TypedefStruct[1]="輝石";
「ふう、す、すみません、ちょっと休憩してもよいですか? マナが後わずかです」
「そう? まあでも流石だね、もう二十匹ぐらいはやってるけどそこまでもつなんて」
「そ、そうですか? まぁでもやっと分かってきた気がします。相手を良く見て、攻撃を始めた時点で避けて、即座に撃つ、という感じですね。カツミさんが武器で攻撃するタイミングと同じなんですね」
「そうそう。良く見てるじゃないか。どんな敵でも、攻撃を開始するタイミングが逆に一番の隙なのさ。それさえ見切れれば、あとは余裕のある時に攻撃すれば、いつかは勝てる」
そう言いながら、ステータス、と念じる。
name:カツミ
BaseLv:6
HP:80%
ME:100%
SE:100%
name:サヤ
BaseLv:3
HP:90%
ME:1%
SE:0%
ふむ、転生ボーナスはやはり倍程度、ということか。昨日もやってたとはいえ、既に6まであがるとは。あと、マナエネルギー、MEは自然回復するけど、体力、HPは自然回復しないのも一緒か。一撃も食らっていない筈だから、レベルアップ分の差だけが減っていることになる。休憩すれば回復するか試してみるか。
「じゃあ、あの丘で回復しようか。あ、今日は七夕だっけ? じゃあ良いものが見れるかもしれない。ちょっと登ってみよう」
そうだ。ここに108の秘宝の一つがあったんだった。七夕の日の昼と夜の狭間にのみ咲く枝垂れ桜。その根元に埋まっている宝石。それが108の秘宝のうちの一つ、No.98 木花之佐久夜毘売石である。効果は土に埋めると、その土壌が最高になる、というもの。そしてその土壌でしかこの桜に花は咲いても実はつかない。
そこまで思い出して、ふと試してみたいことを思いつく。
「ふう、ふう」
「ほら、体力も付けないといざという時避けれませんでした、なんてことになるぞ」
「は、はい。がんばります」
どうやら毒舌を吐く元気もないようだ。だが、丁度夕方。既に咲き始めている。ここは丁度小高い丘になっており周りに海までの視界を遮るものは何もない。
元のゲームでもそれなりに綺麗ではあったが、やはりこちらの夕日は格別だ。そしてこれを見ると、ここは別世界なのだと思ってしまう。振りかえると、サヤがこちらを、いや桜を見て、か。驚いている。この世界にも桜はある。だが、この季節に、そしてこんな風に光り輝く桜などは見たことはないだろう。
俺は近くの、手の届きそうな枝から花の合間に着いている実を二つほどとる。現実の桜はこんな風ではないのだろうが、ここでは花に隠されて着いているのだ。
「はい、サクラノミ。すっぱいけど、美味しいよ?」
いわゆるサクランボのことだが、このサクランボには特別な意味がある。どんな相手にも「最高の贈り物」と認識されるという効果だ。べつに魅了の効果があるわけでもなく、「誰もが好むすごいもの」という程度だろう。これから仲良くなるには最適なものと思って連れてきたのだ。ちなみに二つとったのは家で一つ育てられないかと思っているからだが。
「え、あ、う」
まだ驚いているのか、受け取っても声になっていない。うーむ、やはりゲーム程画一的に効果があるわけじゃないんだな。あたりまえか。そんなことを考えていると日が沈み、花もすべて散って行った。花が散ると何故か実もなくなる。その辺は一緒なんだな。
「どう? 綺麗だったろ?」
「う」
固まったままだったサヤがやっと反応する。まぁ前知識なしだとそんなもんかな。
「う」
今度はうつむき始めた。
「うぅ」
震え始めた。大丈夫か?
「うぅーーー。さっ、先に帰ります。帰りますからね!」
そう言うと、脱兎のごとく走り去って行ってしまった。丘だから危ないとおもったが、ちゃんと門に入っていくところが見えたのでほっと胸をなでおろす。
「なんだったんだろうな? まぁいいや。輝石をいただくとするか。ディー、この地下になにか反応ないか?」
「え? あ、はい。うーん、あ、これかな? ちょっと見てきますね」
そういうと、桜の根元当たりに飛んでゆき、戻ってきたときには小さく光る石を持ってきていた。
「こんなのがありましたぁ。なんでしょうね? これ。なかなか綺麗ですが」
「これが木花之佐久夜毘売石、秘宝の一つだよ」
「ほ、ほえええ。すごいです。ご主人様。もう一つ見付けてしまったのですね!」
「あぁ。ちょっと聞いたことがあってね。もしやと思って見に来たんだ」
嘘じゃない。ただ、この世界で、ではないが。花が咲いた直後にしか取れないから、今日を逃せば一年待たないといけないところだった。
「じゃあ、俺達もかえろっか。サヤも帰ったようだし」
「はい、今の調子でいけば全部集めるのもすぐですね!」
「はは、そうだといいけど」
俺が存在を知っているのはあと三十個ほど。その内ちゃんと取り方を知っているのは十個ほどしかない。幸先は良いかもしれないが、かなりの難関ではあろう。
「まぁ、俺達でがんばっていこうな」
「はい!」
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家に帰る途中で閉まりかけの道具屋から土と鉢植えを買い、ホームへ持って帰る。そして木花之佐久夜毘売石とさっきの実、そして一緒に買ったオレンジの種を埋める。これで何もしなくても石の効果で最高の桜と最高のオレンジが育つはずだ。
「ウォータ特産のウォータオレンジですかぁ。私、大好きなんですよ!」
「うん、そう思って買ってきたんだ。この石と育てればすぐに食べれるようになるはずさ」
「おぉぉぉ。そんな良い石なのですね! じゃあ他の石も集めればもっと美味しいものが食べれるのですね!」
「いや、食べ物関係は他にはあまりない筈だ」
「そうなのですかぁ。でもならばいきなり当たりを引くなんてさすがご主人様です!」
ディーにとってはこれが当たりか。はずれとは思わないけど、戦闘には役に立たないから俺的には割と微妙な方ではあったんだけどな。
「ま、出来たら最初にディーにあげるよ。一杯できると思うから余ったら売ってお金にするかな」
「おぉぉぉ。じゃあ一杯お世話しますね!」
現金な奴だ。素直でとても愛嬌がある。ここが別世界かもしれないというのになんとか平静を保っていられるのはディーのおかげっていうの少なくないだろう。
「じゃあ、そろそろ俺は寝るよ。おやすみ、ディー」
「はい、おやすみなさいです、ご主人様」
今日もまた、意識が徐々に落ちていく感触を味わいながら、眠りに落ちて行った。