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短編(ざまぁとかコメディとかテンプレ外しとか)

ツンデレ王子の婚約事情※ただしデレはないものとする

作者: 渕澤もふこ
掲載日:2026/02/23

カテゴリ分けが難しい


 デーレンツ王宮の奥、私的で重要な客人にしか使用されない応接室。

 そこでは、宰相と、第一王子の婚約者とその両親が集まり、第一王子であるエリオットと婚約者である財務大臣の娘アメリアの婚約の今後の方針が話し合われていた。

 

「やはり、エリオット様は発症されていたのですね」

「お前には関係ないだろう」

『頑張って直すから、嫌いにならないで欲しいワン』

「あの、エリオット様」

「黙れ」

『婚約解消は嫌だニャン』

「先程から背後にいらっしゃる方々は、その……」

「お前には関係ない」

『こいつらのことは気にしないでほしいワン。私のことだけ考えてほしいワン』

『ただの背景だニャー』


 アメリアの目の前では、王と王妃が長椅子で仲睦まじい様子で座っている。

 別の椅子にエリオットが座っているが、その背後には王宮にそぐわない存在感溢れる者たちが控えていた。体長1.8メートルほどの、着ぐるみの犬と猫である。犬はエリオット王子の背後で腕組みをしつつ佇んでおり、猫は『ただいま翻訳中』というプラカードを掲げている。

 

「はい、王子が『ツンデレ』を発症いたしましたので、今後の対策についてお話しいたします。間もなくお二人とも学園に入学されるので、その際に困らないようにと護衛兼通訳をつけることにしました」


 この国の王族には、遺伝性の厄介な病がある。

 思春期になると『ツンデレ』を発症してしまうというものだ。

 好きな相手には素直になれない。

 好き避けをしてしまう。

 思ったことと正反対の態度をとってしまう。

 つい相手を貶すようなことを言ってしまう。

 好きな相手に対して素直になれないという恐ろしい病気である。ちなみに好きな相手に関係しなければ、正常な対応ができる厄介な病として周知されている。


「エリオットってば、昔のあなたにそっくり。見ているとイライラしてしまうわ」

「私はあんなにつっけんどんではなかったはずだが」

「嫌みな感じがそっくりよ」

「君は本当に変わらないな。なんでもはっきり言うのは良くない」

「あら、そんなわたくしが好きなくせに。わたくしもあなたの素直じゃないところも好きよ」

「……人前だぞ」

「いいじゃない、学生時代からの仲でしょ」


「あの二人は相変わらずねぇ、あてられてしまうわ」

「アメリア、いいか?あれが『デレ』というやつだ」

「見ていると胸やけがしてくるので、あまり直視されないほうがよろしいかと」


 イチャイチャを隠そうともしない王と王妃、無表情のエリオットを見ながら、アメリアは両親の解説と宰相の説明に耳を傾ける。

 父(現在の王)は、ツンデレのデレが少なめというよりツンギレ。

 母(現在の王妃)は、天然物の典型的なツンデレ令嬢。

 二人の婚約者時代は喧嘩が日常となっていて、伝説のケンカップルとして国民に知られている。

 そんな両親をもつエリオット王子は生粋のツンデレであり、ツンデレの血統書つきサラブレッドとして国民から心配されていた。

 発病したら、婚約破棄されてしまうのではないか。

 案の定、ツンデレを発症したエリオットのツンデレは、デレがなかった。ツンツンだった。

 発症してから、自分の言動に毎回後悔して、夜にベッドの上で何であんなことをと枕を濡らしていた。泣きたいのはそんな態度を取られる婚約者の方である。


 宰相はアメリアの前に一冊の本を置く。『愛するアメリアへの愛の詞集  著者 エリオット・デーレンツ』と金色の文字でタイトルが綴られ、白い革張りで分厚く、高級感あふれる装丁に仕上げられていた。


