ClassGoblin[0]="討伐前夜";
「諸君、ご苦労。この雨の中集まってもらったのは他でもない、明日の討伐作戦についての最終的な計画を連絡するためである」
目の前に立つ女性の指揮官はルサ=ルカ将軍、いや今はまだ千人隊長か。彼女が今回のゴブリン討伐戦の立案者であり責任者だ。彼女は本来最前線で活躍するようなエリートなのだが、対オーク戦線が本格化するまえに休暇を取れということで一時的に後詰め勤務となっているらしい。まぁ休暇中でも討伐作戦を自ら立案しているとおりにワーカホリックなわけだ。今回の作戦は本来首都防衛のための予備戦力である、新兵、及び退役直前の兵で構成された後詰め部隊を、休暇のために軍本隊が多少戻ってきている間に訓練と後方の憂いを断つことの両方を行うのが目的だ。
今回の作戦には当然だが反対意見は多かった。一挙両得とは聞こえが良いもののリスクが高すぎるのだ。それを「いつもの通り」彼女は強引に推し進め、冒険者ギルドまでも動員して今回の実施に漕ぎつけている。
「前回諸君らには作戦内容を大まかに説明しておいたと思うが、寄せられた偵察の結果を吟味したところ大幅に変更することになった」
周りが一気にざわめく。主に不満の色合いを含むものばかりだ。
「静まりたまえ。当然、説明させてもらう。わざわざ各代表に来てもらったのはその為だ」
この反応を予想していたのだろう、落ち着いて場を収め、前方の壁に地図を投影する。プロジェクターのような魔法で、ゲーム内では直接視覚に情報が出てきていたのだがこんな風になっていたんだなと感心した。彼女は軍の中ではその真面目すぎる性格から嫌われていたが、エリートにしては珍しく冒険者を差別しないのだった。今回、冒険者ギルドが比較的素直にこの大動員に応じたのは彼女が責任者だからというところも大きい。もちろん、彼女は言い出したら「いつも通り」どうせ覆らないから、という意味もあるが。
「これはゴブリンどもが住み着く前に作成された地図だが、やつらの拠点の周囲の地形自体は変わっていないことは偵察で確認済みだ。そして、軍の進軍経路、この集落までの唯一の道を通って行くということも変わりはない」
順番に棒でルートをなぞるように説明する。
「そこで、問題となるのはこの川の唯一の橋であるこの部分だ。亜人どもがいくら間抜けだからと言って、みすみすここを我々が通るのを待ってくれると考える者は流石に居ないだろう」
そう言って、ゲームで防衛戦が行われた橋を棒で小突く。
「予想する限り、こちらの行動に気が付き次第橋を落とす、というのが一番可能性が高い。二番目は渡ろうとしたところで落とすことだが、どちらにしても我々は渡河する必要が出てくる。そのため元々伝えていた計画では、周辺の露払いと共に、ここでの渡河中の防衛を依頼していたのだが」
そう言い終ると、地図に×印が3つ付けられる。サヤが見付けた渡河地点だ。どうやら俺たちの情報が歴史を変えたらしい。彼女がこちらを一瞬見た気がするのは気のせいか?
「この三地点は軍は兎も角、諸君らであれば問題なく渡れるポイントだ。上流のポイントは予想通りだが、下流のポイントはゴブリン共の通路になっているようだ。何度か偵察させたところ、その先には我々がかつて建てた砦があり、それを利用してゴブリンどもは集落を作っているようなのだ」
へぇ。あの後、結局俺達はあまり偵察には出ずに、訓練に明け暮れていた。おかげで俺達は予想されるゴブリンの最強種である、キャプテンゴブリンを含む集団でも余裕を持って捌けるぐらいまでにはなれたのだが、別のメンバーに偵察を依頼していたのか。と、言うことはこの作戦変更は今日思い立ったとかではないな。まぁ未来の英雄ルサ=ルカ将軍がそんな粗末なことはしないか。
「砦の機能をそのまま使われてはかなりの苦戦が予想されたのだが、そちらの勇敢なレンジャーが間近まで近寄って確認したところ、我らの祖先が撤退するときに施したであろう封印がそのまま残っているようなのだ。つまり、奴らは砦の外枠は利用していても砦自体を利用しているわけではない」
間近までって、かなりの高レベルレンジャーじゃないか。あの照れくさそうに鼻を掻いているおっさんか。視覚、聴覚、嗅覚、振動の全てを遮断できるスキルが使えるのは、スキル構成にもよるが最低でもレベル40程度、といったところ。今の俺で18だから、レベル差だけがすべてじゃないにしてもかなりの強さだな。それならあのレンジャーのグループだけで時間さえかければ殲滅できるんじゃないだろうか?
