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Make NewWorld /VR /Online;  作者: 山河有耶
3.FunctionWater
35/59

Try[1]="水の目覚め";

「くっ、サイドアタック!」

 腹に槍が刺さった状態から、強引に技を使うことで抜けだし槍を持ったスケルトンを攻撃する。そのスケルトンもぎりぎりだったのだろう、その攻撃だけで粉々に砕け散った。


「残り、二体、か」

 だが、それが限界だった。いや、技を使えたのは単純にモーションアシストによって無理やり動いただけで、既に立っていることすらできなくなっていた。力の入らない足、重力に従って自然と膝を着いてしまう。残る二体は距離こそそれなりに離れてはいたが、数秒もかからず俺の命を断つだろう。唯一の救いは、そのスケルトン達は見た目にもボロボロで、なんとかサヤだけでも倒すことができそうなことだけだった。


 サヤを見る。何かを叫んでいるが、もう何を言っているか理解できない。血が足りないのだろう、穴のあいた腹からは赤い物があふれ出ていたのだから。


「サヤ、せめてキミは……」

 気が付いた時には、自らの血で紅く染まった地面に顔を埋めていた。


/*-----


「いや、いやぁああああああ」

 カツミが、カツミが倒れた。お腹から血を流しながら。分かってしまう、アレはどう見ても致命傷、助からない。


「……また、まただ」

 記憶が重なる。忘れていた、いや思い出さないようにしていた情景が浮かぶ。十年前、お父様が、お母様が死んだあの日。戦争中だったとはいえ、安全な筈の領内の旅の道、その最中にまさかのオーク軍の襲撃。護衛を兼ねていたお父様とお母様を含めた部隊は必死に迎え撃つも、多勢に無勢、徐々に押されていく。


「私はまた、大切な人が傷ついていくのを見ていることしかできないの?」

 最中、敵の放った矢が回復役を兼ねていたお父様に突き刺さったことで、ぎりぎり持っていた戦線は崩壊する。護衛部隊の指揮官であったお母様が一瞬、一瞬取り乱した瞬間に最後の一線が破られたのだった。そして回復役が倒れた部隊に断ち直す術は無く、瞬く間に一人、また一人と殺されていく。……泣き叫ぶしかできなかった私、その私にだけは手を出させまいと、最後に残ったお母様はどれだけ矢を浴び、どれだけ切られようとも立ち続けていた。


「嫌、そんなの嫌。私は変わる為に、変わる為にカツミに着いていくって決めたんだ。なのに!」

 けれど、永遠とも思えたその時間も終わりが来る。相手の大将らしき一際大きなオーガが、私を庇って避けることのできないお母様を切り裂いたのだった。私の記憶は、半分に裂けたお母様をその手に持ったオーガがこちらをみて嗤った、その顔の瞬間に途切れている。


「……させない。そんなこと、させはしないっ!!」

 あとで私を見つけた、別の任務で遅れていたお兄様(マイケル)のお父様によると、私は赤や緑の血の海の中で一人で泣いていたと言う。原形を留めていたのは私のお父様とお母様の死体だけで、それ以外はすべて肉片一つ残っていなかったそうだ。その異様を生みだしたのは、エルフの中でも有数の使い手であったお父様が最期の力を振り絞って私を守った結果なんだろうと言う結論だった。


「水神よ、全てを消し去れ。世界をありのままに、ありのままに。水属性禁呪(テンペスト)

 けれど、私は知っていた、お父様は既に息絶えていた事を。矢を受けたときに即死だったことを。だからこそ、お母様は取り乱したのだ。だったら誰が? そんなのあの場に生き残っていた者に決まっている。あの時もそうだった、願いと共に言葉が浮かんでくるのだった。私はその言葉を音にして紡ぐだけ。


 私の声に呼応して水色の魔法陣が私の周りを、この部屋中を、いや世界を覆う。この魔法は水の巫女にのみ許された最後の奇跡。水の巫女とは、人に選ばれるものではなく、神に選ばれるものだ。それは、生まれたときから決まっている。私はあの時、初めてその奇跡を使った。それは今より余程幼かった私でも、辺りの生物を全て消し去るぐらいの効果はあった。だが、その力は私が本当に望んでいたこと、『お父様とお母様を生き返らせる』と言うことは叶わなかった。ただ、綺麗な死体になっただけだった。私は絶望した、水の力に絶望した。それ以来、私は水の力を拒絶し、炎の使い手となったのだった。けれど、今その力を、その戒めから開放する。


「今度こそ、間に合わせて見せる」

 そうでなければ、水の力など消えてしまえば良い。こんな世界など、消えてしまえば良い!


