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Make NewWorld /VR /Online;  作者: 山河有耶
2.CreateThread
23/59

Sleep[0]="最前線の砦";

 砂。


 見渡す限りの砂。


 ジャリカカラ大砂丘。昔は肥沃な平野が広がっていたそうだが、100年前、水神の奇跡によって全てが押し流されて今のようになっているそうだ。そのために、ところどころに当時の物と思われる遺跡があったりする。


 ウォータから徒歩でなら慣れたものでも数日、馬車でも丸一日かかる行程があり、ゲームでは街の周りのイベントを卒業して中級者となったものが訪れる場所。一度到達すれば、ウォータの町からは移動魔法(ゲート)で来ることが出来るのだが、ゲームの時と違って最高レベルの魔法使いプレイヤーが何処にでもいる訳ではなく、移動魔法は特権階級、または非常用と言う扱いのようだ。


 ここから先は、ここまでとは多くの違いが存在する。それもその筈、砂丘との境目であるここ、ペダラダ大砦はウォータ軍にとっての最前線であり、つまりこれより先はオーク軍の支配下と言うことになるからだ。


 この砦の南側、つまりウォータ側には至る所に大小さまざまな砦、連絡所などがあり、モンスターや亜人と戦ってつらくなったらそこで休憩、と言うようなことができた。そして施設には回復アイテムなどが販売されていたり、時には守備兵が戦闘の手助けをしてくれる、というようなことまであった。

だが、これより先にはほとんどない。あっても見えにくい不便な場所にあり、多少安全に眠ることが出来る、という程度。


 もちろん、このゲームでは安全にログアウトする為には睡眠が必要なため、それだけでも十分にありがたいのだが。


(……俺もこの砦にはずいぶん長い間お世話になったものだったな)

 転生をする直前には、年に数回訪れるかどうか、と言う程度になってしまったが、思えばここで四苦八苦していたころが一番楽しかったかもしれない。当時は純粋にゲームを楽しんでいた。


//-----


 ルサ=ルカからの協力の申し出を受けた俺は、彼女と共にオーク軍と戦う最前線のこの砦にやってきた。


 第十一次ウォータ防衛戦。ゲームの歴史と同じようにそれが起ころうとしているからだ。俺が生き残るためにも、この戦いを勝たなくてはいけない。


 いや、ゲームと同じでも『今回は』ウォータは勝利する。ただ、今回の戦いの消耗が酷すぎるために次回でウォータが陥落する、ということになってしまうのだが。


「おい、なに朝も早くから黄昏てんだ? そろそろ会議はじまるぞ。はっはーん、おまえ大砂丘初めてか? ならしょうがねえな。すげえだろ? びびるだろ? まぁ俺もほとんどウォータの警護だったから詳しくはねえけどよ。あぁ大丈夫大丈夫、ルサ=ルカ隊長、じゃないや将軍はずっとここにいたらしいからな、任せておけば問題ないって」

 俺が砂丘を見ながら考え込んでいると、何か勘違いしたマイケルに話しかけられた。


「いや、本当に広いな。東西それぞれに、微かに海岸線が見えるかどうかって以外はほとんど砂か荒野。今まで水の都に居た身としてはちょっとつらいな」

 都合が良いので彼の勘違いをそのままにしておいて、俺はマイケルに向かって答える。ゲームの時は感じなかった、砂を含んだ風によってもたらされる体中至る所の砂の感触。一応この砦には大きな井戸があるため飲み水に不足はないが、それでも頻繁に体を洗えるほどではない。


「まぁなぁ。俺も口の中じゃりじゃりだぜ。けど、そのおかげで奴ら自慢のオーク騎兵はこっちにはほとんどこねえんだ。これも水神様のご加護なんだろうよ。ま、良いから早く行こうぜ。そろそろ怒られるぞ」

 そうだった。この大砂丘エリアまではオーク騎兵はほとんどいないのだったな。

 騎乗用の生物としてオークは「速い+強い+増やしやすい+食料になる」と良いとこ尽くしではあったのだが、短すぎる足のために砂に埋まってしまうのだ。また、オーク達は大量の水を消費する。それもあってこの砦に攻めてくるオーク軍は大多数がホブゴブリンの歩兵によって構成されていた。そして今はそのホブゴブリンを主力とした第十一回防衛戦のための軍議に呼ばれているのだった。


//-----


「さて、私が今回新設されたウォータ第七軍の将となったルサ=ルカだ。まぁ、今この場に居る面子で全くの初対面な者はいないようだが」

 軍議が始まる。リゥ将軍撃退の褒章によりウォータ史上最年少の将軍へ昇格したルサ=ルカ将軍のための軍、ウォータ第七軍。それの公的には初めての軍議。


「それぞれにはある程度概要は通達してあると思うが、この第七軍は急造軍である故にかなり特殊だ。正しく軍人と言えるのはもともと私が第一軍で直率していた一個大隊のみ。後は戦時徴兵として軍属となってもらっている冒険者の者たちで構成されている」

 ルサ=ルカは辺りを見渡しながら、よく通る声で説明している。今回軍人でもない俺がここに参加しているのは、冒険者側の代表の一人として呼ばれている。もちろん俺以外にも高レベルの冒険者が呼ばれている。というより俺が呼ばれているのはルサ=ルカからご指名があったからなだけだが。


「よって今回は軍属では無い者のために我がウォータ軍全体の現状から説明する。知っている者も復習だと思って聞いてくれ。オーク軍の侵攻が始まればもうこのような説明をする間などないからな。

まず軍についてだが、第一軍からこの第七軍までの七つの軍があるが、この砦には第五軍と第六軍を除いた五つの軍が駐屯している。第六軍は首都防衛部隊であるため当然だが、第五軍は前回の戦いでほぼ壊滅状態となったために今回は不参加となった」

