ガネリア共和国
一昔前、それこそ魔導革命以前において起業が国に匹敵する権力と領土、人口を保有するなど誰も信じられなかった。今でさえ夢か何かかとさえ思える程常識外れのそこはまさに大戦によって生み出された闇そのものと言えるだろう。
中央ファンタジア帝国の国営企業。それがこのパリテーニ社の前身である。民間企業として運営が開始されてからは地方の中小企業でしかなかったがそれは大戦によって変化することとなった。
反中央ファンタジア帝国陣営対親中央ファンタジア帝国陣営による大戦の結果、中央ファンタジア帝国が勝利をもぎ取り、超大国として君臨した。反帝国陣営の盟主たるガネリア共和国は国家として二度と立ち上がることが出来ない程の損害と賠償金を払う事になったのである。その額は大戦前の好景気に沸くガネリア共和国の全土及び民の財産全てを差し出しても足りない程だった。それもそのはずであり、帝国は反帝国陣営についた国の中で滅亡した国の分もガネリア共和国に支払わせたのだから。10近い国家の賠償金はとてもではないが国土の半分を失い、ガタガタとなってしまっているガネリア共和国には払えなかったのだ。そこで話を持ち掛けたのが帝国の意向を受けて借金の肩代わりを申し込んできたパリテーニ社だった。
パリテーニ社は天文学的数字の賠償金全てを肩代わりにする代わりに様々な条件をガネリア共和国に突き付けたのである。明らかに帝国が絡んでいる事は分かっていたがガネリア共和国にはどうする事も出来ず、その条約を締結することになった。その内容は以下の通りである。
1つ、ガネリア共和国は主要な港及び隣接する地域、ガラブ海のラスカ島及びラッチモント島をパリテーニ社に譲渡する事。
1つ、ガネリア共和国は自国が持つガラブ海の領海をパリテーニ社に譲渡する事。
1つ、パリテーニ社が保有する土地への介入を禁止する事。
1つ、パリテーニ社の全ての商品に関税を設けない事。
1つ、パリテーニ社が保有する土地で発生した事件はパリテーニ社側の企業法を基に解決する事。それによる判決をガネリア共和国は無条件で受け入れる事。
1つ、ガネリア共和国政府関係者はパリテーニ社の許可なく保有する土地及び商館への立ち入りを禁止する事。
1つ、ガネリア共和国はパリテーニ社が保有する護衛部隊の活動を妨害してはならず、協力要請があった場合には可能な限り応じる事。
以上を持ってガネリア共和国が抱える賠償金は全てパリテーニ社が支払うものとする。
……普通の国であれば絶対に呑まないような条件であるがこれを締結しないといけない程にガネリア共和国は追い込まれていたのだ。
条約締結後パリテーニ社は即座に動いた。足りない社員は帝国が用意した政府関係者で補完され、ガネリア共和国は海洋貿易路を完全に喪失した。パリテーニ社は帝国が接収したガネリア共和国の艦艇を用いて武装を強化し、ガネリア共和国内の土地を買いあさり始めた。大戦終結後にありえない程貧しくなった土地を持っている者達は喜んで買収を受け入れて要ったがその結果、誕生したのはパリテーニ社による広大な麻薬や大麻の農園だった。
ガネリア共和国ではこれらの薬物は違法であり、発見され次第厳しい処罰が下されていたが条約を結んだ今パリテーニ社に手を出すことは出来なかった。秘密裏に妨害をしようものならパリテーニ社が用意した私兵部隊、という名の帝国軍によって射殺されていった。そしてこれらの人物はパリテーニ社の企業法で死んでもおかしくない重罪人として扱われて合法化されていった。
そして大戦から3年後には麻薬や大麻が格安で販売されるようになり、ガネリア共和国の麻薬中毒者は日に日に増加していった。大戦より10年が経つ頃にはガネリア共和国の麻薬中毒者は人口の半分を超え、労働者は減り続けていた。
パリテーニ社の横暴は最早止められる者はいない状態になっている。例えそれを志したところでパリテーニ社を追い出す頃にはガネリア共和国は国として成り立つことが出来なくなっているだろう。何しろ、パリテーニ社は国内の農園を麻薬畑にして食料は他国から仕入れてばら撒いているのだから。パリテーニ社がいなくなった途端にこの国は食糧不足となり飢餓が発生するだろう。
備蓄しようにもパリテーニ社が売る量はとても少なくその日暮らしがやっとなありさまだった。更に保存のきくようなものは売らず、生鮮食品しか販売しない事で保存を難しくしていた。
では自分たちで他国から輸入をしようと考えたとしても実行には移せなかった。北部には長年に渡りガネリア共和国が迫害してきた原住民族が住まう土地がある。当然ガネリア共和国の人間を恨んでおり通れば確実に殺されるだろう。パリテーニ社は彼らを味方につけて北部からの輸送路を封じているのだ。
では南はどうかと言われればそこにあるのは中央ファンタジア帝国だ。当然この事態を引き起こしている彼らが食料を提供するはずがないし例えしたとしてもその分だけパリテーニ社が売る食料の量が減るだけである。
最後の希望として西はどうか。西には大戦でともに帝国と戦ったアギタ大公国がある。彼らなら帝国の好きなようにさせないと食料をくれるかもしれない。……通常であれば。彼の国は現在帝国軍が大量に駐留している。大戦で負けた彼らは軍事力の一切を放棄し、帝国に依存する事で滅亡を免れた国なのだ。当然、アギタ国境には大量の帝国軍が展開しており、ガネリア共和国側からやってくる人間は皆殺しにされている。つまり、アギタ大公国を頼ることは出来ないのだ。
四方全てを囲まれた彼らに出来る事はただ一つだけである。国が機能不全に陥り、麻薬で国民が地に伏せるその時を黙ってみている事だけなのだ。それが、周辺諸国を焚きつけ、自国の利益の為だけに大戦を起こしたガネリア共和国が歩む末路であった。
「いやぁ、恐ろしいですね」
「そう思うか?」
「だってそうじゃないですか。現在帝国は周辺諸国の安定化を国是にしているじゃないですか。なのにこの国に対しては安定とは真逆の事をしていますし」
「それもそうだな。だが、帝国からすれば腐敗していくこの状態はある意味安定していると思っているのかもしれないぞ。
まぁ、滅亡が確実と言われ、滅亡した暁には帝国の民を奴隷として使い捨てにして更なる利益を得るつもりだったこの国には相応しい末路だろう」
「そうですかね? ……あ、別に同情しているわけじゃないですよ? 彼らのおかげで俺らが良い暮らしを出来ているわけですし」
「分かっているならいい。だが、気を抜くなよ? 人間追い込まれて何も失うものがなくなった時が一番恐ろしい。暴動でも起こされた日には俺たちはなぶり殺しにあうだろうからな」
「その辺は抜かりないですよ。満腹とはいかなくともきちんと食料を与え、労働を提供して金を稼げるようにする。娯楽として麻薬を提供して歯向かう気力を削ぎつつ失うものを作ることで暴動を躊躇させる。愚民化政策は順調ですよ」
「ならばいい。我らは少なくともガネリア共和国が国として完全に終わるその日までこの状況を維持しないといけないからな。絶対に気を抜くなよ?」
「勿論ですよ」




