PeekMessage[0]="妖精の帰還";
「すぴー、ふみゅー……?」
お腹の上に、何か重みを感じて目が覚めると、そこにはディーが気持ちよさそうに眠っていた。
「……ディー?」
恐る恐る、問いかける。さっきまでのことが鮮明に思い出される。
「ふみゅ?おぉ、ご主人様!おはようございます!」
「はぁ、とりあえず涎を拭け。……今まで何処に行っていたんだ?」
……良かった、どうやら杞憂だったようだ。あれは夢、だったのだろうか。
垂れた涎を袖で軽く拭ってやりながら聞く。俺とサヤ以外は見ることすら出来なかったのであまり捜すことが出来なかった。
(……いや、違うな。捜しに行くのが怖かったんだ。無事なら自分で戻ってくる筈、そんな言い訳をしていた。……酷い奴だな、俺は)
今のディーは大切な相棒で、仲間だ。けれど、心のどこかで、”システム”の一部なんじゃないかと今でも思ってしまう時がある。
……心配しているのも嘘じゃない。
結局は、覚悟が足りない、ということなんだろうな。
「何処って、……あれ?おーく軍のおねーさんたちはどうしました?なんで砂丘?あれ?あれれ?」
……オーク軍のお姉さんって……リゥ将軍のことか?
斬新な呼び方だな……?そういえばあれでも女だったんだよな。
ということはフェンも女なのだろうか?
……どうでも良いことか。
「あれから色々あって、今は大砂丘に居るんだよ。お前の姿が見つからないから心配していたんだぞ?」
「むうう、そうは申されましても、なにがなんだか……。」
俺は周りを起こしてはいけないと思い、小声で伝えるとディーはまだ寝ぼけているのか瞼をこすりながら考えていた。
本当は色々と聞きたいこともあったのだが……。
(今はやめておこう。もうすぐ皆が起きだす頃だしな)
ふと、違和感。
そう言うディーの頭には、これまでは付けていなかった筈の茨の冠があった。
あの時からディーと共に無くなっていたモノ。
「……その冠、どうしたんだ?」
「冠?……おぉ!なにかありますね?お、お、おぉ?取れませんよ?おぉぉおお?」
十三聖者の一つ、パヴロスリング。あれが夢ではないと言うのなら、だが。
……だが、夢の中であいつはディーの体で現れ、そして今現在この冠はディーと共にある。
……偶然と片付けるにはあまりにも出来すぎだろう。
「まぁ、良い。お前が無事なら、それで良いさ。」
「おぉお?なんだかよくわかりませんが、私もご主人様が無事ならそれでよいのです。」
何となく、あれは夢では無かったんだろうと思っていた俺は、さほどショックでは無かった。
二度目ではあったし、夢であるなら、あそこまで知らないことが出てくるのはおかしいからだ。
それに、この愛らしい相棒を見ていたら、そんなことは小さいことだと思えてきたんだ。
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「カツミ、誰と喋ってって……、なんだ?その生き物は?」
やばい、と思った時にはすでに遅く、ディーと喋っているところを見つかってしまった。
どうやら結局、朝方には見張りを代わっていたらしいルサ=ルカが戻ってきたのだった。
「って、ルサ=ルカ将軍はディーが見えるんですか?」
……エルフの血でも引いてるのか?そんな設定はなかった筈だが。
「……ディーと言うのか、その生き物は。」
「むぅ、ディーは妖精なのです。イキモノじゃないのです。」
俺の質問を無視してディーを観察するルサ=ルカ。そして観察されているのが不満なのか、辺りをぐるぐる回りだすディー。
……やはり、ちゃんとルサ=ルカは目でディーを追っている。どういうことだ?
