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室田邸潜入


エンジン音だけが車内に低く響く。

暗い夜道を、ライトの光が一本の道筋のように切り開いていく。


全員がそれぞれの座席に沈み、窓の外を見つめていた。

会話はある――だが、どこかぎこちない。

命の保証がないことを、誰も口にはしないが、全員が知っている。


美香は無意識に膝の上で拳を握りしめ、鬼蔵は眉間に皺を寄せ、夜人は黙って銃の安全装置を確認していた。

その冷たい空気は、室田邸に近づくほどに重く、濃くなっていく。


やがて、烈火が窓の外を見ながら大きく息を吸い――

「おい! 元気出そうぜ! 行く前から葬式みたいな顔すんな!」


不意に響くその声に、全員の視線が集まった。

烈火はニカッと笑い、わざと軽口を叩く。

「俺ら、死ぬために行くんじゃねぇだろ? ぶっ倒すために行くんだよ!」


鬼蔵が鼻で笑い、「お前は相変わらず能天気だな」と呟く。

夜人は小さくため息をつきつつも、口元にわずかな笑みを浮かべた。

美香も緊張の糸が少し緩み、「……そうだね」と頷く。


烈火の笑い声に釣られるように、車内の空気がわずかに温まった。

それでも、その先に待つのは血と刃の世界――

だが、今はその一瞬の温もりが、何よりの力になっていた。


黒塗りのバンが夜の道を抜け、室田邸の門前から数十メートル手前で静かに停まった。

エンジンの微かな振動音が、やけに大きく感じられる。


車内には、美香、烈火、夜人、鬼蔵、京介、そして運転席に浩一郎。

影丸も迅も、もういない。

その事実が、全員の胸に重く沈んでいた。


「作戦の最終確認だ」

浩一郎の低く抑えた声が車内に響く。

それぞれが無言で頷き、短く役割を復唱した。


――美香が先行し、警備の死角から邸内へ侵入。

――烈火と鬼蔵が正面突破と制圧。

――夜人と京介が援護射撃とカバー。

浩一郎は車内に残り、通信と医療支援を行う。


運転席からわずかに身を乗り出した浩一郎が、邸宅を観察する。

門前の警備員は二人。

銃を持ってはいるが、姿勢は緩く、時折視線を外しては軽く会話を交わしている。

敷地全体の警備も拍子抜けするほど薄い。

だが、それこそが危険の匂いだった。

内部には間違いなく“K”と直属部隊が待ち構えているはずだ。


「行くぞ」

浩一郎の合図と同時に、美香が音もなくドアを開けた。

冷たい夜気が流れ込み、空気が一段と張り詰める。


美香は影のように駆け出し、門前の死角へ滑り込む。

わずか数秒後――

「……っ!」という押し殺した声と共に、一人目の警備員が膝から崩れ落ちた。

振り向いた二人目の首筋へ、美香の手刀が吸い込まれる。

短い呼吸音、そして沈黙。

金属音も銃声もなく、二人の体は地面に倒れたまま動かなくなった。


「クリア。降りて」

耳元の通信機から、美香の小声が響く。


烈火たちが順に車外へ出る。

門は半開きになり、その奥に黒々とした巨大な邸宅が不気味に佇んでいる。

淡い灯りがいくつか点いているが、人影は見えない。

ただ、空気が異様に重い。


烈火が門をくぐりながら、低く笑う。

「よし……鬼ごっこの始まりだな」


誰も返さなかったが、その言葉がわずかに緊張をほぐした。

全員が武器を構え、邸宅の中へと足を踏み入れていく。

そこから先は、命の保証など一切ない場所だった。


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