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Make NewWorld /VR /Online;  作者: 山河有耶
1.PreProcessor
2/59

HelloWorld[0]="初心者クエスト";

--世界を、お願いします--


 扉をくぐると景色がブラックアウトし、そしてそんな言葉が響いてきた。


 なんだろうと思いながらも暗闇の中をそのまま少しの間まっすぐに歩いていると、見慣れた風景が周りに広がり、光が広がっていゆく。


「よう兄ちゃん! この街は初めてかい?」


 ここはSAVRを始めるときに選べる2つの街の片方、水の都ウォータの正門を入った場所。そして話しかけてくる兵士の男は初心者ガイドをしてくれるコンピュータ操作のキャラクター、いわゆるNPCというやつだ。


 本当に懐かしい。俺がこの初心者クエをやったのは今から8年前、中学生のころだった。あぁ、転生したんだな、という実感がある。


「どうしたんだい? だまりこくっちゃってさ。ははーん。さてはこのウォータの街並みに圧倒されたな? うんうん、わかる、わかるぜぇ。おれも田舎から出てきたときは腰抜かしそうになったもんな。あ、うそうそ、俺様がこんなことで腰をぬかすわきゃねーじゃねえか、がっはっは」

 懐かしすぎて記憶があいまいだが、こんなにリアルに喋っただろうか? まぁ初心者クエは操作キャラクターを作った時しか受けられないから、バージョンアップしてても気が付かないか。


「えぇ、とても美しい街ですね。感動してしまいました」

 素直にそう答える。本当に感動しているが、それだけじゃない。この初心者クエはこの兵士と肯定的な受け答えを続けると、お助けキャラクターが紹介されるのだ。お助けキャラクターとはNPCではあるが、一緒に戦ってくれる仲間で、疑似的なパーティープレイが楽しめるようになっている。本当はそんなものは無くてもレベル上げのコツはわかっているので問題はないのだが、転生ボーナスの一つである「クエストが良いように変わる」の内容が見てみたくなったのだ。全く同じであってもそう手間では無い。


「そうだろう、そうだろう。あ、そうだ。おれっちはここのガードをしているマイケル様だ。おまえはなんてーの?」

「ボクの名前はカツミと言います。冒険者をしています」

「カツミ? へー、変わった名前だな。まぁいいや。おまえさん素直で良い奴そうだからちょっとお願いがあるんだけど良いかな? あぁ、そう構えるなよ。ただのお使いだ。この先まっすぐ言った所にガードの詰め所があるんだけどさ。そこに女が居るからそいつにそろそろこのマイケル様との交代だって伝えてくれよ。どんな女かって? あぁ大丈夫大丈夫。詰め所に女なんてあいつしかいねぇ。顔と体だけは良い女なんだがなぁ、あの性格さえなんとかなればって、お、おれはなんにもいってねえぜよ?」

 俺は何にも言ってないうちに一息で言いきった。無駄にバージョンアップされてんなぁ。本当に中の人が居るとしか思えない。世界初だからサービスで本当に中の人が居たりするのだろうか?


「わかりました。詰め所の女性にですね? 今から向かいます」

「あぁ急がなくても良いからな。まぁたのんだわ」

 そういってひらひらと手を振ってくる。

 このマイケルというキャラクターは脇役ながらも良いキャラクターをしていてプレイヤーたちに愛されている男だ。このクエストも何気に街の案内をしてもらえる「詰め所」の場所を覚えて貰うためっていう気配りで、なかなか憎めない男なのだ。



 教えて貰った方角に歩きながら風景をみていたのだが、やはりグラフィックが良くなっている。これは転生者用に新しく作り直したとしか思えない。このクエ自体は8年ぶりだが、この街は昨日も訪れた勝手しったるマイタウンだ。こんなに詳細まで書き込まれていなかったのは確実だ。なんせ地面に転がる小石を蹴飛ばすことができるのだ。VRはヴァーチャルなので、見た目と実際に触れるものとでかなり差がある。特にこのSAVRは古いゲームなので見た目は砂利道でも舗装された道路でも全て同じ床の感触だったのだが、今は確かに土の感触がするのだ。


