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Make NewWorld /VR /Online;  作者: 山河有耶
1.PreProcessor
5/59

HelloWorld[3]="おはようございます?";

「おはようございますカツミ様。いつまで寝て居やがるんでございますか?」

 目が覚めるとそこは見慣れた俺の部屋、ではなくログアウトした筈の場所、マイケルの家の一室だった。


「なんで?」

「まだ寝ぼけて居やがりますかこの糞虫野郎?もうお兄様は出勤しましたよ」

 にこやかに酷いことを言うサヤ。まぁでも表情は冷めたものではなく、それなりに気を許している顔のようだ。じゃなくって、なんでログアウトできないんだ?本当に眠っただけのようだ。


「はいはい、数少ないお兄様の特技である料理がさめてしまいますよ。起きて食事にしてください。そしてウッディーを狩りに行きやがれ」

 そういって毛布を強引にめくられて、無理やり起こされる。こんなリアルなモーションを入れるぐらいならログアウトぐらいさせろよと思いながらも、これはクエの途中だからログアウトできないんじゃないかと思い至る。そりゃそうか。進入禁止の場所でログアウトしたら、次にログインしたときに最悪身動きがとれなくなる可能性があるものな。


「ああ、すまない。いま、起きるよ」

 まだ驚きは完全に冷めてはいないが、特にリアルの生活で今日の予定があったわけではない。文句も言いたくはなるが最後まで付き合うことにしよう。

 そう思いながら、一つの可能性を頭の片隅に強引に押しやって食事の置いてあるリビングへ向かった。


//-----


 結局、マイケルの手料理はやはりおいしいという発見ぐらいで特にイベントもなく街に戻ってきた。いや、サヤが付いてこようとしていたのだが、さすがにウッディー狩りイベントまでする気にはなれない。

俺としてはもうお別れは済ませたつもりなのだ、さっさとホーム契約して、ちゃんとログアウトしよう。

そう考えてホーム契約を改めてしてもらうために役所に一直線でやって来たのだ。


「お客さん、はじめて?ふふ、緊張しなくてもだ、い、じょ、う、ぶ(はーと)」

 などという、ホーム受付にも特に反応も返さずに契約した。ここで反応すればこのオカマの大男とのクエストが始ってしまうのだ。


 何故、わき目も振らずにホームに向かっているかと言うと、必死に考えないようにしているが、嫌な予感が頭から離れないのだ。


「ディー、今度こそ、おやすみだ」

「えぇ、はやいんですね、まいけるさんのお家ではよく眠れませんでしたか?」

「あぁ、そうなんだ。だからディー、おやすみ」

 そうやって荷物を放り出して布団にもぐり、ログアウトのキーワードを言う。

……

…………

 反応はない。はっきり言って熟睡したから全然眠たくない。むしろ焦って心臓が高鳴っている。


「うそ、だろ? くそ、ディー、おやすみ、だ!」

「は、はい!」

 大声でどなる。


 でも結果は同じ。


「ど、どうなさったんですか? そんな怖い顔をして。なにかディー、悪いこと、しました?」

 泣きそうな顔でこちらを見てくるディー。


 薄々、気がついてはいたんだ。


 リアル過ぎるって。


 本来ホームへは、特定の場所から「ホーム」といえば室内にワープするものだ。NowLoadingなんて文字が頭に流れたりもする。それが今回はどうだ?ちゃんと歩いて、住所通りの場所にきて、鍵を開けて入ったんだ。


「ディー、ここは、どこなんだ?」

「え、えと、水の都ウォータのホーム、ですよ?」

「そんなことを聞いているんじゃない!」

「ひっ、す、すみません」

「あ、いや。すまない。ははは、ちょっと疲れているんだ」

 怒鳴りつけてみても事態は変わらない。

 例えこれがどっちだとしても、ディー自体が悪いわけじゃないんだ。八つ当たりに過ぎない。


「ふぅ」

 大きく息を吸って、吐く。落ち着け、おれ。焦っても良いことなんてない。


「一つ確かなことは、今まで通りログアウトは出来ない、ということだな。ディー、ログアウトっていう単語に覚えはないか?」

「え、と。はい。ご主人さまがいましがた言われた以外には聞き覚えはないです」

「そうか」


 考えられることは大きく分ければ二つ。


 一つ目はこれがゲームの世界ではあるが、ログアウト出来ない状態、または全く違う方法になっている場合。


 二つ目は、理由は兎も角、SATRの世界に酷似した世界へ「転生」した場合。


 一つ目なら、まあいい。おそらく近いうちにスタッフが異常に気が付くだろう。けれど、その可能性は低いとどうしても思ってしまう。なぜなら俺は世界初、おそらく唯一の転生体験者だ。スタッフは注目している筈。それなのに現時点で何のアクションもない。そして、現時点でプレイヤーを一人も見かけていないということもある。初心者用の町とはいえ、一人も見ないということはあり得ない筈だ。すくなくとも今までプレイしていた世界とは違う所、なのだろう。


