静かなる闘志
美香が黒鉄を打ち倒した直後、ふらりと体を揺らし──そのまま、地面に崩れ落ちた。
「美香!」
影丸が駆け寄る。呼びかけにも応じず、彼女の意識は戻らない。
「……っ、浩一郎に見せるしかない!」
焦りを抱えたまま、美香の体を背負い、影丸は走り出した。
──同じ頃。
「……やべえな、こりゃ」
迅が苦笑いを浮かべながら、裂けた烈火の左腕を押さえていた。止まらない血、青ざめる顔。
「浩一郎に見せねぇとマジで死ぬぞ、お前」
「……すまん……」
そのまま、迅も烈火を抱えて走り出した。
「……なんて状態だ……」
浩一郎は一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに手袋をはめて、淡々と処置を始めた。
影丸は静かに、美香を寝かせて様子を見守る。
浩一郎が魔丸の副作用を中和し、特殊な薬を打ち、治癒の力を全開に解放する。
「……大丈夫だ。美香は、ただ気を失っているだけだ」
その言葉に、影丸は大きく息をついた。
続いて烈火の処置。傷は深く、左腕は完全に破損していた。
「腕は……もう元には戻らないかもしれない。けど、命は助かる。……絶対に、助けてやる」
浩一郎の手が、再び動いた。
やがて、烈火の呼吸が落ち着き始めた。
それから数時間──。
美香は、薄く目を開けた。最初はぼんやりと、やがて焦点が定まってくる。
「……お父さん?……ここは……」
「目を覚ましたか。大丈夫か?」浩一郎が微笑む。
「うん……。でも……!」
目を覚ました美香の記憶が蘇る。
リツ一族が──拉致された。自分は倒れていただけで、何もできなかった。
「……悔しい……! 私が……もっと強かったら……!」
その拳が、震えていた。
「影丸さん……私、加賀の研究所に乗り込みたい。リツ一族を助けたい……!お願い、連れて行って!」
その言葉に、影丸がうなずいた。
「……俺も、そのつもりだ。加賀の野郎は、許さない。……一緒に行こう、美香」
「ありがとう……!」
浩一郎は目を伏せたまま口を開く。
「だが、烈火は……腕を失っている。今の状態では戦わせるわけにはいかない。俺も、こいつの治療に残らせてくれ」
「……わかりました」
影丸が指を鳴らす。
「なら、俺たちで行く。……あの“ヨシカゲ隊”だけが知っている、旧本部に向かおう。加賀の研究所の近くだ。そこを拠点に作戦を立てる」
「ヨシカゲ隊の……本部……」美香は小さくつぶやいた。
影丸は静かに微笑んだ。
「お前ら、少しだけ身体を休めとけ。次が、最後の戦いになるかもしれねぇからな」
焚き火の音。夜風。沈黙。
それぞれが、戦いの痛みと悔しさを抱え、ただ炎を見つめていた。
リツ一族の少年・蒼真も、ことはの傍に静かに座っていた。
やがて──新たなる戦いへの鼓動が、静かに始まろうとしていた。