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1-09「班」

 鎧一式を手に入れたレグナだが、ある問題に直面していた。それは増えた防具重量にレグナ自身の体力と筋力が追い付いていない事だった。

 ヴァレリアで試着していた段階で分かっていた事ではあるが、実戦で全防具を付けて戦うには危険と判断され、全ての装備を付けることは諦めることになった。

 今は胴鎧と腿当て、兜以外の防具を、以前使用していた軽い革防具を身に着けている。

 だが、レグナは無為にこの三か月を過ごしていたわけではない。戦の無い日は全装備を身に付けて野営地を歩き続け、筋力を上げるために鍛錬も欠かさず行って来た。その甲斐あってか、重さには随分と慣れる事が出来ていた。

 また、ヴァレリアから戦地に戻って以降、レグナへの待遇が少し良くなった。この改善で特に良かったものが食事だった。

 これまでは罪人用の配給食だったものが、一般兵待遇に上がったのである。以前よりも肉や野菜などの量も増え、少しずつではあるが体重が増加し、筋力を増やすことにもつながっていた。

 しかし、三か月経った今も全ての鉄防具を身に付けて戦うことは出来ていなかった。


 ジョルド軍と一当たりした翌日。この日もレグナは防具を身に着けて、野営地の中を歩いていた。

「クソガキ、ちょっと来い」

 レグナが鍛錬を続けていた所に、小隊長のガッツがレグナを呼び止めた。

 ガッツから話しかけてくることは珍しい事ではない。だが、その声色は何時もの揶揄い半分のものではなかった。

「何?」

「ついて来い」

 ガッツはそっけなく指示を出し、背を向けて歩き出した。普段と違う雰囲気のガッツを不審に思いながら、レグナはその背に続いて歩き出すのだった。


 ガッツに連れられてこられた場所は、野営地後方に設けられた鍛錬所。そこには配属から半年未満の新兵が集められていた。その中には三か月前に配属され、持ち前の悪運と戦闘技術で生き残っているマチルことハゲガエルの姿もあった。

「クソガキ、こいつらから四人選ばせてやる」

「?」

 ガッツは説明もなく指示を出した。レグナは指示の糸が分からず、疑問符を浮かべながらガッツを見上げた。

 ガッツはガルド人の中では背が高い。聞くところによれば、南大陸の血が混じっており、その影響だろうという事だった。肌も若干浅黒く、ガルド人とは違う面影があり、混血であることが見て取れる顔立ちをしている。

「説明」

 ガッツはレグナの質問に頭を掻きながら、溜息を吐いた。

「此処一月の間、こっちが少し押され気味なのは知ってるな」

「うん。強い敵。来た」

 丁度一月前、ジョルド側に黒の下地と盾を背景に、紅い剣と槍が描かれた旗を掲げる騎馬兵を中心にした一団が参戦した。

 この一団の統率の取れた突撃と個々人の戦闘力は凄まじく、ガルド側はラドナ騎士団相手に既に中隊を10個、約10000の兵力を失っていた。その結果、この半年で取り戻した領土は奪い返され、さらに前線を押し込まれる事態になっていた。

「ジョルドがラドナ騎士団を雇って送り込んできたんだよ」

「ラドナ騎士団?」

 聞きなれぬ名に、レグナは聞き返した。

「そうだ。騎士団とは言ってるが、中身は俺達と同じ傭兵集団と変わらん。規模はあっちの方がでかいがな。ラドナ伯国って言う小せぇ国が西方にある。国名がそのまま団の名前だ。その国は、自国の兵力を高い契約金と引き換えに他国に貸す生業をしてる。まぁ、実態は教国の下っ端だがな」

「ふーん。それで?」

 説明をされても特に興味が引かなかったのか、レグナは話の続きを促した。ここ最近、少しずつ感情らしきものが見え始め、たまに毒舌を吐くこともある。その変化にガッツ達も気付いているが、上からはそのまま様子を見るように指示されていた。

「もうちっと興味を持てよな。まぁいい。そいつらが暴れたおかげで兵士の補充が追い付てねぇ。だから一番被害のすくねぇ左翼から、兵士と下士官を回すことになった。それはいい。問題は此処からだ。最悪な事に、奴等の次の狙いが俺達のいる左翼の可能性が高い。だから、使える者は何でも使うことにしたんだとよ」

 ガッツの説明は少し曖昧だが、要はレグナに隊の半分の数5人を率いる班長にすると言っているのだろう。

「ふーん。何で俺?」

 レグナの疑問は至極全うなものだった。罪人である自分が何故、班長に選ばれたのかという点だ。それに班長は兵士の二つ上、兵長以上の階級を持つ者が就くことになっているはずである。

