HelloWorld[2]="logout";
「さて、『オーバーロード』の称号の効果や、成長スキルもだいたいわかったし、そろそろ帰るか」
スキルをいくつか試したり、わざと食らってみたりといろいろ試してみて一息ついたころには、日が傾いていた。元々は徐々に暗くなる演出ぐらいしかなかったのに、異常に夕焼けがリアルで綺麗だ。
これで見納めかと思うと泣けてくるほどに。
そう、このゲームでの睡眠は『ログアウト』するのと同じ意味であり、……俺はこのゲームとのお別れということになる。一日のうち一度は必ずログアウトしなければいけない仕組みにもなっていて、廃人プレイの防止にもなっている。
「そうですねぇ。あ、宿はどうなさるのですか?」
「そう言えばまだホームを決めてなかったな。……丁度いい、クエストの進展も気になるし、マイケルにでも頼むか」
ログアウトしたらこの違いをメールにまとめようと思っていたところだ。本来であればガードであれば誰でも良かったのだが彼にホーム決定の依頼することにする。
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裏門からウォータの町へ戻り、さらに詰め所まで戻るとマイケルは既に戻ってきていた。忘れていたが夜になるとマイケルは自宅に戻ってしまい、会うことができない。些細なこととはいえ、クエの進展が見れないところだった。
「すみません、マイケル様」
「げ、その呼び方はやめろよ。マイケルでいいって。えっとカツミ、だっけ? ほんとにそのまま伝えることはねぇじゃねえか。まぁいいや。なんか用かい? 酷い目にあったが、頼みは聞いてくれたんだ。礼はするぜ?」
「あぁ、えっと冒険の拠点を決めたいのですが」
「なんだ、まだ決めてなかったのか。っていうかアイツそれぐらい教えてやれよな。まぁいいや。この俺様が手続きしてやろう。っつってもこの時間じゃ役所の奴ら帰っちまってるんだよなぁ」
なんだって。ホームの手続きぐらい前はいつでも出来た筈だが。基本的にプレーヤーにとって良い方向じゃなかったのか。それともこれが基本的以外なことの一つなんだろか。
「どうにかなりませんか、マイケルさん」
「あぁー。うん、今日は俺の家に泊ってけ。おまえ良い奴そうだし、大丈夫だろ。あ、でも妹に手ぇ出したらただじゃおかねえからな?」
「いいんですか?」
なるほど、このクエのために手続きができないことになっているのか。プレイヤー的には前人未到の『マイケルの家』夜になれば歩いて帰っていくのにどうやってもプレイヤーは影も形も見ることのできないその存在に入ることができるとは、なかなか粋な計らいだ。
「おう、俺もかえるところだし丁度いいや。ま、ついてきな。心配しなくてもそんなに遠くないぜ」
言うや否や、彼は足早に家路につく。それを慌てて追いかける俺。
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数分程歩いただろうか?転生前は見えない壁があって入れなかったエリアにマイケルの家はあった。予想通りと言えば予想通りだが8年目にしてやっと見ることが出来たと思うと、それが当たり前と言えば当たり前に変わり映えのしない民家であったとしてもそれなりに感慨深かった。
「ようこそ我が家へ。おーい、サヤァ、かえったぞーい。ほらほら、遠慮せずにはいりな」
木造ではあるが洋式なその家は靴のままで入る。というよりかなり最近まで『靴を脱ぐ』というアクションが無かっただけとも言えるが。
「それでは、お邪魔します」
「おうおう、邪魔しろ邪魔しろ。あ、サヤ、こいつはカツミってんだけど、今日泊めてやることになったから寝床を一つ用意してくれんか」
入ったところには当たり前と言えば当たり前だが、彼の妹のサヤがいた。設定的には血はつながっていないことになっており、金髪碧眼の喋らなければ美青年のマイケルとは見た目は全く違って黒目黒髪の大和撫子系の美少女である。
