HelloWorld[1]="戦闘スキル";
「さて、初心者クエも終わったし、ちょっと戦闘してみるかな。そういえば本来なら大成功かどうかにかかわらず、街の案内が始まるはずなんだが、まあ転生者用にクエが省略されてるのかな?」
などと考えながら裏門をくぐる。
詰め所からみて正門の正反対の方向にある裏門。レベル上げはこっちでやったほうが効率がいいのはこの街をホームにしているプレイヤーからしたら周知の事実だ。敵モンスターが丁度いい間隔で配置されており、装備にとぼしい初心者でも安心して訓練できる。
見上げるとこのゲームのタイトルにもなっている「シャンバラ」へ続くとされる巨大な門が遥か彼方の空に浮かんでいるのが見える。
「シャンバラの門」
これを開けてその先へ行くのがこのゲームの大きな目標の一つとなっている。ただし、長いこのゲームの歴史のなかでも誰一人それを達成したものはいないが。
「おかしいな?門を出てすぐにウッディーがいたはずなのだが」
ウッディーとは最弱のモンスターで、こちらから手をださないと襲ってこない上に、攻撃も遅く威力も低い、正に初心者向けの練習相手なのだ。
「配置かわったのかなぁ、1週間前に手伝ったときはいたのになぁ。っていたいた。物陰に隠れていたのか。まぁ純粋な意味での初心者なんてもういないだろうから、転生者用にちょっと難易度あげてるのかな」
そんなことを考えながら武器を構えようとして、ふと装備がなくなっていることに気が付いた。
「あれ? あぁ、そうか。転生した時にホームに全部預けられているのかな。まさかアイテムも初期化なんて無いよな?」
装備:
メインウェポン:素手
サブウェポン:(なし)
頭:なし
胴:初心者の服
腰:なし
脚:初心者のズボン
足:初心者の靴
その他:なし
ステータスを見ようとすると、頭に現在装備の一覧がイメージとして浮かんでくる。前までは「ステータス!」と口で言わなきゃ見れなかったのが念じるだけで分かるようになったのは進歩している。けれど、装備の能力がみれなくなっている?
「一歩進んで二歩下がるイメージだなあ。まぁ攻略サイト見れば全部のってるんだけど。ディー? なにか武器は持ってないか?」
「はーい。えっとですねぇ、ダガーがひとつとショートソードがひとつ、といったところですね」
そう元気よくでてきて愛嬌良く答える。本当によく出来てるなぁ。まぁ返事はよくても内容は初心者装備しかないのだが。
「予想通りといえばそうだけど。まぁいいや、ダガーを一つだしてくれ」
「はいはーい、ほほいのほいっと!」
ずしりと腰に重みを感じる。妖精に預けている間は重さは感じないが、出した瞬間に重さを感じるのは変わっていない。
「そういえば、持てる量は増えたのか?」
ふと思い立って聞いてみる。転生ボーナスとか有るかと思ったのだ。
「増えた?とくに制限なんてないですよ?あ、大きさのことですか?それならこーーーーれぐらいまでならいけますよ!」
すげぇ。もともとは40こほどのアイテムしか持てなかった筈だ。大きさの制限という概念はなかったが、もともと手に持てないものは預けられないから実質制限なしに等しいな。これはすごいボーナスだ。わざわざホームに取りに行く必要がなくなるからな。
「あれ?それなら装備は全部預けておいてくれたらいいのに。微妙に気が利かないなぁ」
「はうう、よくわかりませんがすみませんです」
「あ、ディーの事じゃないよ、ごめんごめん。独り言さ」
「はうう?ならよいのですが」
NPC相手に何故か機嫌をとってしまう。それほどに良くできている。
気を取り直して腰から獲物を抜く。SAVRでは武器の種類ごとに熟練度という名前のレベルがあり、これを上げることで新しい技を覚える。今手に持っているのは短剣、それを逆手持ちにしている。こうすることで、普通ならば「短剣」スキルである攻撃を「忍刀」スキルの攻撃として使うことができるのだ。ただし、「短剣」スキルレベルを50まで上げて、簡単なクエストをこなさないと本来は使えないのだが、「オーバーロード」の称号があるから使える筈だ。
「うっでぃーさんが相手ですね! がんばってくださいご主人さま!」
「おう」
こんな応援もなかったよなぁ。NPCとはいえ、悪くない。
