表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

1-08「情報」

 レグナが鎧を確認している間、ロベル達は別室で女主人と対面していた。

「お会いできて光栄に存じます。三代目「月夜」を名乗らせて頂いております」

 月夜と名乗る女は深く頭をロベルに下げた。

「月夜か。先代とは終ぞ会う事が無かったな。それで、夜を冠する名は数名の幹部のみだったはずだ。その夜が何故此処に居る?」

 夜の花を纏める一方で、闇夜として数多の情報を握る大幹部の一人こそ、今ロベル達の目の前に居る女「月夜」である。

 そして表の顔である高級娼館の主でもある。その容姿は衰えることなく保ち、現役と言われても遜色ないほど磨かれているが、実年齢は40を超えているはずである。

「私共の元に流れて来た情報をお伝えしたく」

「それを言うために、この茶番を仕組んだのか?」

 ロベルはルッツにも監視を付けていた。鎧が盗まれる事は想定していなかったが、やけに勘の鋭いルッツに何かあるかもしれないと思っていたのだ。

 しかし、毎日飲み歩くばかりでそれらしい情報は上がって来なかった。

 だが、つい先程発覚したばかりの鎧の盗難。そしてルッツが何時の間にか手配していた保険。偶然を装っているが、用意していたのではないかとロベルは疑っていた。

「おいおい、本当に俺は関係ないからな。あの鎧はガッツの旦那にとって大事な物らしいんだよ。もし盗まれたまま帰ってみろよ。衛兵相手だろうが、街中だろうが暴れてたぞ。あんたには伝えただろ?ガッツの旦那については。だから、もし流された時のために、先手を打って置いたんだよ。此処の衛兵が横流ししてるのは傭兵の間じゃ、そこそこ有名だからな」

「そうなのか?君はやけに勘が良いからな。私の事も気付いていたからな。何かあると思っていたのだが、本当に何処にも属していないのか?」

 ロベルは本当に驚いている様だった。ルッツが何処か組織の構成員ではないかと本気で疑っているくらいには。

「勘が良いのは認めるがよ。まじで俺は関係ない。この女を昔助けたのは本当だ。だがな。こいつが情報屋だってことは、ガッツの旦那の傭兵団に入ってからだ。再会した時、俺はこの女のことは覚えてなかったからな」

「ふふふ。ルッツには悪いことしたね。私でも接触するには難しい御方だからね。偶然とはいえ助かったよ。もし鎧の件が無ければ、帰りの道中で接触する予定だったからね。さて、手短にお伝えいたします」

 ルッツを揶揄いながらも、真剣な声色に変わった月夜に、ロベルも雰囲気を変えた。

「申せ」

 その一言で騎士から為政者の顔に変わる。

「お伝えしたい事は二つ。届いたばかりの情報で御座います。ジョルドがラドナ騎士団を雇いました。二つ、教国が北と接触を図っております。お気を付けください」

 月夜からの情報に、ルッツは嫌な顔を隠さずげんなりとしている。逆に眉一つ変えなかったロベルは少し間を置いて口を開いた。

「・・・よく伝えてくれた。ご苦労だった。後日になるが、情報料は色を付けて支払おう」

 ロベルはこれで話は終わりだと、騎士に合図を送った。


「もう一つ御座います」


 ロベルが部屋から出ようと踵を返そうとしたとき、月夜はそれを制止して話を続けた。

「情報と呼べるものではありませんが、一つ奇妙な噂がジョルドの一部の兵士の間で広がっています」

「・・・噂?それがどうしたのだ」

「いくら殺しても、蘇って来る謎の兵士がガルドにはいると。その兵士の特徴が、その…」

 月夜はそこで言い淀む。自分でも馬鹿な噂話を伝えていると分かっているからだ。

「ふふふ。あの少年と合致すると言いたいのだな?」

 ロベルは何かを知っているかのように微笑み、月夜が言い淀んだ言葉を口にした。

「はい。その一部の兵士の間では不死者『アンデット』と囁かれている様です。私の目にはその様な恐ろしい者には見えないのですが…」

 月夜は窓の外、鎧を着て動きを確かめている少年に視線を向ける。

「その様子だと、調べたのだろう?」

 月夜はこの噂を部下から聞いた時、少し興味が沸き追加で情報を集めた。そして一人の少年兵に行きつく。しかし、その少年兵の経歴を探ろうとしたが、ある時期を境に家族共に痕跡が無くなり、次に見つかったのは数か月前に罪人として戦地にいた事だった。

