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Make NewWorld /VR /Online;  作者: 山河有耶
1.PreProcessor
8/59

TypedefStruct[2]="ハーフエルフ";

 サヤの詠唱と共に手のひらの前に小さな魔法陣が浮かび上がる。そしてそれはすぐに火の玉と変わり、敵を倒すべく飛んでゆき、相手を燃やす。燃えながらも相手は必死にサヤを攻撃しようとするが、それがなされる前に、サヤの二発目の魔法は完成されていた。

 結果、木の化物は一度も攻撃をすることも出来ずにサヤの前で倒れた。


「おお、もう完全に安定してきたな」

「ふふふ。もう私の敵じゃないわ」

 初めてサヤと一緒に狩りに来てから五日がたった。結局、あの実の効果は特になかった、としか思えない状態で、次の日には何事もなかったかのようにまた一緒に狩りを始めた訳だが、予想以上にサヤの潜在能力は高かった。さすがはハーフエルフと言うべきか、サヤ自身の才能かは分からないが、威力の上がり方が普通じゃない。


 本来、魔法スキルの効果は3つのスキルの合計値と、本人のINT、つまり知力ステータスによって算出される。ファイアーボールであれば、火属性スキル、初級魔法スキル、そしてファイアボールスキルだ。一回使うごとにそれぞれのレベルが上がる。属性スキルは威力、等級魔法スキルは詠唱速度、固有魔法スキルは特殊効果付与などに主に影響する。


 だが、逆にいえばスキルさえ同じならばあとはINTによる差分のみとなる。それが大幅に違うのだから、推測ではヒューマンよりも1.5倍程度の知力が有るように思える。


 おかげで既に2発で確実に倒せる、いわゆる確殺となっており、倒す速さだけなら俺と同等になってきている。まぁME回復に時間がかかる分、総合的にはテンポは違うのだが。


「これなら、もう一人で狩れるな。修行からは卒業かな?」

 俺も初級スキルならば全てウッディーで上げられる上限まで行った。どうやら成長ボーナスで倍になった場合、弱い敵で上げれる限度も倍になるようだ。これはかなり嬉しい。弱い敵で安全に修行できるからだ。


「え? え、えと。そ、そうかもしれませんね。カ、カツミはこれからどうするんですか?」

 んー。一人で狩れるようになるのは当初の目標だった筈なのにうれしくなさそうだな?

「もう少しこの付近で修業かな。さすがにウッディーはもう修行にならないけれど、ゴブリンとかならまだいけるだろう」

「そう、ですか」

「はいです。ここから北に少し歩いたところに小さなゴブリンの集落ができてしまっているそうです。警備隊は現在、オーク族との抗争に注力しているため、この程度の規模の集落程度では動けません。ですので冒険者に討伐依頼がきているのですよ!」

 ぐるぐると俺たちの周りを回りながら説明してくれるディー。輝石の効果ですでに出来上がった高品質ウォータオレンジを食べてから元気が有り余っているようで、喋っているときも常に動きまわっているのだ。正直目が回りそうだが、うれしそうな顔をみると注意するのに気が引けて今に至る。


「だから明日あたりちょっと様子を見に行ってみようと思うんだが」

「私も行きます」

「え?」

「私も一緒に行きます」

 真剣なまなざしでこちらを見詰めてくる。


「軽い気持ち、と言う訳じゃなさそうだな。何故か教えてくれてもいいか? 正直まだサヤには早いと思っているんだ」

 確かにこの娘の魔法の援護はありがたいと思う。でもゴブリンは最弱の亜人、とはいえ「敵対モンスター」だ。つまり、向こうから襲ってくるのである。この世界での死は、俺は分からないがサヤは普通に死ぬ、つまり生き返れないだろう。俺も試してみる気にはなれない。さすがに遊びでやる気にはなれないのだ。


「私が、ハーフエルフなのは知っているとおもいます」

 ぽつり、と少しの間があいてから話し始めた。


「両親は元住んでいた所から駆け落ちをして、この地に移り住みました」

 ふむ。マイケルと血はつながってはいないことは知っていたが、このあたりは知らない話だ。


「ここでもハーフエルフについてはそれほど良い感情は持たれていませんが、それでも直接何かをしてくるということはなかったので、慣れない冒険者という職につきながらもなんとか過してきたそうです」

