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Make NewWorld /VR /Online;  作者: 山河有耶
1.PreProcessor
15/59

ClassGoblin[2]="物見の砦防衛戦";

※この話の最後から次章辺りにかけて、人によっては不快な表現が入っています。(個人的には少年漫画のグロい系が読めるのであれば問題ない程度だとは思っています。)苦手な方はご注意ください。

「軍本隊、渡河をほぼ完了しました。被害軽微の模様」

「ふぅぅ。大丈夫だとは思っていたけど、やっぱりこれを聞くまでは安心できねえもんな」

 百年という月日によって殆どの器具は使えなかったが、少量の魔法を打ち出せる固定砲台、及び服を乾かすための暖炉といったものはレンジャー達の努力によりなんとか使用できるようになっていた。

交代で牽制と休憩とを繰り返していたのだが、2、3人で十分対応できる程度の量しか辺りにゴブリンが現れることはなかった。


 もし侵入されることがあれば、投げナイフを使用することによって溜まったスキルエネルギーを使って瞬時に倒そうと準備していたのだが、それも杞憂に終わる。ゲームでは直接手に持っている武器以外はエネルギーはたまらないようになっていたのだが、これも変更点だな、などと考える余裕すらあった。


 本来武器を手放した時点でスキルエネルギー、通称SEは急速に自然減少してしまうのだ。恐らく貯めやすい武器で貯めた後に強い武器でスキルを使う、といったことを防止するためなのだろうが、ここではそれができてしまう。基本的には技を使うか睡眠でも取らない限り減ることはない。


「これが転生ボーナス、なのであれば色々な戦術が考えられるんだろうけど……」

 こういう、微妙に考えることのできる時間は嫌いだ。もう半ば諦めていても、僅かな希望を夢見てしまうから。


//-----


「うまく行きすぎている気がする。」

 パチパチと音を立てて燃える暖炉に服を乾かしながら、むなしい夢を見るのを振り払ってこの「現実」を考える。

 季節は夏ではあるが風邪をひくのも馬鹿らしいし、何より気持ち悪い。だが、そんな悠長なことをしていられるのもゴブリン達の反撃が全くと言って良いぐらいにないからだ。


「そっかぁ?ゴブリンなんてそんなもんだろ。まぁそりゃ正面衝突すりゃきついけどよ、普段奇襲ばっかしてるぶん、自分らがされるとは思ってなかったんじゃねえ?」

 ルサ=ルカ隊長からの渡河完了の連絡が終わったマイケルが上半身の装備を脱ぎ散らかしながら答えた。

 それもそうかもしれないが、ここは集落の真横だ。大雨だとは言え、集落が燃えたりしたら厄介だからやってはいないが、酋長であるゴブリンキャプテンがいると思われる建物に直接魔法攻撃をすることができる距離なのだ。いくらなんでもこの抵抗の少なさはおかしいんじゃないだろうか。


 あと、マイケルはくつろぎすぎだと思うが、実はここにいるメンバー全員と昔から仲が良いらしいからそれでもいいのかもしれない。実際、武器と盾、そして連絡用具は手放していないのだから、仕事のほぼ終わった近接職としては問題ない、か。


「わたしがこっそりしゅーちょーさんのいえ、みてきましょうか?」

 ディーが小声で聞いてくる。別にディーの声は周りに聞こえないから小声にする必要はないのだが、俺に合わせてくれているのだろう。


「いや、流石に敵の拠点の中心は危険だ。大丈夫だと思うが相手にお前の見える奴が絶対に居ないとは言い切れない」

 エルフなら見えるという前例がある以上、逃げ場のない敵の拠点に行くのは危険すぎる。慎重すぎるかもしれない。でもディーを失うよりは遥かにましだろう。ゲームと俺との数少ない接点であり、そしてなにより、この世界での最大の”相棒”なのだから。


