第十四章:勇者の真実
今回は勇者との決着編です。
勇者は女神様に見捨てられてしまうのか……
それとも……
前回フルボッコにされた勇者は、
情けなく命乞いをしたのであった。
「それでお主はなぜあのような野蛮なことを?」
ガランドは地面に這いつくばっていた勇者へ冷ややかに告げる。
「それはな!」
「前世での鬱憤が溜まってたからだよ」
勇者はわけのわからないことを叫び散らす。
「女神様に最強のチート能力を貰って、」
「僕は転生して勇者になったんだ!」
「異世界物のグルメ漫画で、」
「読んだんだよ!」
「ドラゴンの卵の目玉焼きが、」
「美味しそうだったからさ!」
勇者は過去を懐かしむ。
「試してみたかったんだ!」
「最高に美味しかった!」
恍惚とした表情で勇者は話し続けていく。
「あのグルメ漫画は正しかったんだよ!」
テンションが上がりすぎて、
完全におかしくなっている。
「とんだ狂言を……」
「こやつ正気ではないぞ」
「シアン確かめてみてくれ」
ガランドはドン引きしながら、
確認するように言う。
「……わかりました」
シアンは嫌そうな顔で、
脳内の記憶を覗き見る。
「やめろ!洗脳する気だろ!」
勇者は必死に両手を振り回して、
振り払おうとするが……
搦め手には弱いのだ。
「ふむ……」
「嘘はついていませんね」
シアンは淡々と事実を告げる。
「誠か!?」
ガランドはさすがに動揺する。
「ええ、女神様とやらの話も本当です」
(まさか他の世界から人間が転生してくるとは……)
(他にもいそうですね……)
シアンは暗い表情を浮かべる。
「七十年以上生きてきたが……」
「こやつ以上に狂った奴を、」
「見たことがないわ」
「ゆえにお主は何を成し遂げた?」
「その偉大なチート力を授かって……」
ガランドは一応聞いてみることにした。
「僕の能力はこのセカイで一番だ」
「誰よりも凌駕している!」
勇者は急に立ち上がり、
意気揚々と話し始めた……
「女神様から授かった偉大な使命だってあるぞ!」
「僕は最終的にこのセカイの神になるんだ!」
「人々は僕を崇拝してる!」
「信じない者たちはいない!」
「僕は史上最高の勇者だ!!!」
狂気をにじませた顔で高らかに宣言する。
「こやつ完全に正気を失っておるな」
「シアンどう思う?」
ガランドはドン引きしつつ、
愛弟子の反応を伺う。
「正直言って信じられませんが……」
「私は記憶を見たので……」
「女神様を実際に呼べるのですか?」
軽蔑した表情でシアンは話しかける。
「ああ、呼べると思う……」
「いや必ず来てくれる!」
勇者は少しだけ自信がなかったのか……
妙な反応であった……
「では呼んでください……」
シアンもドン引きし始める。
「偉大なる女神様!」
「こやつらを罰してください!」
勇者は天に向かって大声で話しかける。
「どうしたの?」
「可愛い坊や」
金髪の美しい女神が降臨する。
女神の周囲は光り輝いている。
「ああ……女神様……」
「ずっと会いたかった~!」
勇者は女神にすがりつく。
「お願いです!」
「僕にもっと強い力を!」
「他を凌駕して誰にも、」
「止められないほどの力を!」
勇者は情けなくも叫び続ける。
「坊や」
「約束は守れたの?」
女神は笑顔で勇者を見つめる。
「まだです……」
思い出したかのような顔をする。
「約束したでしょう?」
「人々に崇拝されて、」
「人助けをするって……」
「あなたは頑張っていたけど……」
「まだ足りてないわ」
「もっと頑張らないと……」
女神は深いため息をつく。
「そんな!」
「女神様!」
「僕を元のセカイに戻してよ!」
情けなく涙を流しながら、
すがり続ける勇者。
「それはできないのよ……」
「あなたは元のセカイでは……」
「トラックにはねられて、」
「死んだんだから……」
申し訳なさそうな顔で伝える。
「そこに二度目の命を私が与えたの」
まさに衝撃の展開だ……
「女神様……」
「僕はいつまで頑張ればいいんだ?」
