第1章 大艦隊
第1章 大艦隊
第1話 狂気の惑星
アプリは、狂気の惑星に立ち寄った。
ストロンチウムの効果なのだろうか。
住人に少し、活力が見られた。
住人の1人が、アプリに話したい事があるという。
「我々は、最初、多くの軍艦に囲まれました。
我々は、それに気付けませんでした。
囲まれて始めて気付いたのです。
応戦しました。
ですが、領域侵犯の軍艦の数は減りません。
いくら、破壊しても、減らないのです。
我々の資源が枯渇し始めました。
最後には、豆さえ飛ばす事が出来なくなりました。
その時、彼らは去ったのです。
私は、その時、人工知能にプログラムをしました。
領域侵犯者を全て攻撃しろと。
豆さえ、ないのにです。
皆、パニック状態でした。
パニックが狂気に変わり始めました。
その頃から、私の記憶も定かではありません」
レオは考えていた。
『引用の棚』を取り出すほどではない。
「その軍艦を派遣した者は、最低3つの力を持っている」
・軍艦を多数、所有している。
それも無尽蔵に見えるほどに。
・感知されないで、惑星に接近できる。
アプリが、感知できるか否かは試すしかない。
・窪みを作る事ができる。
その仕掛けが解らない。
精神に及ぼす実効も解らない。
そして、
「目的が解らない」
第2話 情報
狂気の惑星は、呼び名を変えた。
活力の惑星と名を変えた。
これからの期待を込めてだ。
ここのROSから、次のROSまで約30光年のブランク領域がある。
次のROSの集団がいくつあるのか解らない。
そして、軍艦を派遣した者が誰なのか解らない。
ROSの集団の全てなのか。
いくつかのROSだけなのか。
何も解らない。
アリスが、『密許の窓』を発動させた。
能力が跳ね上がっている。
解放すれば、半径1,000光年の地図を作れるかもしれない。
だが、アリスは次のROS集団にだけ、『密許の窓』を発動させた。
範囲を狭めた分、詳細が得られる。
「ROS集団の半径は、およそ50光年です。
ROSは、5個あります。
恒星系は、全部で138個あります。
LOSは、3個あります」
レオが確認する。
「では、2個のROSは進化した生命体を持たないのだな。
残りの3個のROSは、1個ずつのLOSを持つ。
これでよいか」
「はい」
レオが提案する。
「派遣者の可能性の1番目は、最もここから近いLOSだ。
直接行くのは、得策ではない。
我々は、彼らの軍艦を感知できない事が、予想される。
2番目に近いLOSから行こう。
アリス。
遠回りで、そこに行くルートはあるか。
1番目に近付くと、我々が感知される可能性が高い」
「あります」
しかし、1番目と2番目が仲間だったなら。
第3話 第2LOS
アプリは、第2LOSに着いた。
はずだったが、何処にも惑星らしきものはない。
誰にも確認できない。
アリスだけが、確認できた。
「そこにあるじゃない」
サムはテレポートしようとしたが、出来ない。
何処にテレポートしてよいのか解らない。
鎮也は、固定した欠片ルーインと話していた。
「どういう事なんですか?」
「事情があるのだ」
「事情は、話せないのですか?」
「…」
「では、ここの住人と連絡させてください」
「…」
為す術がない。
この時、割り込んだ者がいる。
「久しいのう」
「あっ、貴方は」
LB13に洗礼を受けさせた者だった。
「この者達なら、わしが保証しよう」
「しかし」
「わしの保証では足りぬか!」
「い、いえ」
「では、頼むぞ」
あの者は、何者なのだ。
ルーインが話し始めた。
ルーインの話しを纏めるとこうなる。
45億年以上前の事だった。
銀河の辺境の地域では、恒星が安定し始めた。
その頃、固定した欠片達が、現れた。
それは、突然に見えた。
彼らは、自分達のルーツを知らない。
自分達の役割も知らない。
そこに、洗礼授与者が現れた。
第4話 洗礼授与者
彼は、固定した欠片達に洗礼を授けた。
彼らの役割を教えた。
精神の紡ぎ方も教えた。
生命体が、どれかの惑星に育くまれる事を預言した。
それらの導き方も教えた。
固定した欠片達は、彼の事を洗礼授与者と呼んだ。
本当の名前は知らない。
名前があるのかも知らない。
その方は、およそ40億年前に忽然と姿を消した。
ルーイン「何故、あの方が今…」
鎮也「あの方は、何者なのですか?」
ルーイン「知らない。
我々は、洗礼授与者と呼んでいる。
お前達は、知らないのか?」
鎮也「はい。
洗礼を授かっただけです」
ルーイン「何、お前達は、人ではないのか?」
鎮也「人です」
ルーイン「何故、人が洗礼を授与されるのだ。
解らない。
解らないが、あの方に頼まれた」
ルーインは、惑星に呼び掛けた。
第5話 防衛
ルーイン「シランは居るか?」
シラン「はい」
ルーイン「確認できているか?
