潜入2
4人を待っていたのは第三部隊の副隊長だった。
「ここまで来るとはな、さすがだ。ヨシカゲ隊」
黒装束の中でも異質な男が現れる。全身に鎖のような武具をまとい、蛇のようにうねる鞭状の武器を振るう。
「……あれが副隊長、“鎖の鬼牙”だ」影丸が歯を食いしばる。
「ここから先は行かせない。貴様らはここで死ぬ運命だ」
「それは……こっちのセリフだ!」美香が前に出た。
鬼牙の鎖が唸るように地を裂き、電撃を纏って襲いかかる。美香はわずかに避けた──だが衣服の端が焼ける。
「速い……」
「何本にも分かれるぞ!」ことはが叫ぶ。
影丸が斬り込むも、鎖の応酬で押し込まれる。だがその時、迅が鬼牙の足元へ小型爆薬を仕込む。気付いた時には爆風が巻き起こり、鬼牙の足が一瞬止まった。
「今だ、美香!!」
「はあああっ!!!」
加速する美香の拳が、鬼牙の顔面を直撃した。電撃の鎖が空中にばらまかれ、男の身体が仰け反る。
そこへ影丸の一閃。
「斬ッ!!」
血飛沫が夜空を舞った。鬼牙の体が倒れ、ようやく第三部隊の抵抗が潰えた。
「……やった、のか……?」
ことはが息を吐く。
「第三部隊、制圧完了。ここからが本番だ」
影丸が睨むのは、さらに奥──加賀のいる研究所最深部だった。
まだ、第二部隊が待っている。
蒸し暑い研究所内部の通路に、4人の影が忍び寄る。
壁には管が走り、電子パネルの光が点滅している。遠くに電子音が響く。
「ここから最深部まで約200mだ。だが、部隊ごとに警戒網が待ってる」影丸が耳打ち。
「まずは監視カメラ、安全カメラブロック」迅が小型デバイスを配線に取り付け、ハッキングを始める。「OK、30秒だけ映像が止まる。それまでに一気に進むぞ」
警報は消え、視界は静寂のまま。
四人は階段へと駆け上がる。
上部通路に到達し、ガラス越しに最初の「第二部隊」士官室を確認。数名の黒装束が油断なく端末を操作していた。
「行くぞ」影丸の合図と共に、ことはが扉を蹴破り飛び込む――刹那の乱戦開始。
扉が割れ、閃光と剣戟、銃声が飛び交う。
ことはの鎌が1人を跳弾しながら回転し、迅がブラックホールで反撃を無効化、影丸が音殺拳で3人斬り伏せる。
混乱の中、迅が端末を使い高圧回路を逆転させる。
「電流来たぞ!」と叫び、銃器を持つ1人が倒れ込む。
影丸は狙撃手格の敵を捉えた。
「影式・抑音斬!」無音で剣が敵の背中を切り裂く。
「――よし、突破!さらに奥へ!」影丸が声を張り上げる。
蒸気の漏れる通路を、4人は無言で進む。壁には「晋遊実験区」「加賀診療棟」の文字。
開けた空間に出ると、そこは中継ポイント。
壁には照明ランプと制御盤、周囲に5名の黒装束が陣取っていた。
「ここを破れば、加賀との間に本部まで通じる」影丸が示す。
「正面からじゃ時間がかかる。美香、ことはは右側の通風ダクト乗っ取りルートを行け。迅はブリッジ制御。俺は正面突破」
「了解!」美香とことはがうなずき、匍匐前進で進む。
迅はパネルを触り、扉の施錠解除。
扉が内側から開き、影丸が飛び込む。
拳を振るい、剣を振るい――二人体制の戦いになり、影丸と1対1の真剣勝負へ。刹那の技術と剣捌きが飛び交う。防御が一瞬でも途切れれば命が飛ぶ。
美香とことははダクト内を進行。俯いた隊員の銃を奪い、上から奇襲。
ことはの鎌が、敵の頸動脈を引き裂く。
美香は拳で、音を振動として相手の腰を叩き折る。
「迅、開いたぞ!」影丸が叫ぶ。
迅「いける!ダクトを…くぐって合流ルートに――行けッ!」
蒸気と埃が舞う中、4人は再び合流を果たす。
だがその時――
扉の向こうに、白衣と黒装束を重ねた男が1人立っていた。
――第二部隊長・鋼牙。
長身で筋骨隆々、義眼のように機械が埋め込まれた左目。右手にはレーザー仕込みの拳装甲。
笑みを浮かべ、不敵に手を振る。
「やっと来たか、ヨシカゲ隊。ここでお前たちを止めねばならん。俺、鋼牙がそう言われている!」
彼が両腕を構えると、部屋中で装置が起動。
壁が閉鎖、天井の照明が赤く点灯。まさに“戦闘モード”だった。
「行くぞ!」影丸が飛び出す。
一瞬の激突、剣と拳が交錯し、床にヒビが走る。
美香は能力を最大出力し、全速力の跳躍で鋼牙の背後を取り、蹴りを放つ。
鋼牙は腕で受け止めながら、レーザーパンチを発射!
「クソが!」美香はギリギリで回避。光が壁を焼き、破片が飛び散る。
鋼牙は拳を連打して追い詰めようとするが、第1撃を影丸が遮った。
そこに、ことはが鎌を振り下ろし、鋼牙の装甲の縫い目を裂く。
閃光と爆音が響く。高速戦闘の中で4人のチームワークが生まれる。
「迅、解錠レバーだ!」ことはが指示。
迅がブリッジを操作し、壁のロックが解除。さらに通路に防衛センサーが起動するが、迅が手動リセット。
「照明、3・2・1で真っ暗にする!」影丸。
灯りが消え、完全な闇。
その間に、美香が鋼牙に距離を詰めて――
「奥義・陽華撃掌」
拳を胸に叩き込むと、光が炸裂!
鋼牙の装甲が爆散し、男が後方へ吹き飛ぶ。
音が戻ると、彼はひざまずいたまま意識を喪失していた。
「……やったか?」ことはが息を切らせながら言う。
「第2部隊長、制圧」影丸が告げる。その声に安心が混じった。
通路が開き、最深部への階段が現れた。
下は赤い照明と行き止まり感が交錯する、異世界の景色だった。
「…あとは加賀しかいない」美香が低く言う。
「確実に、とどめるんだ」影丸が拳を握る。
「…うん」美香は大きく息を吸い込み、光る拳を見下ろす。
その時、轟音が響いた。
遠くから、加賀の笑い声と、増援の足音。