もはや必死である。
「坊や……」
「残念ながら寿命が尽きるまでよ……」
女神は残酷に宣言する。
「嘘だ!」
「転生する時はそんなこと言って無かっただろ!」
勇者は絶望した顔で叫び散らす。
「神々で方針が変わったの」
「善行を積めば天国にこれるわ」
「そしたら私たちは一緒になれるの」
「あと飛ばされてきた狂戦士ちゃんは、」
「逃げないように、」
「私のペットになったわ……」
「皆で幸せに暮らしましょう?」
女神は悪びれもなく話し続けるが……
「そんな!」
「じゃあ僕を騙したの?」
「なんで!」
勇者は情けない姿を、
さらしても気にしていない。
「それは……」
「あなたに期待してたのよ」
女神はあざとく目を伏せた。
「僕は最終的に女神様と……」
「いちゃラブしたかったんだ」
「故郷の幼なじみや王女様」
「仲間のヒーラーすら捨てたんだぞ!」
勇者は泣きわめき、
狂言を垂れ流し続ける。
「気持ちの悪い奴らじゃな……」
「おい、シアン!」
「この女神も目障りじゃ」
「天国に送ってやれ!」
ガランドはぶち切れる。
「無駄です」
「神々に干渉できるわけがありませ……」
女神は余裕げに告げるが……
「フンーーー!」
シアンは6属性の力を全て解放し、
全力で女神を殴り飛ばす。
女神は天国まで飛ばされていった……
「シアンよくやった!」
「スッキリしましたね」
ハイタッチするほど、大喜びする二人。
「おじいちゃん!シアン!」
「無事だったの?」
「何か今、羽が生えたおばさんが飛んでいったけど?」
アリシアとドラゴン形態になったアスタロテが現場に駆けつける。
ベアトリスの感知能力に頼ったのだ。
「ああ、あの人は悪魔でした」
「なので全力で殴り飛ばして、」
「地獄まで送ってあげたのです」
「帰れなくて困っていたので……」
シアンはわざと悲しそうな顔をする。
「そうだったのね!」
「二人が無事で良かったわ」
「実はアスタロテも来てるの……」
アリシアは笑顔で恐ろしいことを言う。
「え?」
勇者は震え始める。
「愛しの女神様もいないのに……」
「僕には勝てない……」
「先ほどぶりじゃのう」
「勇者どの」
アスタロテはドラゴン形態だと、
百二十メートルはある。
ちなみに右手の手のひらの上には、
アリシアが立っている。
「余の大切な卵を目玉焼きにしてくれたな!」
「どう落とし前をつけるつもりじゃ?」
顔を勇者に近づけて威嚇する。
一メートルくらいの距離しかない。
「そ、それ……」
もはや恐怖のあまり上手く言葉が出てこない。
「なんださっきまでの聖剣を振り回して、」
「調子にのっていた勢いはどこにいった?」
アスタロテは左腕で、
近くにあった岩を握り潰す。
「お主、急に話せなくなったのか?」
「罪なき卵を破壊して!」
「あまつさえ許して貰えると思うたか?」
わざと空中に一発火球を放つ。
勇者は情けなく泣き始めた……
「アリシア!」
「こいつを食らってもいいか?」
牙をぎらつかせて、
勇者を丸のみにしようとする。
「ダメよ!」
「絶対に美味しくないわ」
「聖剣が喉に刺さるかもしれないし!」
アリシアは慌てて止める。
「ふむ……」
「お主がそこまで言うのなら……」
納得した様子のアスタロテ……
鼻息で勇者を転倒させる。
「じゃあ能力を奪うのはどうかしら?」
「その力があるから勇者様は苦しむのよ……」
「農夫にでもなれば幸せになれるわ!」
アリシアは急に閃いた。
「それは名案じゃな!」
アスタロテは左腕で地面を削りながら、
大喜びしている。
「聖剣を持てなくなるじゃないか!」
「嫌だー!」
「僕は能力がなくなったら、」
「どうやって生きればいいんだ!」
「女神様ー!!!!!」
「助けて!」
大号泣しながら助けを求める。
「本当にごめんなさい」
「坊や」
「再生に時間がかかってるの」
「あと百年位待てる?」
天国から女神の声が聞こえてくる。
「そんなの無理に決まってる!」
「見捨てないで!」
「それでは失礼します……」