//-----


 心配しながらも襲撃がない以上出来ることは限られてくる。時間をもてあましていると、壁に立てかけてあった古びたコルクボードのようなものに目がとまった。そこには作戦行動表と思わしきぼろぼろになった紙が貼ってある。


 この砦は百年前、はじめてのオーク軍による襲撃、第一回ウォータ防衛戦の時に建てられた物見の塔。そう、当時はウォータの町から1時間もかからないこの場所で防衛しなければいけないところまでオーク達に追い詰められていたらしい。その時にウォータを助けたのは「水神の加護」と言われる天変地異だったといわれる。もともと水神信仰が厚かったウォータだが、その時に首都の名前でしかなかったウォータと言う名前を国の名前と改め、水神の神官を国家のトップとする神権国家となったという。


 その天変地異がどれほどだったかというと、この大陸の南端付近にあるウォータの近くまで制圧していたオーク軍が、北端の本城まで撤退を余儀なくされるほどだったというのだから相当である。


 オーク軍。これは通称だ。名は大アメリ女帝国。その名の通り女帝の治める武門の国だが、「オーク」自体が治めているわけではない。オークとは獰猛な豚で豚とは思えない速度で走る生き物なのだが、この帝国は、このオークに騎乗する遊牧民族なのである。そのインパクトの強さから人間側からはいつしかオーク軍と呼ぶようになった。騎乗している民族自体は人間、種族名で言うとヒューマンではない。オーガと言われる種族と、彼らに忠誠を誓ったゴブリンの亜種、ホブゴブリン族を中心とする混成国家だ。一説によるとオーガはヒューマンの亜種であるということだが、詳細は分かっていない。


 オーク軍のオーガ達は女性が主力で、男性はほとんど表に出てこない。こういうと筋肉美女達の部隊を想像しそうだが、そこは「あぁ、オークがオークに跨っている。」と納得しそうな見た目なのである。戦士系は筋肉だるまの、魔道師系は脂肪だるまの見た目で、「この女っていう設定だれが得するんだよ。」と言うのが流行った時期もあった。基本的に肌の色は緑か青、体格も身長3メートルを超えるのも珍しくないというのだから、ヒューマンの派生説は信憑性に乏しいと思わざるを得ない。


 もちろん例外も極稀には居る。レアエネミー、通称REと呼ばれる存在で、ストーリー上のキーキャラクターや設定上の重要キャラ達がそれに該当する場合が多い。オーク軍のレアエネミーの中にはある一点を除けば少し筋肉質な美女、といって差し支えのない存在もいたのだが……。


「秘宝を集めるのなら、こいつらと戦わない訳にはいかないんだよな」

 ゲームの情報を思い出す。オーク軍には分かっているだけでも十個の秘宝があった筈だ。


 二つの騎士、一つの聖者、二つの宝貝、五つの輝石。


 オーク軍のレアエネミーの手にそれらがあることは討伐情報と設定上から確認されていた。

 そのうち三つは一人のレアエネミーが所持している。凶悪な強さを誇るそいつといつか戦わなければいけないと思うと、浮かない気分が更に沈んでくる。


「そこの小僧の言うとおりだ。いくらなんでもおかしいぞ。おい、ザズ、いくぞ。マイケルもそれで良いな?」

 ずっと暗い顔をして部屋をうろうろしている俺に見かねたのか、それともたまたまなのか、服が乾き終わっていたロックさんが、横で半分眠りかけていた熟練のレンジャー、ザズさんを小突き起こして立ち上がった。どうも違和感を感じているのは俺だけじゃないようだった。


「はぁもうみんな心配性なんだから。わかりました、わかりましたよ、くれぐれも無茶しないでくださいよ?」

「ふん、マー坊に心配されるようじゃお終いだな。それじゃいってくるわ。おい、さっさとしろ、ザズ。」

「もうマー坊って年齢(とし)じゃない! って行っちまった。はぁ敵わないよな、あの人には。」

 仲が良いな、と思う。マイケルと仲が良いから、というのが大きいのだろうが、この人たちはほとんど初見の俺に対しても特に偏見を持つことなく接してくれている。必要以上にからんでくる人もいるのは、恐らく気を使ってくれているのだろう。