「おかえりなさいませお兄様。そしてようこそお客様。布団の件は了解しましたが、お腹がすきましたのでさっさと飯を作りやがれこの能無しども」
まぁこの通り、丁寧語毒舌キャラというすごいキャラ付けがなされているのだが。おかげで一部の紳士達には大人気だ。
「ごめんね、サヤちゃん。寝床のことはよろしくお願いするよ」
初めてこの毒舌を聞いた時には面喰ったが、前知識があればなんとでもなるものだ。
「おいサヤ、客に向かってその口はっておまえも驚かないんだな」
「あぁいや、俺のせいで食事が遅くなったのは事実だから」
「糞虫にしては見どころがありますね。しょうがないのでカツミと呼んでやりましょう。喜びやがれ糞虫?」
とてもかわいい顔で酷いことを言われる。まぁでもこの子が名前を呼ぶというのはすごい好感度が高い時だけだった筈だからこれも転生ボーナスかな。別に俺はマゾじゃないから言葉攻めは嬉しくないが。
「ありがとう、と言うべきかな?お礼をしたいところだけど持ち合わせがなくてね。ウッディーの皮ぐらいしかないんだけど」
そういうと、ピョコンと長い髪に隠れていた長い耳が現れた。そうそう、この子はハーフエルフなんだっけか。そしてウッディーの皮に目がないのも設定どおりだな。
「……それ、受け取ってさし上げても良いですよ?」
初心者救済クエの一つに、マイケルがウッディーの皮3個で銅貨10枚と交換、っていうのがあった。
長らく何に使うのかとネタになっていたが、この妹のために集めていたという設定だったのだ。もちろん後付けだろうが。
「こんなものでもいいのかい?20個ほどあるけど、そんなにいらないよね?」
「そ、そんなに。どこで手に入れたんですか?」
「ん?鍛練代わりに街の外にいるウッディーを倒しただけだよ?」
ウッディーは農作物を食べる害獣扱いだが、あんなに弱くても一応モンスター。民間人では倒すのに苦労するという設定だ。
「・・・全部よこしなさい。そうすれば貴方の鍛錬、手伝ってあげてもいいですよ」
耳をピクピクさせながらにこやかに提案してくる。いや、呼び出し用の連絡先を無理やり押しつけてきた。なるほど、マイケルではなく、サヤがサポートキャラクターになるのか。これはこれで面白いな。一部の紳士達にはたまらないだろ。
「ははは、またウッディーとやり合うことがあれば連絡するよ」
この世界では連絡用に魔法の貝というものを使って遠距離でもトランシーバーのように会話できる。条件は今のように連絡先を交換していることと、お互いが「落ち着いた状態であること」。つまり戦闘中やイベント中は無理ということだ。
「おーい、飯できたぞー」
そんなやりとりがおわったのと、夕食のしらせが来るのはほとんど同時であった。
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「ふう。良く食べたな。っていうか食事がちゃんと食べられるのにもびっくりしたな」
VRは所詮バーチャル。食事をしてもステータスが変化するだけだったのだが、今日のは普通においしかった。しかしこれは一長一短だなとも思う。なんせドーピングアイテムなんかは明らかにまずそうな見た目だからだ。設定上、すごいまずいっていうのもあった筈だ。
「もうお休みですか?」
サヤに用意してもらった寝床で眠りに着く。同じ部屋でウッディーの皮談義をなどといいだしたサヤをどうにか説得してあいている部屋で横になった。
さて、これで本当に最後だ。
「ディー、今までありがとうな」
NPCとはいえ、このゲームの中で一番一緒にいた相棒だ。なんとなく礼を言いたくなった。
「いえいえ。これからもよろしくですよー」
そうやって元気よく挨拶する。これからも、か。残念だけどそれは無いんだ、ディー。
「お休み、ディー」
それを口にするのは無粋な気がして、ログアウトのキーワード、眠りの挨拶と妖精の名前を呼んで眠りに落ちた。
今までのように急に暗転する感覚ではなく、疲れて眠る感じまで再現してるなんてすごいな、と思いながら。