「エリオット王子からのアメリア様へ、ツンデレ翻訳書です。直筆です」

「まあ、素晴らしい装丁ですわね。ツンデレ翻訳書はすでに各家庭に一冊ずつ配布されておりますが、わざわざ作られたのですか?」

「不勉強なお前にわざわざ作ってやったんだ。不様な姿を見せるなよ」

『自分の気持ちを誤解されたくないから、頑張って書いたよ。不用意な言葉で傷つけたくないワン』

「ちょっと、王子は黙っていてください」

「悪い」

「このように、『好きな子』に対してだけ素直になれないんです」

「私はこの女のことなど何とも思っていないが」

『好きな子とか本人の前で言わないでほしいニャン』

「『好きな子』に関係する言動にツンデレが発揮されます」


 エリオットがアメリアを見る目は冷たい。典型的なツンデレならば、好きな子に冷たい態度をした後に照れや挙動不審、自己嫌悪などがあるようだが、エリオットはまったく感じていないように見える。


「王子は、どうやら『ツンツン』タイプのようで、『デレ』が非常に少ないタイプのツンデレと診断されました」

「難易度が高いタイプでしたのね」

「当然だ。お前ごときに、私が簡単に屈すると思うなよ」

『面倒なタイプで申し訳ないワン』

「このような状態を危惧し、アメリア様に負担の掛からないよう、通訳を用意することにいたしました」

「まあ、わたくし一人のために至れり尽くせりですのね。……わたくしが嫌ならばこの婚約は解消してもよいと伺っておりますが、エリオット様は婚約の継続をお求めになっていると解釈してよろしいでしょうか?」


 アメリアは、隣に座る眉間に皺の寄った父の横顔を見てから、エリオットに視線を定めた。

 ツンデレを発症する前は、アメリアと視線が合う度に微笑んで応えてくれていた。しかし、今の彼は無表情でアメリアを見ているだけである。


「お前に拒否権などない」

『なんでもするから結婚してほしいワン』

「そうですか、わかりました。婚約を解消いたしましょう!」

「後悔するぞ」

『待ってほしいニャン!』

「アメリア様、理由をお聞かせ願えますか?」

「今のエリオット様が嫌いだから、としか」

「お前に嫌われて清々する」

『嘘だろう、嘘だって言ってほしいワン』

「王子は黙っていてください」

「……」

『しくしく泣いちゃうニャン』


 デレのないツンデレなど、ただの態度の悪い嫌なやつでしかない。

 エリオットが素直になれないならば、誰かが彼の気持ちを代弁しなければならない。

 しかし、その誰か問題である。エリオットの気持ちを正確に代弁したときに、代弁者にアメリアが好意を持ってしまっては本末転倒である。


 ツンデレの気持ちはツンデレに聞くのが一番であることから、近親者が通訳をしようと、まず王が名乗り出た。

 その瞬間に、王妃が「私よりあの子の方がいいのね!?浮気者!朴念仁!」と嫉妬を爆発させ、大規模な夫婦喧嘩に発展しそうになり、その苦肉の策として、着ぐるみ隊が採用された。

 着ぐるみならば、顔も見えない上に王子のツンデレ翻訳書のカンニングもできる。さらに追加手当ても出る予定だそうだ。


 ちなみに、王と王妃の婚約者時代、ツンデレの弊害によって二人の仲が拗れそうになった。他国からの留学生や王族の病を知らない者たちが誤解をし、二人を引き離そうとしたのである。

 他者がいる場では素直になれない二人だが、両片思い状態なだけであり、事情を知る周囲は非常にやきもきしていた。

 その結果、先代国王が緊急事態宣言を発令し、二人を王宮の一室に閉じ込めたのである。

 その部屋を『素直になるまで開かない部屋』と称してして一週間ほど監禁した結果、二人ともツンデレを克服しラブラブになった。

 なお、食事は決められた時間に別室に準備され、その度に二部屋を交互に使用(その間に清掃)していたので、監禁というよりも隔離である。

 そのような経緯もあり、でき得る限りのツンデレ対策をしておこうということになったのだった。


「状況は理解いたしました。しかし、既に全家庭にツンデレ翻訳書がありますのよ?さらに、わたくしへのツンデレ対策として、国家予算のうちのどのくらいを使われる予定ですか?民の血税を、たかがツンデレ対策に?

