旧本部
冷たい朝の空気の中、美香たちを乗せた車が岩壁に隠された入り口に到着した。
それが、ヨシカゲ隊の旧本部――かつて数多の任務を遂行してきた、秘密の要塞だった。
「……着いたか」
影丸が車を降り、軽く伸びをする。
その隣で、烈火が片腕を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
「……浩一郎さん、大丈夫です……俺、歩けます」
「無理はするな」
浩一郎は烈火の傷口を確認しながら、医療チームに合図を送る。
彼らは担架を差し出したが、烈火は拒み、自力で歩いた。痛みを押し殺しながら。
医療ブースに烈火が消えていき、一息ついたその頃。
影丸は、そっと少年――蒼真を美香の前に連れてきた。
「……蒼真。リツの村で、何が起きたか、教えてくれないか」
少年の表情は固く、唇は震えていたが、しばらくして小さく頷いた。
「……ある日、空から……黒い服の人たちが降ってきて……村を囲んで……」
「“適合体”は捕まえろ、“不適合”は実験廃棄だって、言って……」
「……母さんも、友達も……鎖で……僕は、逃げたんじゃない、逃げさせられた……」
最後の言葉は、かすれた声で紡がれた。
美香は拳を強く握りしめ、言葉を絞り出す。
「……許せない……」
作戦会議が始まる。
作戦室の大きな机に、研究所の簡易構造図が並べられた。
中央に立つ影丸が、指で要点を示す。
「突入は、今夜、深夜。警備が手薄になる“北の倉庫ゲート”から潜入する」
「加賀が室田当主の直属部隊使えるのは残り3つ。どこかで遭遇する可能性は高い。油断するな」
影丸は、メンバーの顔を順に見る。
「行くのは、美香、ことは、迅、そして俺の4人。
――鬼蔵、夜人、京介、お前らは本部で待機・警護だ」
夜人が一歩前に出て頷く。
「私はここから、研究所内部を探知し続けます。
動きがあれば、迅の端末に即座に転送する」
「サポートは任せた」と影丸が応じる。
京介は面倒くさそうに目を細めたが、「了解」と短く答え、
鬼蔵は烈火をちらりと見て「こっちはまかせろ」と力強く言った。
美香はそのやりとりを見て、深く息を吸い込む。
「……行こう。絶対に……助けるんだ、リツの皆を」
会議が終わると、それぞれが静かに準備へと動き出した。
迅は気だるげに装備の調整をしながらも、バックアップの設定に余念がない。
ことはは一人、屋上で型の確認をしながら、夜空を見上げていた。
美香は父・浩一郎のもとを訪れ、静かに抱きしめられて出発の覚悟を決める。
深夜は、すぐそこまで迫っていた――。