんだけど……」
「別にアタシは恥ずかしくねえし」
「いやいやいやいや」
暴君か。
彼女はへらへらと、らしくない笑みを見せた。
「…………なんかあったのか?」
「……んえ?……イ、イヤー、ナンモナイヨー?」
下手か。わかりやすすぎるだろう。
「……それを、お前に言われるアタシの気持ちを考えたことはあるか?」
「いや、まずもって言ってねえよ」
もう不便というか、一方通行なテレパシーに近い。何の利点があるってんだ。
「とにかく、何があったんだ?」
「……あー、その、な?」
はっきりとした性格の彼女にしては珍しく、歯切れの悪い喋り方をする。これはいよいよ、何かあったらしい。
「なんだよ、言えって」
「んー、なんかあったといえば、あったんだけどな……」
それからしばらく彼女は逡巡していたが、最終的に覚悟を決めたらしく、口を開いた。
「アタシさぁ、たまたま聞いちゃったんだよ」
「……?何を?」
「お前がサクラに、デートしようぜって言ったの」
は?
「いや、別にな?思春期の男女がさ、どういう関係性を持とうが、とやかく言う気はアタシにはねえよ?」
は?
「でも、確認って大事だろ?大事だよな?」
彼女は、世界を滅ぼすミサイルの発射コードを盗み聴きしてしまったかのように真剣極まりない表情で、こう言った。
「お前、サクラのこと好きなの?」