「これはすごいな。まず一報、メールするかな」

 本当は後でまとめて送ろうかと思っていたのだがこれはかなり衝撃だ。「ゲームは面白いけど、さすがにシステムが古臭い」というのが最近のSAVR評価なのだが、これで死角がなくなるんじゃないかというほどにリアルだ。ちょっと留学を伸ばそうかと悩んでしまうほどに。


「ディー、コタローにメールを」

 そういって、懐の妖精に声をかける。このゲームのシステムメニューはすべて妖精を介して行われる。こうやって妖精に「指示」することでメニュー操作となるのだ。

「ディー? いないのか?」

 ディーとは俺の妖精の名前だ。どこかでよんだ小説のキャラクターに居たような何となく思いついた名前ではあるが、八年も一緒に居るとそれなりに愛着がわくものだ。


「すみませーん、ねておりました。ふぁー」

 懐から妖精が出てきて、目の前で詫びながらあくびをする。すげぇ、無駄に細かい。本当に生きている妖精のようだ。さっきまでのいかにも合成音声な妖精の声とは打って変わり、かわいらしい幼女の声になっている。たしかにいまだに最大動員数をほこって儲かっているとは聞いていたが、どれほど開発費を費やしたのだろう。


「コタローにメールをするぞ」

 感心しながらも、本来の用件をおもいだす。


「コタロー様? ですか? 初めてお聞きしますがどなたでしょうか?」

「え? コタローだぞ? じゃあリリーやオキナはどうだ?」

「リリー様にオキナ様ですか? やっぱり初めてお聞きしますねぇ」

 どういうことだ? まさかフレンドリストやメールアドレスまで初期化されたのだろうか? 確かにクエストのなかには「フレンドを5人登録してみよう!」みたいなものもあるが、そんなとこまで初期化したらさすがに問題だぞ。


「まぁ良い、当初の予定どおりあとでまとめて連絡するか。つーかあとでGMに連絡しといたほうがいいな? ベータテストも兼ねてんのかな」

「はぁ、じーえむ様もべーたてすと様も初耳ですねぇ」

 うむ、可愛いから許すが、こんな愛敬を実装する暇があればメールぐらいテストしてほしいぜ。


「そこで何をぶつぶつ独り言を言っている」

 ディーと会話をしていると急に横から話しかけられた。どうやら詰め所の前まで来ていたらしく、中の女性から不審に思われたらしい。そう、この女性がこのクエストの目標だ。


「あぁ、すみません。もしかしてこの詰め所で働いておられる方ですか?」

 妖精は呼び出したプレーヤー以外からは見えない設定になっている。確かにそれでは不審人物ではあるが芸が細かいなぁ。


「たしかにそうだが、おまえは?」

「はい、わたしは冒険者のカツミと言います。正門のガードのマイケル「様」より交代の時間をこちらの女性に伝えてほしいと依頼されましたのですが」

 ここで「様」をつけるのがポイントだ。あとは「交代」もキーワード。この二つをちゃんと伝えることでクエストが大成功となり、この女性兵士がお助けキャラとなるのだ。


「マイケル「様」ぁ。あいつはまたそんなことを言っているのか。ちょっと懲らしめてやらないといけないな。あぁ、カツミ、だったか。連絡ご苦労だったな。礼をせねばならんのだが、ちょっと今は何もなくてな。まだこのウォータの街にいるのか? そうか、なら後日また訪ねてきてくれ。すまんがマイケルのやつの相手をしてやらねばならん」

 そういって名乗りもせずに女性兵士のNPCは去って行ってしまった。あれ? 大成功ならここで一緒にマイケルをとっちめにいくはずなんだけど、条件かわったんだろうか?

 いや待て、後日訪ねてといっていた。報酬が変わっている可能性があるな。


「代わりに「人気キャラ」のマイケルが仲間に、だったら笑えるな。まぁある意味おいしいが」

 あの女性兵士、セレナも人気はあるが、強い女性キャラは他にも色々いるため際立って人気が高いわけではない。逆にお笑いキャラであるマイケルの方が個性があって人気なのだ。人気が出すぎてあとで専用クエストまで作られるほどだ。後付けでそのクエスト専用の、無駄に可愛い妹キャラとか追加されてたな。

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