「知らん。上に聞け。俺は反対した。分かったら、さっさと選べ」

 ガッツの口調から、本当に知らない雰囲気を感じたレグナは、仕方なく並んでいる兵士の顔を見渡した。

 レグナを見る新兵の顔は緊張している者、物珍し気に見る者、不安気な者、無表情な者など様々。その中で最も多いのが、自信に満ちた顔でレグナを下に見て侮る者。


 時間にすれば数秒。レグナは目を合わせるように視線を向けた兵士を指差し、選んで行った。

「・・・ハゲガエル」

 レグナは最後に選んだ兵士には名前を呼んで指差した。

「キリザに、ロズとロゼの兄弟。最後はハゲガエルか」

 ガッツはレグナが選んだ兵士の名を順番に口にした。

 一人目のキリザは四人の中で最も大柄な体格をしており、重量級の防具と戦斧で戦う重戦士。一か月半前に配属されている。

 二人目と三人目は、一月前に配属されたばかりの兄弟。兄のロズと弟のロゼル。

 兄のロズは寡黙だが、弟のロゼはおしゃべりで社交的。性格は正反対だが、息の合った連携で死の十五日を乗り越えている。

 そして、最後の一人。

「おい!いい加減、ちゃんと本名で呼べよ!一体何時まで引きずるんだよっ!その格好悪い名前をよぉっ。それに最後少し溜めただろ!」

 並んでいる新兵の列から飛び出す様にレグナに詰め寄る男マチル。

 彼は三か月前の配属早々、ルッツに反抗し鞭打ちの罰を受けた男である。さらにある事件により、不名誉なあだ名で呼ばれ続けている。

 腕は立つのだが、自分勝手な言動が目立つため、早々に死ぬだろうと思われていた一人である。しかし、周りの予想を裏切り今も生き延び、新兵の中でも戦果を残していた。

「・・・鞭打ち一回?五回?」

 レグナは詰め寄るマチルを無視して、隣でにやついているガッツに呟くように聞いた。

「お前の好きにしていいぞ。だが、お前が選んだんだ。最後まで面倒は見ろよ。分かったか、クソガキ」

「わかった」

 ガッツがにやついていた理由は、マチルが詰め寄って来たことにではなく、レグナがこの四人を選んだことにだった。

 この四人には共通点がある。それは、全員が問題児という点。この中ではマチルが一番の問題を起こしているのだが、レグナの中では他の三人の方が問題児だと思っている。

 マチルは戦闘に関することだけを見れば、そこらの兵士では勝てない実力を持っている。戦術理解もあり、戦場ではそれを言葉にして伝える頭もある。これはガッツも認めている点だ。だが、普段の本人の言動が終わっているため、兵士のまま据え置かれている。当分の間、昇進すらないだろう。

 そんなマチルを揶揄いがいのある後輩として、古参勢が可愛がっていたりもする。

 しかし、マチルを除く三人は少し事情が違う。中途半端に強いせいで謎の自信に満ちており、自分勝手な所が目立つ新兵だった。そのため、隊長達からは敬遠されている。


「今、指差された奴は前に出ろ」

 既に前に出ているマチル以外の三人がレグナの前に並ぶ。

「これは命令だ。従わない奴は容赦なく罰を与える、こいつがな」

 ガッツは小隊長として、この人事が命令であることを強調し、立てた親指でレグナを指差しながら懲罰もあり得ることをちらつかせた。

「俺、班長。お前ら、部下」

「そういう事だ。分かったかお前ら?」

 ガッツから突き付けられた命令に、マチルはわなわなと全身を震わせ、不服そうな顔を向ける。その後ろに並ぶ三人も、侮りの籠る目をレグナに向けている。

「・・・俺、上官。お前ら、部下」

 レグナはもう一度、言葉を変えて並ぶ四人に告げた。しかし、並ぶ四人はその意図が分からず、四人は少し困惑し始める。

「くくく。おいクソガキ、あとは任せたぞ。おい、他の奴等はこっちに来い。・・・クソガキ」

 ガッツは去る間際に視線を動かした。その動きはレグナにだけ分かる様に、新兵に向けられていた。それを正しく理解したレグナは頷き返した。

「分かってるならいい。じゃあな、俺は行くぞ。はははははは」

 ガッツは未だに困惑している新兵四人を見て笑い。そのまま他の新兵達を引き連れて行った。

 残された四人はその後も、同じ内容の言葉を繰り返すレグナに困惑しつつ、どうすればいいのか分からずにいた。そして、ただ時間だけが過ぎるのだった。



 一当たりした日以降のジョルド軍は、軍の前進を控えめに抑えていた。

 戦闘が無かったわけではない。偵察隊同士の小規模な戦闘や、中隊規模の小戦闘はちらほらと発生している。

 しかし、本軍同士の戦いまでには発展せず、互いに探り合いの戦いが続いていた。

 ガルドが最も警戒しているラドナ騎士団。その姿も見えないことで、ガルド軍はジョルド側の意図が見えず、不気味に感じていた。


「おい、何で俺だけ罰無しなんだ?」

 マチルは他の三人が腕立てをしている横で、一人だけ立たされていた。

 昨日までのレグナは連帯責任と言って、全員に罰を与えていた。しかしこの日のレグナは違った。マチルだけ罰を与えず、他の三人にのみ罰を与えてることにしたのだ。例えそれが、マチルを原因とする罰だとしても。