エリオット様、愛はお金では買えません。しかし、お金がなければ愛など無価値なのです。愛でお腹は膨れませんわ」


 アメリアはエリオットを見つめ、穏やかに告げた。しかし、その内容は全く穏やかではない。


「エリオット様が、わたくしを愛してくださっているのはわかりました。しかし、わたくしにはエリオット様が他力本願で、ツンデレを克服する努力を放棄しているようにしか見えないのです。わたくしへの愛が足りないとしか思えないのです」

『(激しく同意ワン)』

『(それなニャー)』

「お前たち、黙っていろ」

『(ワン)』『(ニャン)』

「そもそも、婚約者としての権利を保証してさえいただければ、義務は果たしますのに」

「義務、だと」

「ええ。王家との縁談に、愛だの恋だのを持ち込むことは、非合理的ではありませんか。両陛下をご覧ください、お二人の痴話喧嘩でどれほど国が混乱したかご存知ですよね」

「やだ、痴話喧嘩だなんて。恥ずかしいわ」

「私のことで怒っている王妃が可愛くて仕方がないからだ」


 肩を竦めるアメリアの両親とは対照的に、王と王妃はイチャイチャし始める。二人をよく知る者たちは、基本的には放置の姿勢をとっている。下手に口を挟んでイチャイチャを邪魔すると、余計面倒なことになるのがわかっているからだ。


「二人の将来に関わることですのに、わたくしに相談もなくお金を使われて。もっと有意義な使い方がありますわ。わたくしに嫌われたくないからと仰いましたが、今のエリオット様ではどんな言葉もわたくしに響きませんの」

