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それぞれの鍵


医務室では


白い灯が淡く瞬くその部屋で、三人の男たちは静かに横たわっていた。

伊集院夜人、嵐山鬼蔵、そして柊京介。

彼らは魔丸の全除去手術によって、生命の縁を彷徨っている。



「……まだだ……死ぬな、死ぬんじゃない……!」


浩一郎は白衣を脱ぎ捨て、己の限界を超えて命に向き合っていた。

その瞳に映るのは、モニターではない。命の奥にある“生きようとする力”。


「夜人、鬼蔵、京介……お前たちは、まだ終わっていない……!」


大量の薬剤、吐血、痙攣。

どれほど技術を尽くしても、今は彼らの“心”が戻ってこなければ助からない。


浩一郎の手は震えていた。久しく忘れていた“救えないかもしれない”という恐怖。

それでも、立ち止まることはなかった。



美香は部屋の外で葛藤していた。


(……皆、苦しんでる……)


処置室の外に立つ美香は、扉の向こうから漏れる苦痛の叫びに胸を締め付けられていた。

叫ぶのは、あの明るい烈火、寡黙な京介、冷静沈着だった夜人だ。

まるで生きたまま焼かれているかのように、彼らは呻き続けている。


そのたびに思い出す。Kの棘が影丸の胸を貫いた瞬間。

迅の命が、ことはの声が、目の前で潰えたあの惨劇を。


美香は震えていた。

でも――涙は出なかった。


(泣いたら……何も変わらない。私が、私のままでいたら……影丸たちに申し訳ない)


だから美香は泣かなかった。

その代わりに、祈った。

「どうか……戻ってきて。私、もう……失いたくない」


烈火もまた自分の弱さに悔しさを感じていた。


壁に拳をぶつけた。何度も、何度も。手の骨がきしむ。だが止まらない。


「クソッ……クソッ……!」


烈火は悔しかった。

自分はまだ手術も受けられず、痛みに苦しむ仲間の傍にも行けない。

なのに、何もできない。


自分が強ければ。もっと冷静に動けていれば。あの場で誰かを助けられたかもしれないのに。


「頼む……誰でもいいから……生きて帰ってこいよ……!」


泣きながら叫んだ。ふざけたように明るかった自分が、今はただの無力な人間だった。



そして、二日後


心の深層で、それぞれが“鍵”を見つけていた。




伊集院 夜人の鍵は


暗闇に射す一筋の光。その先には、小さな“扉”があった。


(これ……は……)


その扉の前に立っていたのは、幼い頃の夜人。

他人を拒絶し、言葉を信じず、ひとりで生きようとしていた自分。それは能力にも出ていた。信じようとしないから周囲の状況を常に把握しておきたかった。


「お前は臆病者だ」と過去の自分が言う。


夜人は、震えながらも答えた。


「……違う。俺はもう、1人じゃない」


「お前は仲間の死を背負えない弱さを知ってる。だがそれを受け入れて、生きていく覚悟をしたんだ」


扉が、ゆっくり開いた。


(これが……俺の答え)


──短所:心を開けない冷淡さ

──克服:仲間の痛みを共に背負う「強さ」


その瞬間、夜人のまぶたがぴくりと動いた。



嵐山 鬼蔵の鍵は


心の中に現れたのは、砂嵐が吹き荒ぶ荒野。

その真ん中に、影丸の幻が立っていた。


「お前は、何も変わってねぇじゃねぇか。突っ込んで死ぬだけの猪野郎か?」


「違う……俺は……!」


鬼蔵は叫ぶ。


「俺は……守りたいんだよ!!」


その言葉に、影丸の表情が和らぐ。


「ようやく言えたな……本音ってやつをよ」


鬼蔵の周囲の風が止まり、空が晴れる。

今まで“無鉄砲”と呼ばれてきた己の短所。それは、勇気と恐れを誤魔化すための仮面だった。


──短所:感情任せな突撃癖

──克服:守るために冷静になる「覚悟」


その答えを胸に、鬼蔵も目を開けた。



柊 京介の鍵は


柊京介は、鏡の前に立っていた。

そこには、無表情で、冷たい目をした自分が映っていた。


「本当は、怖いだけだろ」


鏡の中の自分がそう言った。


「誰かを信じて、裏切られるのが怖い。だから……最初から何も感じないようにしてきた」


京介は黙って頷いた。


「でももう、知ってる。信じた先にある“温かさ”を」


それは、美香が手を伸ばしたとき。烈火が背中を叩いたとき。

影丸が、何も言わずにそばにいてくれたとき。


──短所:他人と関わらない冷淡さ

──克服:他人を信じる「勇気」


鏡が砕け、白い光に包まれた京介の体が、わずかに動いた。


数日後医務室で


「っ……!?」


最初に目を開けたのは、夜人だった。


続いて鬼蔵が叫びを上げ、痰を吐きながら目を見開いた。


最後に京介が静かに、だが確かに、息を吸い込んだ。


浩一郎はその場に膝をつき、目を伏せる。


「……帰ってきたか。よく……帰ってきてくれた……」


外で待っていた美香は、それを聞いて小さく息を吐き、涙をこらえて立ち上がった。


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