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三品目 別荘地と私

 魔王城が先日の騒ぎというよりもまた魔王様が力加減を間違えて半壊させてしまい、ちょうどいいので建て直しをしようと決心してから早一週間。私と魔王様は別荘地にて羽を伸ばしております。


 一応、話を進める前に事前に説明しておこうと思います。

 魔族社会は魔王様を頂点に置き、その下に貴族階級を束ねる七罪将(セブンス)と呼ばれる魔王様直属の部下がおり、そこまでを上級を区分しております。その下に人間社会と同じく公侯伯子男という爵位を持つ階級である貴族階級を中級に据え、それ以下を下級として扱っているのが現状です。私も恐れ多いことですが七罪将の末席に一応名を連ねていることになっているのはあまり広く知られてはいませんが。


「いきなり来るかと思えば、魔王城を半壊させた? あんたバカじゃないの?」


「ロゼは口悪いなぁ。加減間違えただけだよ」


 ソファに寝っころがり、ちっとも反省しているようには見えない魔王様。そんな魔王様を諌めるように声を荒立たせている女性。


 深紅の宝石よりも輝く艶やかな赤い髪を腰まで伸ばし、片眼鏡をかけた白衣の美女。この方こそこの別荘地を管理されている七罪将のお一人、ロゼッタ・リュカイネン様です。同じ七罪将といえど私とリュカイネン様とでは天と地程実力がかけ離れているため様付けです。


「ユキも大変ね、コイツの面倒事にいつも付き合わされて」


「わかっていただけますか、リュカイネン様」


「わかるけど、ごめん。私があなたの苦労を分かち合うことはできないわ」


「どういうことでしょうか?」


「それはね」


「リュカイネン」


 普段の立ち振る舞いからして忘れてしまいがちですが、魔王様は魔族の頂点に立つお方です。私たち魔族は逆らえません。その最たる理由が言霊です。


 言霊。

 簡単に言ってしまえば私たち魔族の家名を表します。これを自分よりも上位に位置する魔族に口にされれば呼吸すらままなりません。生殺与奪の権利を常に握られているのと同義ととって頂ければ幸いです。


「口は災いの元、忘れちゃダメだよ?」


「はい。失礼いたしました」


 先程とは打って変わって片膝ついて頭を垂れるリュカイネン様。俗に言われる臣下の礼状態で魔王様の対応を待っております。日常的に肩書きを気にしなくていいという形を取っている為、私を含めた大半の魔族がついつい忘れがちですが腐っても魔王。気まぐれで滅ぼされるということだってありえます。


「心配しなくても二、三日の辛抱だよ。そうしたらあいつが迎えに来るだろうし。この際だから他の七罪将全員の顔を見て回るのもありかな」


「他の方、ですか?」


 よくよく考えてみれば、私は今この場所にいるリュカイネン様以外の七罪将と面識がありません。面会の機会があればと願ってはいましたが、その機会は常に魔王様に潰されて未だ名前すら知り得ていないのです。


「ユッキーは初対面になるんだよなぁ。ああ、会わせたくない」


「リュカイネン様、魔王様が意味不明なことを口にしているのですが、言っている意味がお分かりですか?」


「そうね、ユキを他の七罪将に会わせると大変なことになるかもしれないわね」


 立ち上がって思案顔をされるリュカイネン様。私にはお二人が言っている言葉の意味がさっぱり理解できません。それを説明していただけないということは、お二人は私に理解させる気がないのかもしれませんが。


「少し席を外します、魔王様。ユキ、ちょっとついてきて」


 この場所にいては話しづらいことなのでしょう。室内を出てからようやくリュカイネン様が観念したように口を開いてくれました。


「ユキ、あなたは他の七罪将の名前も顔も知らないのは確かなのよね?」


「はい。何度か面会する機会はあったのですが、全て魔王様に潰されました」


「なるほどね。これは結構入れ込んでるみたいね」


 白衣のポケットから取り出したタバコに火を点け、煙を吸い込んでから一人だけで納得されています。お願いですから事情を説明して欲しいです。


「一応、知識がないものとして説明するから質問は後にして聞いてちょうだい」


「はい」


「七罪将ってのは私やユキも含めて全員が全員異世界から召喚された元勇者で、魔王様によって魔族に転生されたものたち。ユキは理解してないでしょうけど、私たちは転生する際に魔王様から魔力の一部を移植されてるの。他の貴族階級が束になってかかってきても一蹴できるのはそれが理由よ。奴らは私たちを恐れているんじゃないの。私たちに手を出すことで魔王様から粛清を受けることを恐れているの」


 自分の魔力が他の魔族を圧倒できるものと知ってはいましたが、そこに魔王様が関与しているとは知りもしませんでした。確かに転生も死者蘇生も魔王様のみが使用できる魔法なので不可解な点が多いのですが、そう考えれば妙に納得してしまえる部分が多い気がします。


「それでね、他の五人は魔王様のそばには自分以外は不要だって思ってる奴らしかいないの。寵愛を受けるのは自分一人でいいって。だからユキは他の七罪将と顔合わせができなかった。考えてみなさい? 自分の望む場所に他人がいたら、魔族であれば誰だってそいつを殺して取って代わりたいって願ってしまう」


 要するに私は魔王様によって他の七罪将から守られていたということになる。この場合、私を甘やかしている魔王様を責めるべきか、自分の不甲斐なさを恨むべきか悩んでしまいますが。どちらにしろ、うまくやっていくことは不可能かもしれません。


「リュカイネン様は、どうなんですか?」


「私はね、諦めた。私を含めた六人は結局のところ、魔王様が望んだものじゃなかったって事なんでしょうね。正直に言ってしまえば私はユキに嫉妬しているわ。でも代わりになろうとは思えない。ユキはユキで私は私。魔王様の隣に千年もいて狂わなかったユキにしかそのポジションにつくことはできないわ。だから、魔王様をよろしくね」


 だったらリュカイネン様、なぜそんな悲しげな笑顔を浮かべるのですか?


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