アギタ大公国
大戦において中央ファンタジア帝国は常に連戦連勝を果たしていた。海上ではハークレー連合とオラウソラス諸島連合帝国による攻撃のせいで壊滅状態に陥っていたが陸上では負けなしであった。大陸で二大大国として知られており、その名にふさわしい実力を兼ね備えていたはずのガネリア共和国とアスカル法王国の軍勢すら帝国軍の前に敗れ去っている。
だが、そんな反帝国陣営の中で唯一と言って良い程善戦した国家がある。それがアギタ大公国であり、この国は次々と敗走する連合軍の中でまともな戦いを繰り広げる事が出来ていた。とはいえ大公国軍はそこまで強いわけではない。友好国たるガネリア共和国軍との戦いでは常に敗北していた。装備の質が良いわけでもなく、むしろ遅れている方であった。
それでも帝国軍相手に戦えていたのはアギタ人の特徴故だった。アギタ人は諦めが悪くそれでいて図太い性格をしている者が多いとされている。実際、戦場ではそれが如実に表れており、大公国軍は最後の最後まで抵抗を続けて帝国軍に少なくない出血を敷いていた。大戦中に戦いで発生した死者と負傷者の三割程はアギタ大公国との戦いで発生したものと言われており、彼らがどれほど粘り強かったがうかがえる。
しかし、それだけの奮戦を見せたアギタ大公国だが当然ながら代償も大きかった。最後の最後まで戦うという事は逃げ時を見失っているという事であり、アギタ大公国軍は戦闘の度に膨大な犠牲者を出していた。帝国軍がアギタ大公国の領土に迫る頃には展開していた軍勢のうち7割もの兵が失われていた。
そんな状況でもアギタ大公国は徹底抗戦を続け、隣国のガネリア共和国がぼこぼこにされている中で帝国軍に多大な犠牲を支払わせていた。
「アギタ大公国領を進む時には一歩進むごとに命があることに感謝した」
従軍した兵士の多くがそう話す程アギタ大公国軍は徹底抗戦を続けたのだ。もし、彼らの奮戦がなかった場合、大戦は年単位で早く終結し、中央ファンタジア帝国の領土は更に広大なものとなっていたと言われる程であった。
しかし、そんなアギタ大公国も終わりの時は訪れる。首都のレブストの陥落、国土の半分が占領され、主要な産業は壊滅。軍勢も全滅し、残っているのは民兵のみという状況にまで追い込まれ、アギタ大公国は降伏を宣言した。大戦終結の2月前の事だった。
アギタ大公国の降伏を皮切りに反帝国陣営は次々と降伏を申し出る国が続出し、最終的にガネリア共和国とアスカル法王国が講和を申し出たことで大戦は終結することとなった。
戦後、中央ファンタジア帝国は反帝国陣営の国々を併合乃至莫大な賠償金を支払わせることとなった。それはアギタ大公国も例外ではなく、国家予算の10年分にも及ぶ莫大な賠償金が課せられたのである。しかし、アギタ大公国に対してはそれだけではなかった。
中央ファンタジア帝国はアギタ大公国に対して”マミリア条約”を結ばせたのである。調停を司る女神マミリアの名を冠するこの条約は名前に反した内容だった。
1つ、アギタ大公国は武装組織の保有を永久的に放棄する。
1つ、アギタ大公国は国防、治安維持に関する一切を中央ファンタジア帝国に一任する。
1つ、アギタ大公国は中央ファンタジア帝国による国防・治安維持に関して一切の介入をしない。
1つ、中央ファンタジア帝国に属する正規兵はアギタ大公国内のあらゆる道の優先的通行権を有するものとする。
はっきり言ってしまえば軍事の全てを帝国に委ね、依存するという内容であった。当然、アギタ大公国は当初はこれを拒否したが反対する人間の一部が駐留する帝国軍により殺された事で不承不承ながら飲むこととなった。明らかに反対するのなら反対する者達を殺していくと言っていたのだから。
以後、中央ファンタジア帝国は治安維持の名目でアギタ大公国に数万の兵を配備した。そのうち半数以上がガネリア共和国との国境に配置され、国防・治安維持の名目に国境に近づくガネリア共和国の民を次々と殺していった。
各地に帝国の駐留基地が設けられ、基地の安全強化の名目で周辺からは人が追い出され、許可なく近づいたものに対して射殺を行った。
更にアギタ大公国が保有する全ての兵器が取り上げられる事となったがその裁量は現地兵に一任された事で中には農具を兵器と断定して取り上げる部隊も出てきたが現地の司令官はこれを容認した。現場に一任する以上この程度は想定していたからだ。
取り上げられた武器は本国に送られて解体されて帝国製の武器の材料となった。これらの行動は現在に至るまで続けられており、アギタ大公国の反乱を難しくさせる一因となっている。ガネリア共和国やアスカル法王国のように衰退しているわけではない。経済は帝国とつながった事で大きく発展しており、国民の生活は豊かになってきている。しかし、そんな彼らを見張るように帝国軍は小さな村に至るまで見回り、時には横暴な態度で接している。
反乱軍の捜査と言って民家に侵入しては武器になりそうな物を根こそぎ奪っていく彼らはアギタ人から悪魔の如く嫌われていた。その怨嗟は武器さえあればすぐにでも反乱がおきてもおかしくはない程であった。
アギタ大公国が帝国に気づかれないように武器を蓄えて反乱を起こすのか、それとも帝国軍の横暴さに目をつぶり豊かな生活を送るのかは誰にも分からない。しかし、言えることは何も行動をしなければ彼らは一生このままであろうという事だけだった。