ディーの応援に気を良くして、気合いを入れて右手のダガーでボーっと立っている木の化物を切り裂く。それに気が付いて化物は反撃をしてくるが、遅い攻撃、避ける。そして避けながらももう一撃。木の化物は俺からの攻撃によってよろけながらも更に反撃してくる。それも避けてもう一撃。反撃に備えるが……動かない、いや、化物はそのまま倒れ込んだ。どうやら三撃で倒せるようだ。
「すごいですご主人さま!のーだめーじですね!」
「敵が弱いだけだよ、たいしたことじゃない」
ふむ。ちょっと前まで3対1で攻撃を紙一重でよけまくっていたのに比べれば、本当に止まっているような攻撃だったので食らう筈はなかった。けれど、ちょっと驚いたのは「リアルに避けれる」ことだ。転生してすぐなので、回避スキルは0の筈だが、かするように避けてもダメージにならなかった。
このゲームでの回避スキルは当たり判定の縮小という形で現れる。高めれば高めるほど当たったように見えてあたらないようになるのだ。逆に低ければ当たらないように見えても当たってしまうものだったのだが、転生効果なのだろうか?たしかに様々なところが変わっている。
「うっでぃーさんは木の皮を持っていました。あとはえなじーをいただいておきますね」
そういうとディーが倒れたウッディーからドロップアイテムをとってくる。これも新しい演出だな。システム的には倒したらすぐに懐に入っているのだろうが、「妖精が取ってきた」ということでリアリティをだしているのだろう。まぁわざわざ所持品を確認しなくていいのは便利だな。
続けて数匹のウッディーをディーの応援を受けながら倒しているとふと脳裏に技が閃いた。せっかくなので使ってみると、忍刀スキルの一つ目の技、「サイドアタック」が発動し、瞬時にウッディーの真横に移動して攻撃する。回避しながら攻撃できる便利な技だ。
「へぇ、演出も凝ってるなぁ」
そう、元々技を覚えたときは妖精がシステムメッセージとして「○○が使えるようになりました。」と読み上げるだけだったのだが、「脳裏に浮かぶ」なんて演出、最新のVRでもなかなか無いと思う。これはちょっとすごい。
「すごいですご主人さま! さっきの技は何ですか?」
「サイドアタックっていう忍刀の技さ。発動の瞬間に真横に移動して切りつけるのさ。威力は大したことはないけどさっきみたいによけながら攻撃ができるんだ」
「なるほど、すごいです!」
なんで俺はNPC相手に技の説明をしているんだろうか?これじゃあ今までと逆だな。
「あと、成長ボーナスもかなり良い感じだな。体感では大体2倍超ぐらいの成長率。ふつうなら10匹ぐらいで1つ目の技を覚えてたはずだが、さっきのは5匹目の途中で覚えたからそれぐらいなんだろう。確率だから正確にはわからないけど2倍~3倍といったところか?」
「せいちょうぼーなす、ですか?よくわかりませんが、たしかにご主人さまは急に強くなった気がします」
一々独り言にも反応してくれるディー。俺はわりとこういう世界に入り込む設定は好きだから良いけど、人によってはうざいとかんじるかもしれないな。そのへんは設定で調整できるようになるかもしれない。
「あ、うっでぃーさんがこんどは「さびたダガー」をもっていましたよ!」
「あぁ、そういえば持ってるんだったな。鍛冶スキルか錬金スキルがあればダガーに強化できるんだけど、まぁいいか。どうせ練習だし。ディー、今のダガーの逆側にそのさびたダガーを出してくれ。」
「はいはーい。ほほーいっと」
今度は右側の腰にも重みを感じる。こんどは順手で装備する。これで「二刀流」スキルが使用可能になる。これも忍刀スキル50でやっと使えるようになるスキルだが、やはり問題なく使えるようで、7匹ほどウッディーを狩るうちに短剣のスキル「毒撃」と二刀流のスキル「連撃の壱」が脳裏に閃いて使えるようになった。
「連撃の壱がこの時期から使えるのは大きいなぁ」
「ほぇぇ。本当にご主人さま、急につよくなりましたねぇ。その技はれんげきのいち、というのですか」
「あぁ、これはさっきのサイドアタックとか、主に忍刀で使えるスキルから連続して違うスキルを発動できる技さ」
もうディーに返事するのにも違和感を感じなくなってきている。それほどまでにディーの喋りやしぐさは自然だった。