この者達を惑星内部へ導いてくれ」
シラン「しかし」
ルーイン「私を信じてくれ」
シランは、惑星の周辺で観測行為を行っている艦を確認していた。
「何者なのだ。
ルッカスの新たな攻撃か?」
そこへ、ルーインからの呼び出しがあった。
「信じろ」と言う。
ルーインは、我々の守護者であり、導き手でもある。
アプリは、惑星内部の上空1,000mにいた。
何が行われたのか、解らない。
シラン「用は何なのだ」
鎮也「知りたい事があります」
シラン「ルーインの頼みがなければ、接触する気はなかった。
我々は、自己防衛で精一杯なのだ」
鎮也「自己防衛?
我々の領域の1つの惑星が、狂気に侵されました。
原因を知っていますか?」
シラン「何!
今度は、狂気か…
地上に降りてくれ。
詳しい事が知りたい」
シランは、この惑星の唯一のレアレベル者だった。
彼は、科学者だった。
「空間応用学」の上級レアレベル者だった。
10万年ほど前、2つのLOSが滅亡した。
滅亡させたのは、ルッカスだ。
滅亡の経緯の詳細は、解らない。
だが、やったのはルッカスだ。
シランは、自分の惑星の周囲に3つの層からなるフィールドを張った。
それぞれが、暗号化された亜空間だ。
暗号は、0.001秒毎に書き換えられる。
過去に最外層が破られた事が7度あった。
中層は、1度破られた。
地上でシランと面談した鎮也は、かつての狂気の惑星の事を伝えた。
シラン「10万年前か。
時期が一致する」
・ムーの技術の第1話 暗号
かつて、2重鍵暗号が提唱された。
だが、その技術は入り口と出口に掛けられた鍵だった。
入り口と出口の途中が破られたならば、防ぎようがない。
ムーでは、複雑の木を応用したコンプレックス・コードが提唱された。
だが、この暗号も複雑の木を知っている者なら、破る事ができた。
結論が出ていた。
「破られない暗号は無い」
暗号は、時間稼ぎになる。
複雑なほど時間を稼げる。
暗号構築の発想が変わった。
「破られる事を前提として、時間稼ぎに主眼を置こう」
ダイナミック・コンプレックス・コード(DCC)が、提唱された。
このコードは、侵入者を見つけると、自分自身の暗号を書き換える。
そして、追い付かれるまで逃げる。
問題は、破られた後だ。
何重に暗号を掛けても、破られる事は、必然だ。
侵入者の手口を分析する事にした。
それで、おおよその技術レベルが解る。
時間稼ぎをしている間に、対策を練る。
掛けた暗号に侵入者を見つけると、暗号外に派生暗号を発生させる事にした。
うまくすれば、侵入者を困惑させられるかもしれない。
そうでなくとも、付加情報を得られる。
ムーでは「暗号は、時間稼ぎと情報収集」となった。
第6話 時間稼ぎ
シラン「今の我々は、手詰まりです。
今の防衛もいつか破られます」
シランは知っているのだ。
今の時期が、時間稼ぎにしか過ぎない事を。
コンターが、3層の暗号を解いた。
0.001秒の1/1000の時間で解いた。
仕掛けが解れば、解くのは容易い。
鎮也「我々の持つ技術を加えましょう。
それが、時間稼ぎである事は、貴方もご存じでしょう」
3層の暗号がDCCと交換された。
いや、ここの既存のコードと複合化された。
鎮也「問題を整理しましょう。
貴方達は、いくつ問題を持っていますか?