-----*/


 どれ程の時間がたっただろうか。いつまでたっても残ったスケルトン達は俺を殺すことは無かった。もう目も開けていられない為にどうなっているのかは分からない。いや、もしかしたらもう死んでいるのかもしれないな。ただ単に痛覚が麻痺して殺されたことに気がつかなかっただけかもしれない。どうせ死ぬなら苦しまない方が良いに決まっているから、まだましなのかな。


「なんだ? この感覚……水、か?」

 そんなことを考えていると、俺の周りを温かい水が覆っていくように感じられて来た。それはとても優しく、心地よいものだった。そういえばこの地は水神を祭る神殿があったと聞いたことがある。ならおれは、死んでその水神の天国にでも来たのだろうか? 気持ち良くなってきたために、だんだん眠くなってくる。もう何も考えられない、意識が、遠のく……。


//-----


聞きなれた、壊れかけのエアコンの少し不快な音。シンプルなデジタル表示の時計。


「よう、ここで会うのは久しぶりじゃのう」

 ディー、いやフェンが俺が起き上がる前に声をかけてくる。もう驚きはしない、またあの夢、いや世界だ。……ということは、俺は死んではいないのか? いや、元々これが天国だとでもいうのだろうか。


「死んではおらぬ、心配せずともな」

「さ、サヤ?」

 フェンとは違う声が、聞きなれた声がしたと思ってそちらを見る。するとそこにはサヤが、俺の勉強机に足を組んで腰掛けていた。


「ふむ、此度(こたび)(わらわ)の巫女の名はそのような名前であったな?」

 伏し目がちに、そして上品に、妖艶に笑いかけながら応えるサヤ、らしき少女。


「サヤ、じゃないのか?」

「そうだとも言えるし、違うとも言えるのう。妾は、どちらかと言えば、今そこに居る妖精の紛いモノのような存在じゃ」

 一緒にされたくは無いけれど、などと言いながらもその少女は上品な笑いを崩さずに応える。フェンのようなということは……。


「秘宝……? 聖者、とでもいうのか? だったら何の……?」

「違うぞ、小僧。こ奴はそのような生易しい存在ではないわい。思い出してみよ、こ奴がこの娘のことをなんと表したか」

 フェンが横から口出してくる。相変わらず馬鹿にしたような、呆れているかのような、そんな表情をしている。その言い様は頭に来ないことはない、が、言っていることは嘘じゃない。この少女がサヤの事をなんと言っていたか……?


「妾の巫女、だったか?」

「それで分からぬか? この世界で巫女などが付く存在など三つしかない。土、空、そして水。この世界を構成する三界の神のみじゃよ」

「三界の神、土神、空神、……水神」

「ふふふ、妾は自分が神、などとは思うておらぬがの? まぁそなた等が言うところの水神、という存在ですよ」

「なん、で?」

 何故、そんな存在がここに居る? ここは『俺の中の世界』じゃなかったのか?


「何故か? それは『妾が巫女』が呼んだからに他あるまい。……じゃが、そこの妖精の紛いモノはともかくとして、妾と直接話す事の出来る存在が巫女以外に居るとは予想外ではあったが」

「本当にお主は面白い奴じゃのう? まさかその身に神を降ろすとはな、流石は我らに勝っただけのことはあるなぁ。我が半身の宿敵よ、そうでなくては、そうでなくてはな! ひゃひゃひゃ!!」

「カツミ、だったか? お主、不思議そうな顔をしておるの? ……妾は、お主らが言うところの『三つの宝珠』の一つ、ということになる。本来、妾は『妾が巫女』にのみ力を貸す存在」

「そう、故にわしは三つの宝珠とは、それぞれの巫女そのものを指すと考えておったのじゃがな? まぁ水の巫女を自称していた人間以外に、土の巫女、空の巫女の存在を今の時代に居ると言う話は聞かぬが」

