高良
車を暫く走らせると先ほどの場所とは対照的に道路がちゃんと整備され、車道も片側3車線の道路と広くなってきた。見えてくる建物は都会的になり、綺麗な街並みが見えてきた。「もうすぐSOESに着きますが、どこか寄りますか?」松が港に言った。「煙草切れそうだから買っとくか。松、通りがかりで良いからコンビニよってくれ。お前も無いだろ?」苦いものを食べたよう顔をしながら不味そうに煙草を吸って松に言った。
松は不味そうにに吸う港の顔が嫌いだった。不味いなら吸うなよと思いながら「了解です。」そう言ってアクセルを踏んだ。
東京区は震災後、最重要区域として復興作業が最初に行われた。そして食料の供給も重点的に行われ、震災前よりも発展し急成長していったのであった。その為、商店、病院、雑貨店、デパート、娯楽施設など一気に建ち、以前の東京区にない施設や建物が建ち並んでいった。震災後は遠のいていった人も、また戻ってきた。そのおかげで、東京区は近代都市となっていった。
だがそれは東京区中心部分に限っていた。10年そこらで東京区全体が戻るのは難しい。だから東京区中心から遠退けば、廃れていたのである。
二人は煙草を買う為にコンビニへ向かっている途中、年は10才ぐらいだろか、港達が走っている側の歩道で四人の子供達が、子供らしい言い合いしていた。車は信号にかかり、子供達が言い合いしている隣に停車した。港は窓を開け「お前ら仲良くしろよ~。」と言ってまた窓をしめようとした。すると、そのうちの一人が一人の子供を指差して「こいつが地震は壊れた建物の所に...。」港は閉めかけた窓を開け、松に止まるように指示した。先に港が降り、松はどこか駐車できそうな所に停めて、港と子供達の居る所へ小走りで向かった。
「ごめんよ。話し合い中悪いな。少し話聞いていいかい?」責められてる方の子供に尋ねた。子供は涙目になりながら「本当なんだ。うぅ。」と腕で顔を覆いながら、その子供はその場でしゃがみこんだ。
港は大丈夫。信じるから、少し話を聞かせて欲しいとその子供に頭を下げた。子供はこくりと頷き、顔を上げた。
他の三人の子供達は港達が降りて向かってきたのが怖かったのか、泣いている子供が顔を上げる頃には走って去っていった。
港が子供に何か飲むかい?と尋ね、子供が飲みたいといった、飲み薬の味がすると評判の炭酸飲料のジュースを買って渡した。
「名前は?」港が聞いた。子供は「柳 高良。」そう言ってジュースを喉を鳴らしながらごくごくと飲んだ。高良は炭酸が効いたのか、げふっとげっぷした。
「落ち着いたかい?」港が言った言葉に高良は頷いた。港は松に調書を取るように指示し、松は録音型記録媒体を取り出した。
それじゃ始めるよ。そう言って港は高良に静かに質問した。
「高良君はいくつ?」
「11才。」
「家はどこ?」
「すぐそこ。」
「お父さんとお母さんは今お家?」
「うん。お父さんとお母さんは、今みんなのご飯作ってる。」そういうと松は不思議そうな顔をした。それに港は気づいたが、質問を続けた。
「さっきの子達は?」
「学校のやつ。」高良は悔しそうな顔をしながら答えた。
「あの子達は高良君が地震はどうのこうのと言っていたけど、何か知ってるのかい?」
「あの黒い柱を神様が突き刺したからこの国は壊れたんだって、お父さんが言ってた。」そう言って議事堂跡を指差した。松は不思議な顔をもう一回したが、港は小さく頷き、内ポケットから何かのリスト表を取りだし、高良の名前を探した。
しかし名前はなかった。港は何かを考えながら「もう日が暮れるから家まで送るよ。高良君、答えてくれて、ありがとう。」そう言ってリスト表をまたスーツの内ポケットにしまった。
松に調書終了を指示し、車を持ってくるように言った。車が港と高良の所に着き、二人は車に乗った。
「高良君遅くなってゴメンね。お腹空いたでしょ?」松は高良の様子を案じた。続けて「お家はこの辺りだっけ?」と尋ねた。高良は「そこを左に行ったところにある灰色の家だよ。」そういって少しどこか嬉しそうに案内した。高良の家の前に着き、松は高良に「またね!」と挨拶をしたが、港は高良の親に話を聴きたいと言って、SOES本部に連絡を取った。
「港です。はい、少し遅れます。もしかしたら...。はい。...そうです。よろしいですか?...了解しました。はい。失礼します。」電話を切り、松に調書取る準備をしてくれと伝え、港は高良に「少し挨拶したいんだけど、いいかな?」高良はうん!と嬉しそうに返事をした。
松は少し驚いたが、すぐに車を止め、調書を取る記録媒体をカバンにいれて、準備をした。港は高良にありがとうと言って車から降り、三人で高良の住んでいる、それなりの広さのあるコンクリートの家の前まできた。
何かを信仰しているのか、いかにも宗教やってるような外観をしていた。ドアの前で、高良が鍵を開け、ドアを開いた。そして「ただいまー!お父さんお母さん、お客さん!」と元気な声で二人を呼んだ。