 その後、戦地での少年について調べてみると、何度も死にそうになりながらも生きて帰っているという事ぐらいだった。

「はい。不可解なほど生き残っていること以外は、普通の少年です」

 敢えて家族を含めて行方が掴めなかった時期があることは伏せ、月夜は答えた。

「ははは。私もそう思う。君はどうなんだ?ルッツ」

 ロベルはすぐ近くで共に戦い、その現場を見ているはずの男に話を振った。

 ルッツは少し何か考えつつ、不思議な話を始めた。

「・・・これから話す内容は、俺も不思議に思ってる事だ。何度か目の前であのクソガキが『殺されている』所は見てる」

「殺されている?」

 ルッツの言い間違えに、ロベルはつい繰り返してしまった。

「それで合ってる。俺の目には、いや違うな。何て言えばいいか分からねぇ。だが『殺されている』で合ってると思うだよ」

 ルッツの話す事は意味が不明だ。本人もそれが解っているのか、話す口調に自信はない。

「でもな、気付いたら敵兵が足を滑らせたり、役に立たねぇ新兵や兵士が割り込んできて、代わりに死んだりするんだ。そのどれもが、戦場ではよくあることだ。かと思えば、何日か戦えない様な怪我を負う事もある。だから、ただ運が良いだけとしか思ってなかった。あの時までは」

「あの時とは?」

「あいつ、魔術の火球を真正面から受けたことがあるんだよ。なのに、腹に少し跡が残る程度の火傷で生き残りやがった。さすがに運が良かったなで終わる話じゃねぇだろ?そこからだ。勘違いだと思ってた違和感が強くなり始めた。何だろうな。置いていた物が気付いたら少しだけずれてる。そんな感じの違和感だ。同じ隊の奴も何人かが感じてる。でもなぁ、それがあのガキと関係してるかは分からねぇ」

 ロベルはルッツの話を聞き、その違和感こそがレグナの持つ魔法の正体、あるいは謎を解き明かす鍵なのではないかと感じた。

「ルッツ。その違和感はどんな時に感じるのだ?」

「ん?あーん、そうだなぁ。敵兵と戦ってる時だな。それに、ガキが近くにいる時が多い気もするな」

「他にはないのか?」

「おそらくないな。でよ。此処まで聞かされたんだ。俺から二つだけ聞いてもいいか?」

 ロベルはルッツをどこまで信用するか、そして出来るかを考えた。そして、目の前に情報屋がいる事を思い出した。

「月夜。この男の素性は?」

 月夜はルッツを一目見る。ルッツは複雑な顔で天井を見上げていた。そして、手振りで「好きにしろ」と彼女に伝えてきた。

「ルッツはジョルド貴族の隠し子です。母親の死後は行方は不明。その間に傭兵になっています。五年前にガッツが頭領を務める傭兵団に入り、今に至ります」

 皆の視線がルッツに集まる中、天井を見上げていた彼は頭を掻きながら口を開いた。

「言っとくがな。隠し子といっても、遊び半分で孕まされた子だ。母親はガルド人だったらしい…まぁ、此処まで言えば分かるだろ?。飽きたのか知らねぇが、母親は目の前で殺されたよ。それから奴隷商に売られ、逃げ出してからは路上生活だ。それから北に流れて傭兵団の下働きしてた。10歳くらいの頃だと思う。俺も自分の正確な歳は分からねぇからな。戦えるようになってからは放浪生活だな。というか、よく調べたな」

 ルッツは何時もの軽い口調で自身の半生を語るが、聞いている者達は悲痛な面持ちでルッツから眼を逸らしていた。

 おそらく母親は戦利品として連れていかれたのだろう。そこでどの様な酷い行いを受けたかは想像もできない。

 彼がロベル達と話す時、所々で棘のある話し方をしていた事から、貴族を嫌い憎んでいる事は分かっていたが、目の前で母を殺されたとなればそれも仕方ない事なのかもしれない。

「あんたの実家と呼んでいいかは分からないけどね。同じジョルド貴族からの依頼で調べることがあったのさ。あんたの父親は相当だよ。自分が今まで行って来た事を事細かく記録し、残してた。正真正銘の加虐性欲者だね。まぁ、その被害者に同じジョルド貴族の娘もいてね。今は一家丸ごと奴隷に堕ちてるよ」