我々は、3つ持っていました。
しかし、2つになったかもしれません」
同じ恒星領域で、技術が突出する事はほとんどない。
それが起これば、その領域の全てが「突出」に、瞬く間に飲み込まれてしまう。
艦隊を検知できなかったのは、亜空間が暗号化されていた事が予測される。
シラン「解りません。
考える余裕がありません。
防衛で、手が一杯なのです」
レオの出番が回って来た。
「それならば、問題は2つだ。
1つは、無限に見える艦隊だ。
1つは、窪みだ」
シラン「無限に見える艦隊?
それならば、我々も持っています。
窪みは、解りません」
第7話 無限に見える艦隊
シランが説明をしている。
聞いているのは、アインだ。
アイン以外に説明を理解できる者はいない。
破壊された軍艦と送り込んだ物質から、設計通りの軍艦が造れるのです。
もちろん、設計情報も送り込みます。
破壊されたものが、物質状態を保っていれば、再利用できます。
物質未満になると、再利用は出来ません。
この領域の技術は、1面でムーを凌駕する。
機械も工具も使わないで、建造物が出来る。
必要なのは、物質の塊と設計情報だけだ。
その装置が、敵の艦隊の何処かにある事が予測される。
鎮也が、確認する。
「生命体には、適応されないのですね。
艦隊に生命体はいないと、思っていいですか?」
「はい」
レオ「それならば簡単だ。
見えている艦隊は、セント砲で融解・蒸発させる。
Hエラドル砲の効果は、予測できない。
が、少なくとも時間稼ぎにはなるだろう。
目標は1つだ。
その装置を破壊すればよい。
送られて来る物質も遮った方がよい。
新和、できるか?
おそらく、設計情報は送り込んでいないだろう。
装置があるのだから、それは非効率だ」
新和「やってみよう」
問題は、もう1つある。
第8話 2つのLOS
最後の問題を調べるために、アプリは滅亡したLOSに向かった。
2つの滅亡したLOSがある。
アリスが感知する。
「10万年の経過は、ほとんど生命体の情報を残しません。
確認できるのは、骨が主です。
カルシウムが希薄です。
もう1つあります。
炭素と窒素の化合物が不自然です。
何者かの意図が感じられます。
生命体に必要な元素の全てが、不自然な化合物を持っています」
2つのLOSでは、不自然な化合物の割合が異なった。
カルシウムの希薄さは、2つのLOSで共通だった。
何が起こったのだ。
アリスの能力でも、それは解らなかった。
アイン「…
生体実験が考えられる。
ルッカスは、生体実験をしているのだ。
その被検体を求めて狂気の惑星を作ったのだ。
彼は、いくつかの能力を備えている。
そのレベルは解らない。
だが、そのレベルが、我々を下回る事は考えられない」
その時、ルッカスは首を捻っていた。
「もう少しで、あの層を破る事が出来たのに。
何かが、加わった。
隣の『狂わせた惑星』からも、被検体が来ない。
どうなっているのだ?」
・元素の第6話 モリブデン
ニオブの特性が2つ解った。
1つ目は、化合物の中にニオブを空間転移させると、密着が始まる。
化学反応を無視した結合が行われる。
2つ目は、1つ目の性質を利用した超硬度切削工具を作製できた。
これをニオブ・カッター(NC)と呼んだ。
だが、NCはダイバリオンを切削出来なかった。
自然界の全てのものは、切削加工出来た。
モリブデンは、自然界に存在する原子番号42の元素だ。
油性を示す。
生命体の酵素に、これを含むものがある。
ニオブと相性の悪い事が解った。
ニオブが密着させたものを、解く事は出来なかった。
だが、モリブデンを一定量含む化合物は、ニオブの密着性を阻害した。
そして、モリブデンを含む潤滑油は、酸化も防いだ。
ダイバリオンは、潤滑油を必要としない。
ダイバリオンは、電荷を持たない。
そのため、油性は無縁なのだ。
酵素は、タンパク質の1種だ。
遺伝子情報から作られる。
ムーでは、タンパク質の人工合成は禁忌だ。
酵素も例外とならない。
生体活動は、親水性と疎水性を持つ。
油は、疎水性の代表だ。
細胞を守る細胞膜は、半透性だ。
親水性と疎水性の両方の特性を併せ持つ。
モリブデンを過剰に細胞に与えると、細胞は疎水性が強くなる。
そして、窒息する。
酵素は、この性質と関係あるのだろうか?