「気分」

「ふっざけんなっ」

 返って来た答えに、青筋を浮かべ一歩踏み出そうとしたマチルに、レグナはお気に入りの鞭を傍に打ち下ろす。

「がぇっ。ぺっ、ぺっ。土が口に入っただろうが」

「追加、30」

 マチルの文句はすべて無視し、無表情のままレグナは三人を見下しながら命令を下した。

 三人は仕方なく、追加された回数もこなして立ち上がった。

 ここで膝立や伏せたままだと、レグナが罰を追加することをここ数日で学んだ結果である。


 班長になって数日、レグナは初日から『反攻的な三人』の態度を正すために教育を施していた。

 四人を選んだ日、レグナは同じ内容の言葉をあの場で一時間以上繰り返した。しかし、理解できたのは一人だけだった。

 意図に気付いたキリザは、他の三人に気付かれない様に一歩下がり、レグナに敬礼を向けた。その顔はにやついていたが。

 それを見たレグナは、ようやく繰り返していた言葉を止めて、兄弟に腕立て100回を、キリザには70回を言い渡した。

 これにキリザは文句を言ったため、優しいレグナは120回にしてあげた。

 そして最も反抗的なマチルには、腕立て150回を言い渡している。

 勿論これに怒ったマチルは、レグナに掴みかかった。しかし、全装備を付けているレグナに軽く躱され、組み敷かれ、顔を何度も地面に打ち付けらる屈辱を味わう結果に終わった。

 他の三人はその光景に驚いていた。マチルは問題児だが、レグナよりも体格も力もある。戦闘技術も実際に戦っている所を見た事のある三人はレグナより上だと確信していた。実際、レグナよりも強い。

 だから三人は高を括っていた。レグナはマチルにやられるだろうと。しかし、結果はまったくの逆。マチルは手も足も出ずにやられた。

 結局四人は与えられた罰を渋々こなし、その日は解散となった。


 そして翌日からレグナによるしごきという名のパワハラが始まった。全員に全装備を付けさせ、自分の鍛錬に付き合わせる一方で、合間に理不尽な命令を与え、その反応を見て楽しんでいた。

 そして反抗的な態度には、容赦なく腕立てなどの罰を与えていた。

 これが、ここ数日の新兵四人の日常である。


「おいおい、珍しいな。お前だけ罰無しか?何やったんだ」

 罰が終わって並んでいる四人に、通りすがりの兵士が揶揄い気味に話しかけて来た。未だに青筋を浮かべているマチルは目線だけ向けて答えた。

「知らねぇよ。こいつに聞け」

「ハゲガエル以外、腕立て30」

 勝手に喋ったマチルではなく、直立で立っていた三人にレグナは罰を告げた。

「おい、いい加減にしろよ!今のは俺が勝手に喋ったのがわりぃんだろ。何で俺じゃなくて、こいつらにだけ罰を与えるんだよ!ふざけ」

「おい。止めろ」

 マチルは何度も伸されているのにも関わらず、懲りずにレグナに詰め寄りながら文句を吐いた。

 しかし、それを止める者がいた。話しかけて来た兵士である。

「お前がこのガキを見下すのは勝手だ。だがな、上官の命令に従うのが兵士だ。お前の上官は誰だ?このガキだろ。なら従え」

「何で俺がこんなガキの命令を聞かなきゃならねぇんだ。それも意味のねぇ命令ばっかりだ。このガキは俺達で遊んでるんだぞ!」

 中年兵士の助言にもマチルは反論し、怒りを滲ませている。その顔は連日の折檻で傷だらけである。

「おい、ガキ。こいつらに少しは言葉を使って教育しないのか?」

 兵士はマチルから視線をレグナに移し、何時までこれを続けるつもりかと問うように話しかけた。しかし、当のレグナはマチルだけでなく、兵士も無視して腕立て伏せの数を数えていた。

「おい、聞いてるのか」

 無視された兵士は少しきつめに話しかけた。それにレグナは面倒くさそうに顔を向けた。

「こいつら馬鹿。無駄」

「・・・はぁ、そうかよ。俺はもう行くぜ」

 さすがに呆れた兵士は溜息を吐きながら、背を向けて去って行く。

「ハゲガエル以外、追加50」

 立ち去る兵士の背後からは、レグナの無慈悲な命令が飛んでいた。

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