 父親の末路を聞いてもルッツの顔は変わらない。まるで初めから母以外の家族はいないと言いたげな態度である。


「・・・それで、聞いてもいいか?」

「あぁ、君に話せる事なら」

 ロベルは為政者ではなく、友人に語り掛けるように答えた。

「あいつは魔法使いか?魔術を受けて生きてる奴は何人か見て来た。そいつら全員が大なり小なり、魔法使いに目覚めていた。だが、まともに受けて軽傷で済んでる奴はガッツの旦那以外では見た事がねぇ。どうなんだ?」

「魔法使いではある。それ以上は話せない」

「そうか、やっぱりな。あのガキは罪人だが、やけに待遇が良いから不思議だったんだ。魔法調整も駄目元で相談したからな」

「それは少し違う。詳細は話せない。だが、私があの少年を保護しているのは事実だ。戦場に送り出してはいるがな」

「つまり、罪人の立場は覆せねぇが、それを利用して自分の手元に置いてるってことか」

「・・・」

 ルッツの質問にロベルは無言を貫いた。彼なりの詫びなのだろう。それは肯定を意味していることを、ルッツも正しく理解した。

「ガッツの旦那は知ってるのか?」

「詳細は知らない。だが、君よりは知っている。彼はあれでもガルド貴族だ。それに君達の小隊は傭兵が主体だ。君達の流儀上、深く詮索はしないだろうと踏んで預けることにした」

「はっ、えっ?ガッツの旦那って貴族なのか!?」

 ロベルからもたらされた驚愕の事実を前に、ルッツは驚きを隠せず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「知らない者の方が多いがな。属に名誉貴族と呼ばれるものだ」

 貴族と言っても、全ての家が領地や財産を持っている訳ではない。領地と爵位を持つ家が、一般的に分かりやすい貴族像だろう。

 では、ガルドに於いて貴族とは何を持って指すのか。それは貴族籍名簿に名を連ねているか、いないかである。

 この名簿に名があれば貴族を名乗れるが、爵位付きと無しにも分かれている。

 爵位はあるが、領地の無い貴族。彼らは無領貴族、あるいは無封貴族と呼ばれ、その多くは上位の家に仕えるか、その縁者である事が多い。または国に仕える法衣貴族となる道を歩んでいる者いる。

 爵位はないが籍はある者達。現在のガルドでは準貴族として分けられているが、普段は貴族扱いである。

 この中には代官として小さな町や村、小領に派遣される者。大きい町の町長など一定の地位にある者達が多い。

 そしてガッツは、名誉貴族と呼ばれる世襲不可の一代限りの「爵位」を持つ貴族である。

「10年以上前の話だ。彼はある手柄を立てた。その功績によって『正騎士爵』が与えられている。此処に居る騎士達よりも地位は上だ。そんな彼が何故、余り知られていないかというと、表沙汰に出来ない手柄だからだ。それに、そのすぐ後に傭兵団を立ち上げ、国を出た事も理由の一つだな。おそらく、厄介事に巻き込まれる前に逃げたのだろう。知る者は知っているからな」

 ルッツは傭兵として生きるために、情報を最も大切にしている。そのため、貴族の知識もある程度は持っている。

 その知識の中で、ガルドの正騎士は一つ下の騎士爵が長年国に仕えるか、功績を積み上げることで陞爵する爵位であると記憶していた。

 つまり、ガッツはそこらの騎士の功績を凌駕する手柄を立てていることになる。それに、正騎士はそこらの木っ端貴族より上の爵位である。

 ルッツの所属する中隊の長ダンテより上のはずだ。その事実に気付いたルッツは急に聞く気が失せた。

「これ以上は聞かないでおくぜ。いや、聞いておいて何だが、わりぃな。ははははは」

 ルッツは気まぐれを装い話しを切り上げた。おそらく彼の勘がこれ以上踏み込むことに危険を感じたのだろう。

「それが良いだろう。知らなければ良い事は世の中にはたくさんある。勿論、その逆も。自身の手が届かない所に手を伸ばせば、破滅するだけだからな。しかし、君達が感じている違和感。それはガッツに今後は報告。どんな状況で感じたかだけでもよい。可能なら、少年の状況も報告してくれ」

「あぁ、わかった。出来る事はしてやるよ」

 外を覗けば、丁度レグナが鎧の確認を終え、建物に入って来ようとしていた。それを見たロベルが踵を返したことで、密談は終わりとなるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