柳家1
日は暮れ、辺りの住宅、街は灯りを付けだし、帰路へ急ぐ人達が増えてきた。港達は高良の家へ伺った。「おかえり。」と優しく返事をして、母親らしき女性が出てきた。見た目は40歳ぐらいだろうか、年は感じるが、髪は黒髪で長く艶やかで清楚な感じの女性だった。
「お母さん、ただいま!」高良はそう元気に答え、母親の元へ駆け寄った。母親は港達に会釈をすると、どちら様?と高良に尋ねた。高良は経緯を話、港達を紹介した。
母親は「ありがとうございました。うちの息子がご迷惑をおかけして申し訳ありません。」と丁寧にお礼し、頭を下げた。港と松は二人同時にいえいえと気にしないで下さいという素振りを見せた。一段落が着き、港が母親に質問をした。
「失礼ですが、お名前を伺っても宜しいですか?」
すると母親は私ですか?と少し戸惑った様子をみせたが、すぐに答えた。
「柳 南と申します。」そう言ってまた、頭を下げた。
港は母親に名刺を渡し、松も名刺を渡すよう促した。
二人の名刺を南は見て「松 優香里さんと、港...。」港は、やはり読めないかと察し「港 三渡と書いて、ミトと言います。覚えやすいサントでも良いですけどね。ハハッ。」と軽く冗談を交えて自己紹介した。
港が「ちょっと重たい話なんですけどね、僕たち2010年1月に起きた震災の件で、色々と調べてる機関でして、当時を知る人達に会って話を聞いて回っているんですね。」さらに続けた「高良君が非常に興味深い事を言っていたので、是非会わせてくれと頼み、伺わせてもらいました。」とここへ来た理由を話した。
港がそう話すと、母親の南は、暗い表情になり、少し話したくないような素振りをしたように感じた。そして、港は話を聞かせてくれないかと頼んだ。
母親の南は「私の口からは言えませんので、せめて主人が来てから、直接主人に聞いてみてください。」と港達に言った。
そのやり取りを見ていた高良が、母親の心配をして、話題を変えて話しかけた。
「おじちゃん、おばちゃんこの像を見てよ!すごいだろ?これお父さんが作った神様なんだよ!」高良はその像を指差して自慢気に港と松に言った。
港は気にしていなかったが、松はまだ28歳なのにおばちゃんと呼ばれ自分の容姿を少し気にした様子で、自身を見てショックを受けていた。
港と松は高良が言う像を見た。2メートルはあるだろか、四角柱が一本立ち、その上にいかにも神と言いたくなるような姿の像が立っていて、その周りにいは崇めた様子を表している人々の像が祭られていた。
「凄い神秘的で綺麗な像ね。」松は高良に言った。父親が作ったこの像を誉められ、よほど嬉しかったのか、高良は嬉しそうな笑顔で頷いた。松も高良に笑顔で返した。港は母親の南に「もし都合が悪くなければ、ご主人と話をさせて頂きたいのですが、宜しいですか?」そういうと南は「そろそろ買い物から帰ってくる頃なので、それは主人に聞いてみてください。私からは何も。」そう言って、軽く頭を下げた。港は「夕食時にすみません。」と頭を下げ、ご主人を待つ事にした。
ご主人を待つ間、松が港に疑問を聞いた。
「港さんは、最近よく耳にする黒い柱について調べてるんですよね。」
「うん。そうだよ。」
「港さん、私には議事堂跡にあるという黒い柱が見えません。港さんは見えているのでしょうか?」
港は聞いてないのか、高良の父親が作った像をくまなく見ていた。松は聞いていないとわかってため息をついた。
松はここ数年でよく耳にする黒い柱について港と調べるよう上官から指示を受けたが、無いものを調べる事ほど難しいものはないと思った。
松はこれまで、見えない黒い柱の事を考え、見える人と見えない人の差を調べ、上司である港の指示に従い、港が接触者と呼ぶ人達に会って調書を取ってきた。松自身はもちろん理解できていないが、本部が求めてる情報ではないのか港は「また駄目だった。」と進展のないまま、今日まできた。
そして今日もまたそのうちの一つと思っていたが、この柳 高良と会って港はいつもと違うような感じがした為、松は今まで思ってきた事を港に聞いたのである。
疑問を持つ事は当然だった。理解できないまま仕事をしても、不安感がつのり、自身の行動に疑問が生まれ、不信を持つようになるからである。
松自身も震災で辛い思いをしてきた。だからこそ守れる立場になり、苦しむ人を助ける存在になりたいとSOESへ志願した。
ところが実際は松の望んだ内容の仕事ではなく、只ひたすら港の言う接触者らしき人に会う毎日だった。その為、松は徐々にではあるが、その差に苛立ちを覚えていった。そして今に至った。
5分、10分位経っただろうか家のドアが開き、男が「ただいま。」と言って入ってきた。