 この作戦は絶対、みんな無事で成功させたい。その思いが強くなればなるほど心の中の不安は大きくなっていくのだった。


//-----


「軍本隊、集落の目の前に到着。突撃準備に入ったようです」

「あぁ、ありがとう。疲れてるところ悪いけど、引き続き周囲の警戒を頼む」

 サヤの報告に、ロックさんが出ていってからはそわそわしてたマイケルがほっと息を吐きながらサヤの頭を撫でる。


「いえ、大丈夫です、隊長。もう他に仕事はないですから」

 一応まだ作戦行動中という自覚はあるのか、サヤの言葉づかいは敬語のままでマイケルはさみしそうだ。

 いつも言葉遣いを注意しているのに、治ったら治ったで不満があるとはなかなか難しいものだな。


 そんな微笑ましい二人のやり取りを見ながらも、やはり俺の緊張が解けない。

 今回の作戦はこれでほぼ完了の筈、なんだが……。


「おいカツミ。心配心配、って何を気にしてるんだ? 攻撃少なくてうれしいんじゃねえの?」

 どうにも分かっていないマイケルが、暗い顔をしているであろう俺を気にかけて、乾いた鎧に袖を通しながら質問してきた。ロックさんのパーティーメンバーは何となく理解しているようだが、支援グループのメンバーも不安そうにしているだけで分かってはいないのかもしれない。


「良いですか? ここにはゴブリンキャプテンがいるということは確認されています。つまり、指揮者がいるということです。仮にもこの規模の集落なので当然ですね。ですが、先ほどからの攻撃は明らかにバラバラだ。ここを放棄するつもりであるならば逆に向こうが牽制と言った攻撃になるはずだし、奪回するつもりなら兵力をこちらに集中させる筈だ」

 自分の考えをまとめながら周りにも聞こえるように話をする。何か重大なことを見落としている、そんな気がしてならないのだ。


「つまり、ゴブリンキャプテンはここには居ない、もしくは指揮することが出来ない状態。」

 歩きながら考えていると、すぐにでも行動できるように準備ができたらしいマイケルが、壁にもたれながら考えてくれる。自分では大丈夫だと思いながらも俺と一緒に考えてくれるようだ。


「指揮できないってーと、なにか手が離せないとか、大けがしちまったとかか」

「大けが、大けが。ってそうだ!?」

 思いだした。そうだ、なんで忘れていたんだ。いや、こんな初期クエスト、正確には覚えていないものか。

 そう、ゲームでは渡河防衛戦終了後、「なぜか突入した時点でゴブリンキャプテンは死んでいましたが、無事制圧できました」とギルドから報告があったんじゃないか。


 先日の偵察では存在が確認されていたんだ。橋を落とすところまでは今も、ゲームの時も統率がとれていた。そこから考えるに可能性として一番高いのは、丁度今頃。


「あ、ロックさんがキャプテンの家らしき所に入っていきます。私も中を見るようにしますね」

 俺の話を聞きながらも続けて周りを遠視の術で見ていたサヤから連絡が入る。まずい、と思って水晶を覗き込んだ所に映っていたものは。


 さっきまでロックさん”だった”物体と、赤い水たまりだけであった。


「いゃああああああぁぁあああああああ。」

 部屋中にサヤの叫びが響き渡る。どうやら、嫌な予感は、最悪の形で当たってしまったようだった。


 水晶に移る、見覚えのある”双頭”の女性。その女性の片方の顔と目が合った所で水晶の映像は途切れた。

 出来るだけマイルドな表現にするように心がけてはいますが、不快であれば申し訳ありません。少々この系統が続きます。

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