シアンは汚い物をみるような顔で、
勇者の額に手を当てる。
「いや……」
「あ……」
勇者はシアンに能力を、
吸収されて気絶する。
「死んだの!?」
アリシアは驚いてしまう。
「生きてます」
「疲れ果てて寝てるだけです」
シアンはアリシアを安心させる。
「良かった」
「これから農夫になって、」
「幸せなスローライフを送ってね!」
気絶している勇者に優しくささやく。
「聖剣はわしが持って行くぞ」
「孫へのプレゼントじゃ!」
「使いやすく打ち直してやるわい」
ガランドはかつて無いほど、
テンションが高くなっている。
「本当!?」
「ついに私も護身用の剣を貰えるのね!」
「嬉しいわ」
アリシアもアスタロテの手のひらで踊っている。
「帰りましょうか……」
「バカたちと争って疲れました」
「気持ち悪い記憶も見てしまいましたし……」
シアンはため息をついて、
勇者を見つめる。
「ねえ、アスタロテ」
「あなたも屋敷に来ない?」
アリシアは当然のように誘う。
「よいのか?」
アスタロテは少しだけ遠慮する。
「全然問題ないわ」
「むしろ大歓迎よ」
「裏山に住む?」
屋敷の裏山にはさすがに住めないと思うが……
「余も落ち着ける場所が欲しいからの」
「子育てするにも良いだろう」
「では飛んで帰るとするか!」
「ありがとう!」
「一緒に帰りましょう!」
二人はお互いを見つめながら、
笑顔で話している。
「さあ!」
「どこまでも高く飛んでやるぞ!」
アスタロテは翼を広げて飛ぶ準備をする。
「わあー!すごい!」
「あ、シアン!」
「ベアとヒーラーさん、卵を回収してくれる?」
アリシアはシアンにお願いする。
「かしこまりました」
シアンは当たり前のように笑顔で了承した。
「シアンあとでね!」
最愛の主はドラゴンに乗って、
飛び去っていった。
夕焼けに消えていく。
「良いのか?」
「シアン」
「ドラゴンに取られておるぞ……」
ガランドはツッコミを入れるが……
「かまいません……」
「アリシア様が幸せなら……」
少しだけ寂しそうな顔をする。
「……ゲホッ、ゴホッ」
意識を取り戻した勇者。
「女神様は!?」
「僕のパワーは!?」
勇者は立ち上がって、
パワーを使おうとするが……
「あ……」
必殺技を放てず放心する。
「何も出せない……」
完全に無力になっている。
ただの何もない人間になった。
「どうした?」
「圧倒的な無力感に苛まれておるのか?」
「哀れじゃな……」
「この辺境でスローライフを楽しむがよい」
ガランドは勇者に冷たく言い放った。
「僕には何も残ってない……」
「もう空っぽなんだ……」
「うああああああ……」
勇者の叫びは地平線の彼方まで聞こえそうだ。
「くだらん」
「シアン帰るぞ」
ガランドは呆れ果てて、
もうこの狂人を見たくなかったのだ。
「はい」
「転移魔法を使って先に、」
「戻りましょう」
「あ、その前に……」
「勇者様」
「どうか圧倒的なパワーを、」
「楽しんでくださいね」
シアンは笑顔だが、
目が笑っていない。
「あと念のためにシールドを張っておきますね」
「大好きな女神様すら、」
「もう入れないです」
「安心して生活できますよ」
シアンは珍しく笑顔で告げる。
「うああああ!」
勇者は無力感にさいなまれながら、
殴りかかるが……
転移魔法で簡単に逃げられる。
そのまま地面に倒れこみ、
泥だらけになってもがき苦しむ……
「もう二度と転生なんかしないぞ……」
「僕は勇者だ……」
「なんでも出来るはずだったんだ……」
「欲しい物だって何でも手に入った……」
愚かな勇者の惨めなうめき声が、
誰もいない辺境の地にこだまする。
彼の新しい人生はここから始まる。
勇者はどこまでも惨めな男でした……
彼のこの先の人生に幸があらんことを……
次回はアリシアとアスタロテの帰り道での出来事です!
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