「お前はいつもそうやって可愛げのないことを言って、私を試すんだな」

「試すだなんて、本心ですわ。綺麗なだけの言葉よりも、実行力を評価するに決まっているではありませんか」


 アメリアの言葉にダメージを受けているのか、心なしかエリオットの顔色が悪い。


「わたくし、サプライズを計画される方と、金遣いが荒い方って嫌いですの」

「可愛げのない女だ」

「わたくしが傷つくかもしれないとお思いならば、その言葉を口にしない努力をしていただきたかったわ。病ならば発言が許されると思っている甘えが嫌なのです」


『(はっきり言ったワン)』

『(これも翻訳したほうがいいニャン?王子泣いてるニャン)』


「これ以上時間とお金を無駄にしないためにも、ツンデレを克服されるまで、わたくしとエリオット様の婚約を一旦解消しましょう」

「お前のような冷たい女が婚約者だったなんて、汚点でしかない」

『そ』

「では解消ですな。宰相、その書類をこちらへ」

「お父様ったら、せっかちですわよ」

「手続きが終わったら、寄り道して帰りましょうね」


 それまで黙って隣に座っていたアメリアの父は、さっさと書類を受け取りサインを記す。アメリアも同様にサインをして、席を立った。


「では、エリオット様、学園では節度を持って、他人として接するので、ツンデレを克服するまで、話し掛けないでくださいね」

「待て!そんなこと許されるはずがないだろう!」

「アメリア、エレノアと先に帰っていなさい」

「そうね、女心が分からない駄目男は放置して行きましょうね。アメリアのことを全く理解していないんだもの」

「アメリア、待て」


 追い縋ろうとするエリオットをアメリアの父が阻み、愛娘から遠ざける。


「わたくしを愛してくださっているなら、エリオット様の口からその言葉を聞きたいんです。あと、ツンデレ対策に使った税金を補填するまでは顔も見たくありません」

『(通訳すべきかニャー)』

『(ツンデレ克服して税金補填したら会ってあげるワン?)』

『(そのままだニャン)』

『(アメリア様もツンの人だったワン)』

「ツンデレを克服されたらまたお会いしましょう。学園の卒業式までに克服できたら、再婚約の検討をいたしますわ。まあ、あくまでも『検討』ですが」

「待ってくれ!」

「お父様、あとはよろしくお願いいたします」


 颯爽と立ち去るアメリアとは対照的に、絶望を顔に張り付けたまま立ち尽くすエリオット。その肩に手を置き、財務大臣はにこやかに問いかける。


「さて、エリオット様、今回のツンデレ対策費ですが、どこから費用を捻出されたのか教えていただけますかな」


 愛する娘への暴言と、国家予算の無駄遣いという許されざる罪を重ねた第一王子をどう教育すべきか。

 腕がなるな、と財政大臣は表情を変えずに笑った。宰相とは同士であり、陛下は学生時代からの友人である。

 財政大臣と宰相も、薄く王家の血を引いている。そもそも、この国の上位貴族は王家との婚姻が多く行われているため、強弱はあるにせよ潜在的なツンデレ要素を持っている。


「対策としては面白かったが、コスト面で実用には不向きだったな。なあ、宰相閣下」

「そうだな、可愛げのある生き物に気持ちを代弁させるのは、馬鹿馬鹿しいようだが場は和むな。財務大臣殿」

「二人とも、エリオットはまだ未熟なんだ。壊れない程度にしごいてやってくれ」


 デレが少ないタイプのツンデレは、愛する我が子を千尋の谷へと突き落とす。

 ここから国王の許可のもと、王子発案・財務大臣の監修による、デーレンツ王国財政改善施策兼ツンデレ緩和政策実行委員会が開かれることになった。

 周囲からはアメリアのような冷たい女を婚約者にしなくてもと言われたが、その冷たさに惹かれているエリオットは諦めなかった。


「アメリアと結婚できないなら死んでやる!!」

「死んだら娘とは結婚できませんが、分かって言ってますか?」

「だったらいっそアメリアに殺されたい」

「そんな無駄なことは娘はやりませんし、私がさせません。いいから練習してください」

「『アメリアにゴミを見るような目で見つめられたいワン』『アメリアに毎日罵ってもらいたいニャン』」

「はい、やりなおし」

「『アメリアに蔑まれたいワン』『その冷たい眼差しが最高だニャン』」

「うちの娘に変な感情を向けないでください」


 アメリアに冷たくされるのは、期待の裏返し。優しく微笑んでくれるのも好きだが、期待外れだと蔑まれるのも心が踊る。

 今回、婚約の解消を提示されてしまいツンの改善を試みた結果、エリオットにヤンデレ属性なのかなんなのかよく分からない属性が生まれたが、どちらにせよアメリア強火担には変わりがない。

 エリオットは、愛するアメリアとの再婚約のため、自分の心に正直になる訓練を重ねるのだった。

 

 そうして、両手に犬と猫のぬいぐるみを持ったエリオット王子が、腹話術でアメリアに愛を囁く姿が学園の名物となった頃。

 エリオット王子の持つ腹話術人形を模した『エリオットワンとアメリアニャンの腹話術セット』は、デーレンツ王国で爆発的な売り上げを記録した。

 この商品のヒットにより、経済が回り、雇用が生まれ、国の財政は豊かになり、エリオット王子の教育のために疲弊した財務大臣には笑顔が戻ったのだった。

 なお、アメリアは勝手に自分の名前を付けられたことに多少の不満を示していたが、『愛の証(ネーミングライツ)』として売り上げから10パーセントを得ることになったので、納得した上で卒業式の直前で再婚約に応じた。

 その後『着せ替え卒業パーティーセット』『着せ替えロイヤルウエディングセット』『着せ替え戴冠式セット』などをプロデュースし、国の経済を支えた王妃として歴史に名を刻むことになった。

 ちなみに、エリオットの分の売り上げは、ツンデレ対策の補填として国庫に徴収されている。

ツンデレがゲシュタルト崩壊して、ヤンデレになったんですが……どうして

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