パヴロスリングの効果だとでもいうのか。
「ふぁぁあ、あ?……お嬢?何をしているんで?」
「あ、ヴォドル、起きたか。見てくれ、こんなところに妖精がいたんだ。ディーと言うらしいぞ?」
「……はぁ、お嬢、水は貴重ですが顔洗いますか?」
「何を言っているんだ?ここに居るではないか。なぁカツミ?」
俺たちの喋り声で起きたらしいヴォルドは、ルサ=ルカが寝ぼけていると勘違いしたらしい。
……冗談で言っている訳ではなさそうだ。
つまり、彼には見えていない、ということだろう。
「……普通はエルフにしか見えないものなんですよ。俺は何故か見えていますが」
そう、その筈。今まで俺とサヤにしか見えなかった筈の妖精。
「へぇ……。まぁお嬢は普通じゃないっすからねぇ。おいニック起きろ。お前妖精が見えるか?」
「……はぁ。何を馬鹿なことを言っているんですか?良いですか?妖精と言うものはエルフにしか見えないと言われて……」
「私には見えているぞ?」
ニックはヴォルドが寝ぼけていると決めつけて話し始めるが、ルサ=ルカの一言に押し黙ってしまう。
「あ、おはようございますっす!あれ?どうしたんすか?みんなして?」
「おはようございます、皆さま」
丁度そのとき、マイケルとサヤも起きてきた。
「あ、サヤちゃん!おはようですよ!」
「ディーちゃんっ!無事だった……ぶじ、だったんですね」
それに気が付いたディーは俺のの周りをぐるぐる回るのをやめて、今度はサヤの周りをまわりは始めた。
そしてサヤはディーとの再会を喜ぶが、それを見てキョトンとしているマイケル。
(マイケルにも見えていないようだ。ということはむしろルサ=ルカにだけ見えるということか。どうなっているんだ?)
考えられるのは……十三聖者、か。フェンに会ったら聞いてみないといけないな。
「ふむ、たしかにサヤには見えているようだな。まぁカツミの相棒だと言うのならば仲間だな。私はルサ=ルカだ。よろしく頼むぞ、ディー」
「はい、よろしくされます!」
「お嬢、なんでそんなに落ち着いているんですか?妖精って妖精でしょ?……喰われたりしません?」
「食べたりしませんよ!妖精を何だと思っているんですか!」
巨体に見合わず小心者なヴォルドはお化けでもいるかのようにおびえている。
そしてそれを見たディーは必死に否定しているが、聞こえていないので効果はないようだ。
そしてヴォルドの怖がりようにマイケルまで怖がり初め、それを笑うルサ=ルカ。
「貴方にも見えるんですよね?カツミ君」
不意に、ニックに話しかけられる。
……なんだろう、一瞬寒気がした。いや、本気で飛び避けようとすらしてしまった。
「えぇ。何故か初めから見えていました。俺以外の人でディーを見えたのはルサ=ルカ将軍が初めてですが……」
にこやかな表情。けれど、目が笑っていない。なんだ?
「……一説によると、妖精は神の使徒だということです。そのために神に愛された種族であるエルフにしか見えないとされています。それ以外にも稀に見えることがあると言う話はありますが、それは全て神話の世界」
ルサ=ルカ達はまだ見える、見えないを言い合っていた。サヤだけは少し離れた所に居るが、どちらにしろ俺たちの話が聞こえてはいないようだ。
「ルサ=ルカお嬢様は、その血筋は由緒正しく水の神官様にも近いお家柄。そしてその人柄、能力も誰もが英雄と認めるものです。それ故に妖精が見えると言ってもそれほど不思議なことではないでしょう」
そして、話すのを止める。
もう言わなくても分かる。
『じゃあおまえは何故?』
その目が言っている。
「私は幼い頃よりルサ=ルカお嬢様にお仕えしてきました。そしてあの方の剣である事を誇りに思っています」
優しい笑顔、隙のない仕草。
「リゥ将軍からお嬢様を救っていただいたことは感謝しています。そして、これからも共に闘えることを頼もしく思っていますよ」
……流石にここまで露骨に言われれば誤解はしない。
「おーい、ニック、カツミ!集まれ、突入方法を決めるぞ!」
「きめるぞー!」
いつの間にか、意気投合していたらしいルサ=ルカとディーが俺達を呼ぶ。その瞬間、さっきまでの寒気が嘘のように霧散した。
「では、いきましょうか、カツミ君」
ニックは、何事もなかったかのようにいつも通りの口調に戻っていた。
「……俺は、ウォータの人たちが好きです。だからウォータを守りたいと思っています」
俺の答えを、彼にだけ聞こえるように伝える。
……だが、彼は確かに聞こえている筈なのに、何も反応せずにルサ=ルカ達のところへ向かっていった。
『言葉ではなく行動で示せ』
そう、ニックの背中は語っていた。
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ルサ=ルカさんにも、ディーちゃんは見える。
カツミが頼りにしているのもルサ=ルカさん。
私は。
……私は、何故ここに居るの?
ねぇ、誰か。
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