「そこで、諸君らには三パーティーでこの砦の制圧を依頼したい。あぁ、諸君らならそのまま集落の制圧もできるだろうが、それはせんでいいぞ。兵も大事だが、諸君らも死んでもらっては困るのだ。危険度はあまり高くないから、という条件で受けて貰っているわけだしな。制圧後はこちらに手出しできないように適当に牽制しておいてくれればそれで良い。残りの1パーティーは当初の計画通りの露払いを頼む。おそらく先ほどの計画がうまくいけば殆ど妨害はないだろうが、可能なら逆方向からも制圧にきているというそぶりを見せてもらえればより安全に渡河できるだろう」
ふむ、なるほど。どうせ橋を落とされるなら防衛ではなく攻勢に移った方がまし、か。烈火の将軍とも異名を取っていたルサ=ルカ将軍らしいと言えばらしいな。
彼女ほどのエリートが直接指揮官になることは、ウォータ軍でもギルドでもかなり驚かれたようだが、俺はゲームでの経験から知っていた。全てのクエストを覚えているわけではないが、「悲劇の英雄ルサ=ルカ将軍」は印象的なため覚えているのだ。そしてこのクエストは彼女との出会いのクエストという位置付けでもある。
彼女はこれからも功績を上げ続けてウォータ軍史上最年少の将軍となるわけだが、最終的には彼女の家の家宝でもある秘宝「十三聖者」の一つ、「ジューダスダガー」に命を捧げ、一時は首都陥落という事態に陥った第十二次ウォータ防衛戦を勝利に導く。本人の名前や武器の名前から「絶対裏切る」とかプレイヤーには罵られ、ストーリー的にも軍内部から裏切りやいじめにあったりもしたのにその結末である。
そういえば、彼女の死後武器の行方は知れないのだが、もしかして使わせてはいけないのか? このイベントが初めてクリアされた後、殆どゲーム内の情報を公開しない公式ページにその性能が張り出されたし。
まぁそれは「次の次の」防衛戦だ、今はゴブリンのことに集中しよう。
「あと、砦制圧部隊は完全に別行動となるため、こちらから士官を一人派遣する。マイケル十人隊長だ。諸君らとも顔なじみのほうがやりやすいであろう。想定外のことが起こったら彼に従ってくれたまえ。また、砦の封印の鍵も彼に操作させるから、その辺りの援護も頼む。ではマイケル十人隊長、後は頼みます」
あれ、マイケルってそんな階級だったっけ? いや、勲章が増えてる。この為に昇進したのか。
「きみがカツミか? ゴブリンどもの抜け道を見付けたのは君だそうだな。お手柄だな、ギルドより追加の報酬を出しておくよう依頼しておいたから後で受け取りたまえ」
そんなことを考えていると、ルサ=ルカが近寄って話しかけてきた。こういう、功労者には身分の上下なく接する所は下からは好まれるが、上からは嫌われるものだ。特に彼女は保守派の重鎮、ウォータ軍元帥の孫だ。直接は何も言えない分、余計にイライラが溜まるのだろう。
「ありがとうござます」
どう返事してよいものか分からないので、無難に直立して礼をする。
「あぁ、良い。君たちは私の部下、と言う訳ではないのだからな。声をかけたのは、どうして川の下流まで確認しようと思ったのかが気になってね。良ければ教えてくれないか?」
困った。俺はこの大雨を知っていたし、「予想以上に防衛がきつくなった」というストーリー展開を知っていたからなのだが、当初は季節がら晴れの上にそこまで攻撃はきつくない予想なのだ。もちろん川は戦術上重要なポイントではあるが、地図から見て明らかに道がなさそうな下流をくまなく確認するほどには重要性はない筈なのだ。現に、俺達が見付けるまでは誰にも発見されなかったぐらい巧妙に隠してあった。
「えと、自分が防衛するのであれば抜け道を用意するだろう、と考えまして」
苦しい、かな。
「おぉ、すばらしいぞ。君はよい指揮官になれる、私が保障するぞ。ふむ、冒険者にしておくのは惜しいな、わが部隊に来ないか? 歓迎するぞ」
とてもにこやかな顔で勧誘される。いや、すみません嘘なんです。なんてもう言えない。
「ああああ、いやいやいやいや。こいつはちょっと集団行動が苦手なんすよ。あ、いやいや、これぐらいのパーティーなら問題ないんすけどね、四六時中集団行動なところだと踊りだしてしまう病気でして、ははは、な、そうだよな? ほら、ね。いいやつなんすけどね、人見知りするっていうか、ほら、あるじゃないですか、そういうやつ!」
俺が答えに窮していると、見かねたマイケルが助けてくれる。うん、こいつは良い奴だ。良い奴だが踊りだすってなんだよ。
「そうか。踊られるのはさすがに厳しいな。寝てしまう奴ならいたのだが…、すまん、忘れてくれ。まぁ気が向いたら訪ねてきてくれ。歓迎するぞ」
そう言って伝承どおりの綺麗な長い金髪をなびかせながら去って行った。っていうか信じるのか貴方は。
「緊張すると寝る奴がいるのか」
「あぁ、居るんだ。優秀な人なんだがな。あぁ、困ってたから断ったけど、良かったんだろ?」
「おう、緊張すると踊ってしまうからな」
「悪かったって。あの人、人材収集マニアだからな。ああでも言わないとしつこいぞ? それに、あそこは 確かにエリートコースだが、あの人に死ぬまで付いていく、ってやつ以外はドロップアウトすることで有名だからな。お前そこまでは尊敬してないだろ?」
良い人だとは思うけどな。とマイケルは付け加える。
「まぁ、な」
ここで彼女についていけば彼女を救うことができるのだろうか。
惹かれる考えではある、が、脳裏に浮かぶハーフエルフの少女のことを思い出し、今は考えないことにした。
No.40 ジューダスダガー
効果:
このダガーに認められた所持者は奇跡を購入できるようになる。
後払い式であるが、必ず取り立てられる。
そしてその代償はこのダガー自体が決めるため、お金とは限らない。
class、クラスとはオブジェクト指向型言語の機能。
ある一定の方向性を持った機能(群)を一つにまとめる(オブジェクト化する)ことができます。
class クラス名
{
//コンストラクタやメイン機能などを実装;
};
詳細はry
追伸(後で消すかも):平日は多くて1話程度となりそうです。
また、返信と修正は土日にまとめてさせていただこうと思っています。
あと何故かでいりー1位になっていますね。びっくりしました。
読んでいただき、ありがとうございます。