PeekMessage[2]="砂中の攻防";
ホブゴブリンが大きい横薙ぎの攻撃を放ってくる。
「バックアタック」
それを技で避けながら、ゴブリンよりはよほど太いホブゴブリンの首筋に小太刀を突き刺す。
ホブゴブリンはゴブリンよりも体が大きい分体力も多いが、急所攻撃を狙えば1~2回の攻撃で倒せる。
ルサ=ルカとニックが倒し漏らした奴だけのため、一度に大量に戦う必要がないのは救いだ。
多くて2体、と言った所。油断さえしなければ今の俺でもなんとかなる。
そんなことを考えながら、首元から小太刀を抜きながら着地しようとして、少し体勢を崩す。
「ちっ、いくらなんでも多すぎだろう」
俺はなんとか砂で滑る床に手間取りながらも起き上がり、これでもう何体目か分からない程に倒す羽目になったことに舌打ちする。
この数、そして砂による足場の悪さ。
それによって目に見えたダメージは無くても、体力は減る。文句の一つぐらい言っても罰は当たらない筈だ。
-----
初めは、倒す相手は必要最小限に抑えて進んでいた。
だが、予想以上に数が多く、そして弱かった。
おそらく後詰め部隊、つまり工兵や補給兵が中心なのだろうとヴォルドは言っていた。
棍棒のような工具を持ったホブゴブリン工兵と、大ナタをもったホブゴブリン補給兵。
両方とも体が大きく体力があるぐらいで強さはゴブリンと大差がない程度。
ホブゴブリン突撃兵と呼ばれる戦士たちであれば、ルサ=ルカとニックなら問題ないだろうが、今の俺では一人だと少し苦しいだろう。連戦なんて出来れば遠慮したいところだ。
ましてや、オーク軍の主力ともいえるオーガ達がいれば、退却を視野に入れなければいけない。
だが、それなりに奥まで来ても居るのは工兵と補給兵以外見当たらない。
その為に予定を変更し、強行突破して目標を索敵、破壊することにしたのだ。
このレベルであれば、どれだけの数が現れても唯一リターンの使えるヴォルドを詠唱が完了するまで守りきるのも難しくない、という判断である。
その判断自体は間違っていないと思う。
間を掻い潜っていくには時間がかかりすぎるのだ。
ゲームの時と違って、ホブゴブリン達は決まったルートを見回っている訳でもないのだから。
-----
「みぎからふたりきますよー」
「了解!前は戦闘中だから、こいつらは倒していく」
ニックとルサ=ルカは、ホブゴブリン相手に殆ど労せずして倒していく。
だがそれにしても、この広くは無い空間でこの量ではどうしても足は止まってしまう。
そしてこの砂に埋まった遺跡はそれほど複雑な分岐は無いにしても、どうしても討ち漏らしが出てくる。
その、別の分岐にいた漏らした敵の相手をするのが俺の役割だ。
マイケルはサヤとヴォルドを守る盾役であるために、積極的に倒しに行くことはできず、サヤとヴォルドはもっぱらルサ=ルカとニックの援護。よって遊撃的なポジションは俺しか居ないということになる。
(まだ、ゲームと違って”逃げ腰のモンスター”が多いことが救いだな)
単純な|AI(人工知能)で動いていたゲームの時と違い、彼らは”恐怖”もするようで、一度も戦わずに逃げ出す者も多かった。
だが、それでも敵の拠点、俺だけでも十以上のホブゴブリンを倒している。
そんなことを考えていると、二体のホブゴブリンのうちの前に居る棍棒を持った方が大ぶりな攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃を避けながら、右手の小太刀を振るい、一閃。
そのまま、その後ろにいるホブゴブリンがまだ準備が出来ていない隙に左手のソードブレイカーで切りつける。
当然、まだレベルの低い俺ではそれだけではどちらも倒せない。
技はさっき使ったばかりなのでまだ使用できない。
(けど、問題は無いな。さすがに倒すのは慣れてきた……)
そんなことを考えながら、がら空きになった最初のホブゴブリンの背中に小太刀を深く差しこむ。
今だ慣れない、肉の感触。そして断末魔。戦いには慣れても、この”ゲームとの違い”にはまだ一瞬ひるんでしまう。
「ご主人様、後ろ!」
「ちっ」
もう一体のホブゴブリンの存在。もちろん忘れていた訳ではない。
だがちょっとした慢心と、予想以上の死に際の声に俺の反応は一瞬遅れて。
振り返ると、そのホブゴブリンの大ナタはすでに俺を殺すために動き始めていた。
(落ち着け、まだ間に合う)
まだ技は使えない。でも、全力で避ければ、体勢は崩れてしまうが避けられる。
そう考えながら全力で地面を蹴ろうとして……、俺の足は空を切った。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
そして、地面が砂で滑りやすくなっていたことを思い出した時には、すでに大ナタは俺の目の前に来ていた。
(うそ、だろ。ははっ、こんな所で?)
大間抜けにも程があるな。武器で受け流すなり方法は有った筈だ。それが、滑って転んで切り殺されるなんて、間抜けにも程がある。
目を瞑る。死にたくない。
鈍い痛み。
そういえば、切られるのは初めてだな。
ゲームの時とは痛み方も全然違うな。切られたと言うのに何かにぶつかったような感触……?
「カツミ!大丈夫!?」
サヤの声に意識を戻し、目を開けてみるとそこには燃え上がったホブゴブリンが居た。
「助かった、のか。……いや、助けられたんだな」
俺は滑って転んだだけで、切られてなどいなかった。
恐らく、間一髪という所でサヤの魔法が間にあったのだろう。
「大丈夫、カツミ?生きてる、よね?」
泣きそうな声を出しながらサヤが駆け寄ってきた。
「……あぁ、助かった。ありがとう。……ありがとう、サヤ」
本当に、助かった。
……まだ、心臓がおかしい速さで動いている。
尻もちをついたままのかっこ悪い体勢だ。
幸い、あの二体以外には近くにはいないようだった。
「良かった……、本当に。……ふんっ、次は無いですから気をつけやがれドン亀野郎」
そうサヤは、泣きながらも俺を罵るのだった。