「まだ決めつけるのには早い、か。あのエマとかいう人が最後に言った言葉が気になるけど。あ、そうだディー。エマって人は知っているか?」

「エマ様ですか? うーん、私が知っているのは創造神の一柱、生命の女神エマ様ぐらいしか知りませんねぇ。ごめんなさいです」

「創造、主。それは、どこに居るか知っているか?」

「え、ええ? 神様ですか? えと、シャンバラの門をくぐった、さらに先に有るという国、アガルタに居ると言われていますが……」

「そういえば、そうだったか」

 そう、シャンバラの門、だ。このゲームの目的の一つ。その先には全てがある、と。


「あれを越えるには、108の秘宝を集めなければいけないんだったか」

「はい。一つの王冠、三つの宝珠、四つの守護、七つの不思議、十二の騎士、十三の聖者、二十四の宝貝、四十四の輝石を解き明かせ。さすれば門は開かれん。遥か昔より伝えられているおとぎ話ですね」

 解き明かせ、か。必ずしも集めなければいけない訳じゃないのかな。


「やってみるかな。三分の一ぐらいは目星がついているし」

「はい、頑張りましょう!ご主人さまの目標ですものね!」

「あぁ。ってそんなこと言ったっけ?」

「あれ? お忘れになったんですか? 私がご主人さまと初めてお会いした時にそのようにおっしゃられていましたが」

 そうだったか。そういえば設定上、「シャンバラの門を目指す冒険者が旅の途中で出会った妖精とともに様々な冒険をする物語」たったっけ。

「はは、すまんすまん。まだ混乱しているようだ。あ、あれは何年前の話だっけ?」

「んーかれこれ八年前のことですねぇ」

「八年か。そうだったな」

 そういうところは同じなんだな。やはり、まだゲームであるという可能性も捨てきれない、か。


「そう言えば、今日は何月何日だ?」

「はい、七の月の七日となります」

 ふむ。ゲームであれば、「地球時間では何月何日の何時」と続くのだが、さすがにそれは無いか。

 不思議なことに、俺自身はもう、別世界だと決めつけてしまっている。そしてそれを受け入れてしまっていた。


//-----


 そんなことを考えていると、懐の連絡用魔法貝が震えだす。

「こんにちは、サヤです」

「あぁサヤちゃん、こんにちは」

 誰かと思うとマイケルの妹のサヤからだった。NPCから連絡貝にかかってくることなんてない筈、か。


「今日は訓練に行かないんですか? むしろ行きやがれ?」

「あぁ、うん。丁度今から行こうと思っていたところだけど、一緒にいくかい?」

じっとしていもしょうがない。彼女がNPCではないのなら、現地の人間ということであり、この先冒険するためには仲良くなっておいた方が良いだろう。

「な、なら、一緒に行って差し上げても良いですよ?」

「はは、お願いするよ。でもちゃんとマイケルさんには許可を貰うんだよ?」

「……」

 さすがに無断で連れ出すわけにはいかない。彼女は確か18歳という設定だったと思うから、この世界では既に成人だが、あのシスコン兄貴とトラブルになるのはご免だ。それにエルフであるためか、見た目はどう見ても中学生ぐらいだ。


「返事は?」

「……しょうがないですね。では詰め所前で待ち合わせとしましょう」

「あぁ。準備をしたら行くよ」

 彼女も後からトラブルになるのが分かったのだろう。素直に頷いてくれた。


 連絡用魔法貝を耳から離して一息つく。

 もしかしたら、じっとしていても助けの手は差し伸べられるかもしれない。


 でも、そうじゃないかもしれない。

 俺は、成長するために留学しようと考えたのだ。ならば、やらないよりはやった方が良いことがあるのならば、出来る限りやっておこうと心に決めた。


「これも一つの留学、と思うことにするか」

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