 ゲームのときは、この時点ではルサ=ルカはまだ千人隊長だった筈。そして第五軍にルサ=ルカが参加することで戦力を増強して参戦していたのだが、このあたりに違いがでてきているな。マイケルもずっと第六軍として街の警護をしていた筈なのに、冒険者のまとめ役として第七軍へ百人長に昇進して着いてきている。


「第一軍はこの砦の最終防衛軍、第二、三、四は砦の前でホブゴブリン共と正面から戦う部隊。そして第五軍のらくだ騎兵部隊で相手の後方を撹乱して撤退に追い込む。これが前回まで我々ウォータ軍が取ってきた戦略だったが、今回はそれができない。よって今回の戦いは我が第七軍がこの役目を負うことになる」

 オーク軍は例えオーク騎兵が居なくても強力だ。ここに攻めてくるホブゴブリンの兵力だけでウォータ軍の三倍はある。そのために正面から戦うだけでは負けてしまうのだ。だが、ここは幸い水神の加護によって砂丘となった地。補給を断てばいくら大軍でも、いや大軍だからこそ撤退せざるを得ない。


「だが、一つ問題がある。第五軍とちがって我々にはらくだ騎兵がない。諸君らも乗れないことはないだろうが、集団行動ができるようになるまで訓練する時間はない。よって何らかで補う必要がある」

 ここが今回の主題か。ゲームで彼女は、少数精鋭部隊を向かわせて相手の指揮官を強襲する振りをする、という手段でなんとか相手を撤退させていたが、立場が変わって行動が変わるのだろうか。


「ある程度こちらでも案は考えてきたのだが……、どれもリスクが大きい。有る程度はしょうがない所はあるのだが、出来るだけ必勝に近づけたい。そこで、諸君らに何か案が無いか聞きたいのだ。先に我々の案を言ってしまうとそれに影響される可能性があるからな。ここにきて短いのだから知らないことが多いのは当然だ。逆にだからこそ出る案もある、何かあったら言ってみてほしい」

 彼女が辺りを見渡しながらそう言う。だが、当然と言えば当然だが、少しざわついたぐらいで何も意見は出てこない。そう簡単に分かるぐらいなら軍でもとっくに思いついているわけだが……、なぜ、ルサ=ルカはこっちを見ているのだろうか。


 嫌な予感がする。


「……カツミ。何かないか……?」

予感的中。なんだその期待と不安に満ちた目は。


 ……あまり目立ちたくはなかったのだけど、しょうがないか。


 どちらにしろここに居るメンバーの大半は俺がリゥ将軍とやり合ったことは知られている。それに、協力すると決めたんだ。もう後戻りはできない。


「ここから西側に少し丘になった所があると思います。確か地図にはもう調査されつくした遺跡があるぐらいということになっていたと思いますが……。そこの状態を確認した方が良いかと思います」

 ゲームの時の状況を思い出しながら答える。全く同じではない可能性はあるが、そうであればもう俺は何も言えない。


「伏兵がいる、とそう言うのだな?だがあんな場所に伏兵がいたとして何ができる? ……おまえなら何をする?」

 必死に思い出しながら、そして不自然じゃない言葉を考える。


「そうですね、攻城兵器を用意する、とかでしょうか」

 そうだ、あそこには魔力で動く巨大な投石機がひそかに建造されていたんだった。ここから歩いて一日以上はかかる位置にある投石機。もちろんただの石ではなく、油の詰まった玉も打ち出され、大きな被害がでたんだ。


「私の知っている最長の射程のものでも半分もないはずだが……、いやしかし相手はこの大陸最大のオーク軍。ない、とは言えないか……」

 俺の言葉に、考え込むルサ=ルカ。まあ普通そうだろう。俺もすごく印象的だったから思い出せた。本来なら豆粒ぐらいにしか見えないような距離にあるのに、明らかに縮尺のおかしいサイズの投石機。そこから投げ出されるものを防ぐために魔法部隊がかかりきりになり、大きな被害がでた。


「……ふむ。どちらにしろそこを中継拠点にされているならば対策を考えなければいけない、か」

 さすがにあそこから直接攻撃されるとは思っていない、か。それもそうだな。だが危険は伝えた。どうするかは彼女次第。だな。


「よし、偵察に行こう! 準備ができ次第出発するぞ! ……ほら、起きんか、」

 ひとしきり悩んだ後、彼女は顔おあげたと思ったらそう言って立ちあがった。そして横の副官らしいとてもいかつい顔の大男を蹴飛ばして起こしたかと思うと部屋を出て行ってしまった。


 ……彼女次第、とは思ったけど、まさか今すぐ、か? 最近だいぶ彼女のことが分かって気はしていたけど、ここまで行動的だとは正直思っていなかった。


「……あー、うん。カツミ君、だったかな? 話は聞いているよ。カツミ君以外は部屋に帰って休んでくれて良いです。来たばかりで疲れているでしょう? あの人のお供は私たちでします。まぁカツミ君は言いだしっぺだからね、諦めて着いてきてくれ」

 あまりに唐突な出来ごとに俺が茫然としていると、もう一人の若い方の副官が近づいてきてそう言った。とても柔和な笑顔だが、とても苦労も背負い込んでそうな人である。


「まぁ、しょうがないですね。……まさか今から行くとは思っていませんでしたが」

 こんな人ゲームにいただろうか、と思いながら俺は答えた。


 ……ゲームの時と歴史が変わってきているのだろうか?もし、そうであったならこの偵察は無駄足になってしまうかもしれないな。

Sleep スリープ

指定した時間、処理を待機する。


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