「妾ですらそう考えていたのじゃ、おかしくは無い。むしろカツミとやら、お主は何者じゃ? その妖精の紛いモノなんなのじゃ?」

 今までの優しげな笑みを消し、フェンの方を冷ややかな目で見つめるサヤ、いや水神。そのフェンはそんな視線を気にせずに、薄気味悪い嗤いを浮かべたままだった。


「フェンは、知識の聖者(パヴロスリング)の……」

「こ奴はそのようなことを聞いているのではないぞ? わしのことではなく、この体自体のことを聞いておるのじゃよ」

 フェンは、相変わらず呆れた顔で俺のことを見ながらそう言う。


「ディーのことか? ディーは妖精、だろ?」

「……ふう、本気でそう思っておったのか。妖精とはエルフ共が作った、単純作業をさせるための唯の機能が人型を取ったモノに過ぎぬ。解るか? 自我など有り得ぬのじゃよ。それが喋ったとして、それはそれを作ったエルフ自体の代弁に過ぎぬ」

 ……それは、ゲームの時のディー。システムサポートとしての妖精。会話などは無く、お願いしたことだけを淡々とこなしてくれる存在。


「こちらの妖精はディーみたいな存在なんだとばかり……」

「……おい小僧、お主今、『こちらの』と言ったか? 『どちらの』妖精を知っている?」

「え? それは……」

「……なるほど。カツミとやら、お主は『ヒューマン』じゃな?」

 フェンの質問に言い淀んでいると、水神が何か分かったらしく、そんなことを言う。


「あぁ、これは『こちら』からの呼び方であったな。『そちら』では確か……『プレイヤー』と自称しておったか?」

「……プレイ、ヤー」

「ふむ、その反応、正解とみるがどうか? まさかまたヒューマンに会うことになるとはの?」

「あぁ、わしらオーガはあまり区別しておらんかったが、そう言えば人間共とヒューマンは違うのだったな」

「力こそ全て、であったか? 確かに見た目はこのように区別がつかぬが、そのような大雑把なのはそなたらだけじゃと思うがの。そのあり方、『こちら』の生き様とは明らかに違う」

「そんなことはどうだって良い! 俺以外に、俺以外にプレイヤーは居るのか!? ここは『ゲーム』の中なんだな?」

 俺がプレイヤーだというのなら、ここは『ゲームの中』と言うことになる。ならなぜ、俺は出ることができない? 疑問が疑問を呼ぶ、考えがまとまらない。けれど、俺以外のプレイヤーに会えば!


「落ち着け、何を焦っておるのか分からぬがな。結論から言えば、ヒューマン、お主らの言うプレイヤーは『今は』この世界にはおらぬ。少なくとも妾は知らぬ」

「どういう、事だ?」

「百年前のある時を境にな、忽然とその存在を聞かなくなったのじゃ。そもそもその出現も何処から来たのかも解らなかったのじゃがの?」

「そんな……」

 折角見えた希望が、折れる。なんなんだ、この世界は……。


「まぁ、お主のように気が付いていないだけで他にも居るかもしれぬがな? ひゃひゃひゃ」

「妖精を連れた人間、など目立つとは思うが、妾も今の今まで知らなんだのじゃ、有りえぬ話ではないの。……じゃが、ヒューマン達が連れていたのは確かに『妖精』だった。妾が妾の巫女を通じてヒューマン達とは何度か会ったことはあったが、間違ってもこのような『妖精の紛いモノ』では無かった。そう言う意味ではお主はあの時のヒューマン達とは違うのかもしれぬの」

「俺は……、どうしたら……」

「ふむ、そろそろ目覚めか? 妾はこのような話をする為に出てきたのではないのだがの。まぁ良い、良く聞けカツミ。鍵は妖精じゃ。お主が、ヒューマンなのかそれ以外の何かなのか。仲間がいるのか、居ないのか。全てはそこに収束しておる。まずはそこを考えてみよ」

 意識が、途切れる。俺は、まだ聞きたいことが山ほどあるのに……!? 俺は、おまえは、ディーは、サヤはっ!


No.2 水の宝珠

効果:

 水神と意識を通わせることができ、これの所有者こそが『水の巫女』とされる。

 全ての水の力を使用することができると言われ、その力は地形すら歪める。

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