 ここでは直接的にされなかった、ということは地方によってはされるのか。おっかないな。


「私が物心ついたころ、この地で大きな戦争がありました。ご存知かもしれませんが、第十次ウォータ防衛戦です。この戦争に両親は参加することになったのです」

 彼女はそこまで行って息を吐く。まだ、彼女にとってはつらい思い出なのだろう。


「ここまで言えばもうお分かりかもしれませんが、その戦争で両親は亡くなりました。一緒に戦ったメンバーで唯一の生存者が今の養父、お兄様のお父上だったということです」

 そのお養父様も昨年亡くなりましたが、と続く。


「そして、またオーク達はウォータを攻めようとしている。次はお兄様も戦場に立つでしょう。もう嫌なんです、守られるだけなのは。私には魔力がある。力がないのならしょうがないと思っていました。けれど力があるのなら!」

 あちゃー。これは俺がまずったな。マイケルはこれが分かってて戦わせなかったんだな。しかし、遅かれ早かれこういうことにはなったのではないだろうか、とも思う。


「ふう、サヤの思いは良く分かった」

「じゃあ!」

「でもマイケルがうんといってからだ」

「もう、私は子どもじゃないから別に!」

「子どもじゃないからこそだ」

 少し大きな声を出す。サヤは驚いたようだ。まぁ俺がこんな風に怒るのは初めて見るからだろう。


「子どもじゃないからこそ、ちゃんと説得するべきだ。理解してもらうべきだ。言わなくても後で分かってもらえるなんていうのは子供の我がままだ。もう大人なんだろう?なら我がままを言うんじゃない」

 自分の胸に刺さるものがある。人に言えるほど自分は高尚なものかと心の中で自嘲する。


「うぅ。でも」

「まぁ、俺も説得するからさ。サヤはこれぐらい強くなったって。それでマイケルが許可を出す範囲で修業すればいい。ああ見えてマイケルは強いと思うよ? 俺なんかよりもよっぽど」

 確かイベントで仲間になった時にはベースレベルは30ぐらい有った筈だ。今の俺では太刀打ちできない筈。


「そ、そうなんですか? うぅ、分かりました。明日の朝、一緒に説得してください」

「了解。ま、ゴブリン集落の偵察ぐらいなら、なんとか分かってもらえるだろう」

「私もせっとくしますよ!サヤちゃんはつよいですよーって」

「おまえはマイケルからは見えないだろ」

「はう、そうでした。じゃあ説得中は成功祈願の踊りを踊っておきます!」

 ほいやー、と謎の掛け声とともにその成功祈願の踊りとやらを披露し始めるディー。


「いや、気持ちだけにしてくれ。途中で笑ってしまいそうだ」

「な、サヤちゃーん、ご主人様がひどいのですよ!」

「ご、ごめんディーちゃん。わたしもちょっと笑っちゃったかな?」

「う、うわーん。せっかくいま思いついた素敵な踊りなのに、誰も理解してくれないのですよ!」

 妖精秘伝とかじゃなく、いま思いついたのかよ。


「ふふふ。でも、ディーちゃんのおかげでちょっと落ち着きました。明日、お願いしますね」

 そう言ってサヤは小走りに家に帰って行った。忘れていたけれど、最近毒舌がなくなったな。照れ隠しをする必要がなくなったからだろうか?まぁ良い傾向なんじゃないだろうか。これならマイケルも少しは譲歩してくれるんじゃないかな。


「おお、やっぱり効果はあるようですよ、ご主人様! やはり明日もこの踊りを!」

「いや、違うと思うからやめてくれ。ウォータオレンジ一個追加であげるからさ」

 売り物にする予定だったんだが、背に腹は代えられない。


「む、むむむ。しょうがないですね。そこまで言うならばやめましょう。で、ですが決して食べ物につられた訳ではないですよ!?」

「ああ、分かってるよ。ディーは良い子だからな」

「分かっているのなら良いのですよ。ふふふのふー」

 機嫌が良くなったのか、またさっきとは違う踊りを始めるディーをみて微笑んでしまう。

 もう一週間近くが立った筈だが、とくに救援のしらせは無い。やはり自力で帰る方法を見つけなければいけないのだろう。


「このままここに住む、と言うのも悪くないんだろうけど」

 輝石のおかげでお金には困らないのだから、無理に帰る必要もないんじゃないかと考えてしまう。


「ま、やれるだけやってみるしかない、ということか」

「はい? 何かおっしゃりましたか?ご主人様?」

「いや、これからもよろしくなってことだ」

「もちろんですよ!ずっとよろしくなのです」

 そうやって自慢げに微笑むディーが、少し前よりも頼りがいがあるように見えたのは、きっと気のせいなんだろう。

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